【アニメ考察】瞬きの瞬間を享受する—『葬送のフリーレン』【2023秋アニメ~2024冬アニメ】

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

 

  youtu.be●原作
山田鐘人・アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館週刊少年サンデー」連載中)

●スタッフ
監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香・山﨑絵美・とだま。・長坂慶太・亀澤蘭・松村佳子・高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵/3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二

制作会社:マッドハウス

●キャラクター&キャスト
フリーレン:種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司/クヴァール:安元洋貴/フランメ
田中敦子/クラフト:子安武人

公式サイト:アニメ『葬送のフリーレン』公式サイト (frieren-anime.jp)
公式Twitter『葬送のフリーレン』アニメ公式 (@Anime_Frieren) / X (twitter.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 勇者一行として、魔王討伐を果たした魔法使いのフリーレン。彼女と弟子の魔法使いフェルン、戦士のシュタルクの三人は、「魂の眠る地」オレオールを目指して旅をする。彼女たちの旅はまだ途中だが、『葬送のフリーレン』(以下、『フリーレン』)は28話放送終了した。

 魔王死後の世界で、気ままに旅する絶妙な緩さ、未だ残る脅威である魔族・魔物との戦いに宿るスリルが旅を彩る。そうした旅の物語である。

 

『フリーレン』の時間と瞬き

 彼らの旅の物語『フリーレン』の軸を、「時間」というモチーフが構成する。「時間」のモチーフは、作中に、エルフと人間の寿命差・時間感覚のずれ、時間(時代)経過の効果(影響)*1や回想の語りとして積極的に取り入れられる。また、「時間」に関して、エルフたちは印象的なセリフを残す。フリーレンの流星群・街への滞在時間へのセリフ、大魔法使いゼーリエが人間の代表としてフランメを評したセリフ、など。こうした、時間や時間感覚については、11話で一度取り上げた。

nichcha-0925.hatenablog.com

 

 この「時間」という観点で、『フリーレン』を眺めたときに、控えめにこのモチーフを支える存在が見えてくる。それは「瞬き」である。その登場は、それこそ瞬間でしかないが、『フリーレン』が持つ「緩さ」からくるゆったりした時間を作り出し、そして、何よりも、瞬きは画面に映え、自然と視線が吸い込まれる。

 とはいえ、本作で瞬きは、本作の重要なシーンで、例えば衝撃的なシーンを前に、登場人物の驚き・動揺がスローモーションの瞬きを通して描かれる、とかそうした使われ方はしていない。登場人物の顔、特にフリーレンの顔のクローズアップで、ごくごく一般的な仕方で瞬きする画面が現れるだけだ。

 顔を捉えてから瞬きする動きを画面に入れる、いや瞬きするときまで、いわばカメラが待ってくれているにも見える。そうした余裕が、本作の持つ「緩さ」=ゆったりした空気と合う。

 もちろん、瞬きを描く、すなわち登場人物が生物である以上行う生理現象を描くことによって、登場人物が生きていると感じさせる効果もある。と同時に、文字通り瞬間ではあるが、登場人物が瞬きする時間に視聴者も参加でき、より強いリアリティを感じることができる。

 

際立つ瞬きと瞬間の魅力

 視聴者が瞬きを見るとき、登場人物の瞬きを画面が待ち、その時間を視聴者も共有する。さらに、瞬きは身体の動きの中で際立たせられて、特にフリーレンにおいて、実に魅力的に映る。

 本作に特徴的なのは、登場人物の動作に連動させず、登場人物の顔をクローズアップで映した中で、登場人物が一度瞬きすることだ。ポイントは三点、連動させない、顔のクローズアップ、一度、である。

 「連動させない」とは、瞬きを登場人物の動作に連動させないことによって、瞬きが他の動作の付随動作ではなく、単純な瞬きだと見せることを意味する。「顔のクローズアップ」は文字通り、顔のクローズアップにより、顔面の動きに注目させることを示す。何度も瞬きを重ね不自然にでしゃばることなく、「一度」で、その瞬間の厚みを表現しきる。何よりも、一度で十分な仕掛けがある。

 上では、この瞬きについて、フリーレンに顕著と書いた。というのも、一度で十分な仕掛けについて、フリーレンの二つの特徴から瞬きが際立って見えるからだ。

 一つに、目の造形である。くっきりして描きこまれたまつ毛は、丸みを帯びず、切れ長に伸びていく。それでいて、デフォルトの瞳は、柔らかな円を形作る。同じエルフのゼーリエも、似た目の造形をしているが、ゼーリエの瞳に比して、フリーレンの瞳は大きい。そのため、登場人物上、映える目の造形をしている。まず、映える目の造形が、視聴者の目を惹く。さらに、縦横に広い目がぱちくりと瞬く。その瞬間は、なお一層、目を惹く。

 もう一つは、表情の乏しさ(薄さ)である。フリーレンは、感情の変化を、表情に出すことをほとんどしない。あるいは、表情に出ていても、薄められている。表情が薄いイコール、全体的印象(=ある感情)で顔を把握されにくく、顔の動きに注目を逃さず集めやすい。フリーレンの映える目の造形が、視聴者の視線を集め、大きな表情変化なくよそ見をさせず、何の気なさげに瞬きする。そうすると、自動的に視聴者は瞬きに見とれる算段だ。

 

 

 ここまでをまとめれば、『フリーレン』を構成する一つの軸、時間に瞬きが絡み、その瞬きによりどのように時間が映され、また、フリーレンの目の造形・表情の乏しさ(薄さ)により、フリーレンの瞬きが際立って見え、その瞬きの瞬間の魅力を述べてきた。目パチと呼ばれる瞬きも、上記してきた『フリーレン』の状況とアニメの動きが合わさって、細部の動きであれ、動くことに意味や魅力が生まれる。

 こうした細部、それも瞬間の美しさで、これだけ語ることができるのは、日常描写・自然描写の細部を大切に積み上げることで、登場人物たちの感情や物語を立ち上げる、本作のスタンスに由来するだろう。今回取り上げたのは、瞬きだけ、それもフリーレンのみである。こうした細かな気の利いた表現が、まだまだ眠っているはずだ。テレビアニメが一区切りついたとはいえ、この空気にいつまでも浸っていたく、また新たな発見を期待させ、観る側に簡単には一区切りをつけさせない快作だ。

 

*1:この点、具体的には魔法や魔法使いの能力について語られる。魔法については、ゾルトラークという単純な攻撃魔法から周囲の物を利用する現代魔法への変遷の歴史が語られたり、ゾルトラークを封印して、封印中の時代経過の効果をフリーレンが話すなどしている。また、魔法使いの能力も、魔力量は生きた時間に比例する世界観だったり、それでも古い時代から生きる長寿のエルフを越えていくのは、新しい時代の人間とフリーレン・ゼーリエ間でやり取りされている。