【アニメ考察】『夜クラ』の「クラゲ」的演出―『夜のクラゲは泳げない』1話【2024春アニメ】

『夜クラ』1話から
©JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会

 

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●スタッフ
原作:JELEE/監督:竹下良平/シリーズ構成・脚本:屋久ユウキ/キャラクター原案:popman3580/キャラクターデザイン:谷口淳一郎/サブキャラクターデザイン:中島千明・朱里/衣装デザイン:葛原詩乃・長澤翔子/プロップデザイン:服部未夢/総作画監督谷口淳一郎・豊田暁子・鈴木明日香/メインアニメーター:太田慎之介・Saurabh Singh・中尾和麻/劇中イラスト原案:はむねずこ/美術監督:金子雄司/美術設定:平澤晃弘/色彩設計:石黒けい/撮影監督:桒野貴文/編集:木村佳史子/音響監督:木村絵理子/音楽:横山克/音楽制作:キングレコード

制作会社:動画工房

●キャラクター&キャスト
光月まひる伊藤美来/山ノ内花音:高橋李依/渡瀬キウイ:富田美憂/高梨・キム・アヌーク・めい:島袋美由利/みー子:上坂すみれ/瀬藤メロ:岡咲美保/柳桃子:首藤志奈/鈴村あかり:天城サリー/光月佳歩:松浦愛弓/美音:安済知佳/亜璃恵瑠:東山奈央/小春:瀬戸麻沙美/雪音:甲斐田裕子/保奈美店長:椎名へきる

公式サイト:オリジナルTVアニメーション「夜のクラゲは泳げない」公式サイト (yorukura-anime.com)
公式X(Twitter):『夜のクラゲは泳げない』Official (@yorukura_anime) / X (twitter.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 2024年春アニメの『夜のクラゲは泳げない』(以下、『夜クラ』)は、オリジナルアニメーションである。制作は、『【推しの子】』の動画工房、監督はWEBアニメ『放課後のブレス』、テレビアニメ『エロマンガ先生』の竹下良平が担当する。

 語るべきことは多くないが、あらすじは以下。かつて、イラストレーターとして活動するも、イラストレーターを引退したまひる。そして、アイドルグループのメンバーへ暴力騒ぎで炎上し、アイドルを引退するも、覆面シンガーソングライターとして活動を続ける花音。二人が出会い、新たな可能性に進みだすのが、『夜クラ』一話の大筋だった。

 『夜クラ』を語るにあたって、「クラゲ」に関する引用からまず始めてみよう。

クラゲってさ、自分では泳げないし、輝くこともできないけど、外から光をため込んだら、自分でも輝けるようになるの。だから、私も、私も、花音ちゃんのそばにいたら、輝けるかな。

(『夜クラ』1話、22分50秒~のまひるのセリフから)

これは、一話の終わりに、主人公の光月まひるが、手を引く山ノ内花音に言いきったセリフである。花音との出会い、彼女がまひるの絵のファンだったことに、まひるは心動かされ、覆面シンガーの花音とタッグを組む決心から出たセリフだった。何者かになりたいけれども、何者かになる自信はない、そのようなまひるの他動性あふれつつも、彼女の変わりたいという意思が出たセリフだった。そして、この他動性こそが、『夜クラ』一話、あるいは本作を彩る演出の方向性なのではないだろうか。

 この流れに乗ってくるのが、先ほどの「クラゲ」である。まひるが他動性の象徴とする「クラゲ」にちなんだ、『夜クラ』の世界を見せてくれる。

 

クラゲ的演出=他動的演出

 登場人物を動かすこと、とは別の映像と音による効果が他動的と呼べるなら、『夜クラ』一話は、そうした他動的なものが、本作をおもしろくしているといえるだろう。登場人物を含めた被写体とは別のところで、カメラワーク、色、音で見てみたい。

