【アニメ考察】転職クエストを分析する—『俺だけレベルアップな件』11話【2024冬アニメ】

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●原作
DUBU(REDICE STUDIO)、Chugong、h-goon(D&C MEDIA 発行)

●スタッフ
監督:中重俊祐/シリーズ構成:木村暢/キャラクターデザイン:須藤智子/サブキャラクターデザイン:古住千秋/モンスターデザイン:徳田大貴/プロップデザイン:白石創太郎/アクションディレクター:菅野芳弘/キーアニメータ―:鳥居貴史・丸山大勝・橋元快斗・中川肇/美術監督:奥村泰浩/色彩設計:中野尚美/撮影監督:井関大智/CG監督:森岡俊宇/モーショングラフィックス:大城丈宗(Production I.G)/編集:近藤勇二/音響監督:田中亮/音楽:澤野弘之

・11話スタッフ
脚本:木村暢/絵コンテ・演出:菊池貴行/総作画監督:古住千秋/作画監督:武佐友紀子・石川愛理・阿部安佳里・佐藤愛架・川辺雄介・諸葛子敬・劉泉・田辺孝明/作画監督協力:二瓶令暁・中尾彩香・五十嵐友美・森雅貴・日向晴香・堀 光明・石塚空良/アクション作画監督:丸山大勝

制作会社:A-1 Pictures

●キャラクター&キャスト
水篠旬:坂泰斗/諸菱賢太:中村源太/水篠葵:三川華月/向坂雫:上田麗奈/最上真:平川大輔/白川大虎:東地宏樹/後藤清臣:銀河万丈/犬飼晃:古川慎

公式サイト:TVアニメ「俺だけレベルアップな件」公式サイト (sololeveling-anime.net)
公式X(Twitter):アニメ『俺だけレベルアップな件』公式 (@sololeveling_pr) / X (twitter.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 2024秋アニメ放送中の『俺だけレベルアップな件』(以下、『俺レベ』)は、韓国のウェブサイト「カカオページ」で公開された同名小説を原作とする。日本では、マンガ・小説アプリの「ピッコマ」で公開されている。アニメーション制作をA-1 Pictures、監督を『女神寮の寮母くん。』以来、監督二作品目の中重俊祐が担当する。

 「ゲート」と呼ばれる異世界への入り口が、出現するようになった世界で、超常的な能力に覚醒した「ハンター」たちが、ゲートへ潜り、ゲートを封鎖し、およびモンスター討伐の対価を得て日々生活している。そうした世界で、主人公の水篠旬は、ハンターの最低ランク、E級ハンターである。しかし、彼が遭遇した二重ダンジョンで、能力の再覚醒を遂げ、タイトルの通り、一度覚醒したハンターは成長しない、という常識から逸脱して、彼は成長をしていく。

 あらすじを一見する限り、本作は、「主人公最強」ものに見える。が、本作の見どころは、主人公の突出して有利な設定から主人公を最強にして得られる爽快感の一辺倒ではない。制作を担当するA-1 Picturesの確かな絵力は旬の活躍を映像から盛り上げ、旬の置かれた状況に張り巡らされた思惑は、視聴者を先の展開へ引き付け、彼の活躍に期待を煽る。そうした相乗効果の中で、「主人公最強」は演出される。こうした相乗効果の部分で本作の魅力が、いかんなく発揮されたのは、11話「A Knight Who Defends an Empty Throne」だった。

 最終回目前の11話では、前回手に入れた「転職クエスト」に旬が挑む。『俺レべ』の魅力がいかんなく発揮された11話を、息つく暇もないアクション、挿話を入れる構成、期待を煽る戦闘構成・挿話、三点から語っていきたい。

 

息つく暇もないアクション 

 一つ目に、戦闘のアクションである。11話の最も目に留まる見どころと言っても過言ではない。転職クエストのダンジョン登場のエフェクトに始まり、玉座の間を守る雑魚モンスターから玉座を守るボスモンスターの騎士イグリット、そして、転職クエスト本番となる大量の雑魚モンスターとの戦闘へ中断を挟みつつ、シーンは繋がれる。

 雑魚キャラたちとの戦闘でも垣間見えるが、圧巻はおそらくボスモンスターだろう、イグリットとの戦闘だ。スピード感・パワー両者が、相反することなく画面に作画の力がみなぎる。一つ例を挙げるなら、イグリットの攻撃を受け止めた旬の主観ショットがかなり印象深い。切羽詰まりながら相手を見据え、受け止める攻撃の連続が、超近距離で見られ、迫力がある。

