【アニメ考察】フリーレン信仰心を知る―『葬送のフリーレン』11話【2023秋アニメ】

© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

 

  youtu.be●原作
山田鐘人・アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館週刊少年サンデー」連載中)

●スタッフ
監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香・山﨑絵美・とだま。・長坂慶太・亀澤蘭・松村佳子・高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵/3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二

・11話スタッフ
脚本:鈴木智尋/絵コンテ:斎藤圭一郎/演出:松井健人・藤井邦雄/作画監督:吉川真一/総作画監督:長澤礼子

制作会社:マッドハウス

●キャラクター&キャスト
フリーレン:種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司/クヴァール:安元洋貴/フランメ
田中敦子/クラフト:子安武人

公式サイト:アニメ『葬送のフリーレン』公式サイト (frieren-anime.jp)
公式Twitter『葬送のフリーレン』アニメ公式 (@Anime_Frieren) / X (twitter.com)

 

 

※この考察は、『葬送のフリーレン』11話のネタバレを含みます。

 

 

概要

 魔王直属の「七崩賢」アウラを倒して、平穏が戻ってきたフリーレン一行。アウラにより不死の配下とされた騎士たちを弔い、グラナト伯爵に見送られて、三人は北側諸国に向けて出発する。出発してすぐ吹雪に呑まれ、彼らの旅路は一旦中断する。

 一行は、先に山小屋へ避難していたエルフのクラフトと出会う。フリーレンは、彼との出会いを通じて、女神様への信仰、女神様を信仰するクラフト・フェルン・ハイターのことを知る。一旦エルフであるクラフトの信仰心を経由して、フリーレンの側から、フェルン・ハイターのことを理解させるのがうまい。早速、見ていこう。

 

エルフの時間感覚

 エルフのため長寿命であるフリーレンは、パーティを組む人間たちと時間感覚がずれている。このエルフの時間感覚が元手になって、フリーレンが女神様への信仰を理解可能になる。クラフトが登場してから、彼とフリーレンのエルフが中心に話が進む。

 フリーレン・クラフト・フェルンの三人が、物資を取りに行った際、お互いの来歴を語り合う。フェルンが、勇者一行の魔法使いだと、フリーレンを紹介するが、クラフトはそのことを知らない。加えて、「その前は?」とフリーレンに問う。人間とパーティを組むエルフには、たいてい「その前」がある。人間よりもエルフの方が、寿命がずっと長いからだ。そのことを、クラフトはフリーレンに、ごく当たり前に問いかけているのだ。

 フェルンはこの問いを聞き、意図を「ん?」と問うて、クラフトに聞き返している。一人の人間と二人のエルフの構図は、エルフが中心となっている一つの事例である。

 続いて、四人が山小屋で、過ごした日々が映る。そこで、食事のショットを挟んでリズムが作られる。食事のショットはリズムを作るだけでなく、山小屋生活での変化を簡潔に表している。最初、食前に祈っていたのは、信仰心を持つフェルンとクラフトのみだった。その傍らで、フリーレンとシュタルクは食物に手を付けている。その次の食事のショットでは、二人に合わせてシュタルクも手を合わせているが、フリーレンはまた、一人で食事を開始している。最後に、四人が食前の祈りを捧げているショットで、この山小屋での生活風景が締めくくられる。フェルン・クラフト二人の祈りが、シュタルク・フリーレンにも伝播する、何とも微笑ましいショットにつながれている。

『葬送のフリーレン』11話より
© 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

 ここで注目したいのは、このすぐ後に、フリーレンとクラフトが話すシーンである。この会話シーンで、山小屋で生活し始めてから、半年経過した事実が、クラフトの「もうすぐで半年になるなあ」との発言で、淡々と明かされる。半年が、わずか数ショットで、あっさりと過ぎ去ってしまう。視聴者視点では、半年の月日が一瞬で過ぎ去った感覚を覚えるが、かえってエルフ視点での半年の時間感覚を的確に拾い上げている。この時間感覚の表現が、エルフが中心になっている二つ目の事例である。

 

エルフ式信仰心

 話を二人の会話シーンに戻す。このシーンで、クラフトがフリーレンに女神様を信じているかと問う。仲間を理解する手掛かりになる、信仰の話が出てくる。フリーレンが言うには、天地創造以来、女神様はこの地に姿を現していない。そして、彼女も長期間生きてきて、女神様をその目で見ることはなかった。このように、女神様を信じない理由を、フリーレンはクラフトに語る。

 それに対して、「女神様が実在するか、しないか」というフリーレンの視点とは別の視点から、クラフトは女神様を信じている理由を語る。彼が女神様を信じている理由は、女神様を信じたい、女神様がいてほしいと思う心である。彼はエルフである。他種族よりも寿命が長く、周囲にいる知り合いが、いつも先にこの世を去ってしまう。そのため、年を重ねるごとに、「彼がどのように生き、何をしたのか」、要するに「彼の生きた証」を知る者はいなくなっていく。また、同種のエルフは、数がめっきりと減少し、出会うこともまれである。そのような状況で、彼の「生きた証」をしっかり覚えていて、そのことを褒めてくれる存在は、この世にそうそう存在しない。そんなとき、もし女神様がいれば、「彼の生きた証」も知っていてくれ、その功績を褒めてくれるだろう。そうした訳で、死後に、彼は女神様に会って、自分の行いを褒めてもらいたい、そしてそのためにもぜひ女神様にいてほしい、と彼が女神様を信じる理由を話す。

 女神様を信じていないフリーレンのため、女神様の代わりに「褒めてやろう」とフリーレンの行いを話すよう促す。そして、フリーレンは、昔に似た話をした、ハイターとの記憶を思い返す。呼応して、シーンは彼女の回想へと移行していく。その回想と回想前後のやり取りを踏まえると、ハイターと言葉を交わした言葉や言葉に宿る感情を、当時とは違った風に捉えなおしているように見える。

 

類推する信仰心

 回想のハイターは、孤児院設立のために、寄付をしたところらしい。フリーレンが、ハイターがそんなことをするとは思わなかったと指摘している。その返答で語られるのは、ハイターが女神様を信じる信仰心の一端である。善行をして、女神様がいる天国に行くと、彼は女神様から褒めてもらえると。彼はクラフトと同じ話の流れで、フリーレンに「褒めてくれる人はいますか?女神様を信じていなければ私が褒めます」と話す。フリーレンが魔力を制御していることに話は移り、魔力制御にかかる並々ならぬ努力に、称賛を送っている。フリーレンはハイターとの一幕を思い出し、頬をほころばせる。

 ここで思い返すのは、フェルン・クラフトに合わせて、まずはシュタルク、次にフリーレンが、食前の祈りをし始めたことだ。この次のショットで、フリーレンが、女神様を信じていないと発言していたため、この祈りは、熱心に祈る二人、そしてシュタルクに続いただけだったように見える。言うなれば、信仰というよりも、友好・社交である。

 しかし、クラフトから聞いた女神様を信仰する理由、いやむしろ信仰したい理由、そしてクラフトと似たことを話したハイターの記憶を通して、フリーレンは女神様への信仰を知る。過去の彼女は、ハイターの言葉にピンと来ていなかったが、エルフ式の女神様を信じる理由に触れて、回想する彼女は、彼の信じる気持ちを知っている。

 女神様を信じるかは置いておいて、フリーレンは信仰心を知った。そのことによって、フリーレンは、かつてハイターが話したこと・考えていたことを捉えなおし、そして今彼の教えで信仰を続けるフェルンのことを改めて知ることができた。

 彼女は、同じエルフであるクラフトの信仰心に触れることで、かつての仲間、今ともに旅をする仲間のことを改めて知ることになった。

 

まとめ

 十一話で印象的なのは、回想から戻った後、木漏れ日の差す方向をフリーレンが見つめるショットである。木漏れ日は、柔らかにフリーレンを包み込んでいる。彼女自身、先ほど言っていたように、女神様を信じていないし、信仰心は持っていない。しかし、彼女は祝福を受けていたことに気づく。祝福とは、その生・行いを褒められることである。この柔らかな光は、彼女が受けている祝福が具現化したもののように思える。そこまで、読み込んでも、ばちは当たらない気がする。

 

 こうして、11話のBパートを見てきた。山小屋で出会ったエルフと過ごし、エルフ(=フリーレン)は、エルフ式の信仰心を知り、そのことを基に、かつて似たことを話した人間の僧侶、その弟子のことを改めて知ることになった。エルフが、エルフ式の信仰心を基に、人間のことを知る、とは実に奇妙な構図だ。だが、11話Bパートでは、その奇妙な構図を、エルフの時間感覚を、セリフ・映像面からも押出し、視聴者にもエルフの視点を共有することで、おもしろい試みであり、エルフが人間を理解する道筋を、リアリティのあるものにする、演出に仕上がっていた。