 こうした一連のイグリットとの攻撃は、縦横無尽に動き、飛び跳ね、剣をふるい、受け止め、こぶしで語り合う、作画が飛び出す。一連のアクションを、極小の大きさで捉えるロングショットから至近距離のクローズアップまで巧みに、ショットを操作する(特にロングショット)。だが、この動きの演出は、作画一辺倒ではなく、構成にも依る。まず、本作の戦闘が三段階に分けられていることだ。本編のアクションが、全編にわたり続くのではなく、雑魚モンスターとの戦闘・ボスモンスター(イグリット)戦・さらには転職クエスト本番の大量の雑魚モンスター戦が展開されることになる。こうした、モンスター側ごとに、フェーズが設定されることでアクションに多様となり、アクション続きの食傷から味変してくれる。この雑魚モンスター・ボスモンスター(イグリット)・大量の雑魚モンスター戦へという構成は、アクションをその時ごとでの最高潮に楽しませてくれる。

 また、こうした味編の構成は、アクションの配置だけではない。11話では、アクションの合間に、別の視点を多々挿入している。これもアクション続きの食傷を避けるとともに、息つく暇もないアクションの狭間に、深呼吸させる時間を与えてくれ、視聴者を物語・次なるアクションに引き込む手助けをしてくれる。

 

話を入れる構成

 二つ目に、戦闘の合間に挿話が入る構成である。

 旬と各モンスターとの生死を分ける戦いの中、映像の凄みが加わったアクションに視聴者に息つく暇もない。そうした切迫した状況の中、11話では小休止とばかりに、同時刻の異なる場所の挿話が入る。挿話で映るのは、表舞台にいる他のハンターのカナン島作戦という表立った行動、逆に裏側で暗躍する諸菱家の家族会議、旬の妹が夜食を作る日常生活だ。簡潔な挿話により、アクションの熱を程よく取り除いてくれる。

 また、アクションへの小休止と同時に、挿話を見ることで視聴者は、同時刻・異なる場所で起こる出来事を映すことによって、隔絶された転職クエストを受ける旬と彼の外部を取り囲む現実とのつながりを意識することになる。現在進行しつつある、彼の戦闘・アクションを、彼だけのダンジョンの外にある現実の側から意味付けすることができる。

 たびたび言葉にされてきたカナン島が物語に関与してくる。危険な状況の前に、凄腕のハンターたちが集められる。現在の旬がどこまで太刀打ちできるのか、と思う。また、諸菱建設の家族会議では、旬と組む諸菱賢太の父と兄が登場する。諸菱が旬にかける期待のセリフは、そのまま彼の「転職クエスト」攻略を観る、視聴者の目にも加算される。そして、彼は病気の母と高校生の妹のために、難関のダンジョンであれ、死ぬことはできない。

 こうした挿話は、アクションを遮る挿話であるのでなく、息もつかせぬアクションを観る視聴者に、前シーンのアクションを反芻し、次シーンのアクションに備える時間を作ってくれる。そして、その合間の時間に、同時刻の状況を映すことにより、隔絶された旬と外の世界の事情を接続して、彼の孤独な戦いに意味を与えてくれる。

 

期待を煽る戦闘構成・挿話

 三つ目に、先の展開への期待を持たせてくれる。

 「転職クエスト」の戦闘では、雑魚モンスター・ボスモンスター(イグリット)・大量の雑魚モンスターの順に戦闘シーンが構築される。雑魚モンスターとの戦闘で現在の力量を示して、その力量を越えるボスモンスター(イグリット)をギリギリ打ち倒し、彼の能力が無効化され雑魚モンスターに囲まれる絶体絶命のピンチで、11話は終わる。展開を次話へ持ち越す常套的な終わりだが、この三段階の戦闘の構成により、絶体絶命のピンチが引き立てられる。

 本作の吸引力は、「転職クエスト」の戦闘部分だけでなく、挿話にもある。この挿話は、二つ目で言及したように旬が真っただ中の戦闘を意味づけると同時に、旬の転職クエストの合間に挟まれることで、この転職クエストをクリアし成長した(するだろう)旬が、これらの挿話にどういった形で組み込まれていくのか、という期待を生んでいる。カナン島作戦に絡むのか、その作戦のハンターに肩を並べられるのか、諸菱とギルド設立までこぎつけるのか、諸菱家で名前だけ出た右京との対峙はどうなるのか、そして、家族を守ることができるのか。こうした期待の結末が見られるそのときこそ、旬が能力を隠したE級ハンターではなく、晴れて実力を見せるときととなり、周到に準備を整えられた「主人公最強」が見られる。

 

 

 まとめれば、死と隣り合わせのダンジョン、モンスター(やハンター)との戦闘をA-1 Picturesの確かな作画とアクション・アクションと挿話の構成に支えられ、かつ物語への求心力を保つのと同時に、期待を煽りながら「主人公最強」の場を着々と準備していくところに、『俺レべ』の魅力があるのだろう。

 最後に、『俺レべ』11話から、『俺レべ』の魅力を取り出すなら、『俺レべ』は「主人公最強」という点も魅力に思える。ただ、単に「主人公最強」で爽快感を得られるからではない。物語の構成(脚本)と映像が合わさり、丁寧に「主人公最強」できる場を整え、適切な場で「主人公最強」できそうだからである。こうしたシーンを、次話(12話)、まだ決定していないが、もしあれば2期にも期待したい。