 一つ目にカメラワーク。本作では、大小含めて、多くのカメラワークが使われている。カメラワークは、作画でも作られるが、ここでは作画ではないカメラワークに言及したい。例えば、振り向くときのカメラワーク(11分47秒~11分52秒)。花音がまひる側に振り向く際、振り向きとは逆からのパンにより、振り向きの体感速度が上昇する。スピード感は被写体外から与えられる。もう一つカメラワーク。歩道橋上で、花音の曲を聞く際、一つイヤホンを分け合って、二人は音に耳を傾ける。そのとき、カメラはまひるの差すイヤホンの片方から花音の差すイヤホンの片方へ、イヤホンの線を伝う。二人で一つのイヤホンを分け合う様が、見まがうことのないように描かれる。後に断線する二人の繋がりを、カメラが丁寧になぞっていく。

 二つ目に、背景や人物を囲う色である。まひるが自身の壁画を消したくなった過去の出来事を、オレンジ色を使って、現在から過去へシームレスに移行させる(06分10秒~06分45秒)*1。オレンジ色が差す、高架下からその高架下を通って、そのままオレンジ色をまとって、過去のまひるとその友人が現れる。過去のまひるは自分の壁画を紹介しようとするも、友人に心ない言葉を浴びせられてしまう。劇中とは無関係な色を取っ掛かりにして、現在から過去へと移るシームレスな移行によって、壁画の出来事が現在進行形のトラウマであることが印象づく。

現在から回想へ(『夜クラ』1話より)
©JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会
回想から現在へ(『夜クラ』1話より)
©JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会

背景を人物に晒す、という仕方で、色を利用することもある(21分05秒~21分15秒)。真ん中に半透明なまひるが画面の中央に居て、そこに複数の回想が流れていく。まひるのコスプレが薄色のコスプレゆえ、まひるの姿が回想の色に染まって見える。過去の色味を彼女の内に定着させる。

『夜クラ』1話から 
©JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会

 最後に、音楽。一話内、最終的に二人が意気投合するのは、まひるの壁画前で、二度目に出会うところである。一度、二人は路上ライブを止める。二人が話し始めたとき、音楽や歌声は止まっている。このとき、二人の姿しか画面に映っておらず、二人の私的な話が、公的な場なのか、それとも二人だけの場で話されているのか分からない状態に置かれる。話が少し進むと、先ほどより低ボリュームで音楽が始まり、二人だけの間で会話が交わされていることが分かる。緊張感からの閉鎖空間の確認、その状態から閉鎖空間を打ち破って、花音は借りたアコギ携え、仮面を被り、ライブを始める(18分35秒~20分30秒)。音だけで、緊張感を醸し出し、閉鎖空間とそこからの脱出を描き出す。そうして、意気投合して、二人で手を取り合うラストへ突き進んでいく。

 

 まひるのセリフ、「クラゲ」というキーワードをフックに、気になった演出を列挙してきた。二人の姿に動きを付けて、二人の関係性をカメラワークでなぞったり、まひるの現在を過去とシームレスにつなげて外から色を与え、二人の間にある音が、二人の世界を作り出す。

 

まとめ

 『夜クラ』一話の演出を、クラゲ的演出と飛び地的に言及してきた。

 夜の渋谷に出没する少女たちが、物語の主軸となる『夜クラ』は、今後他の二人がどう絡んでくるのか、どう見せるのか気になるところである。

 

 と締めたいところだが、本ブログで「クラゲ」に関した演出に絞ってきた。最後に個人的にお好きな演出を一つ挙げて締めたい。

 お辞儀するときに、合わせられた二人のお辞儀の角度。まひるがまず傾けて、それに花音がまひるに合わせて体を傾ける。二人が仲良くなりつつある状態が、「花音がまひるに合わせる」仕方で、表される。このとき、花音に合わせて、まひるが目を見開く変化がつけられているのもよい*2

『夜クラ』1話から
©JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会

 花音がまひるを手を取って走る、ことに象徴される二人の関係性が、こうした登場人物たちがどう動くか、という演技の演出レベルで、積み上げられていた。こういった視点も、『夜クラ』を見ていく中で、注目してもよいのではないだろうか。

 

*1:オレンジ色で回想と現在をシームレスに行き来していると指摘したのだが、シームレスさに貢献するのは、色以外にも重要な点はある。

 現在から回想の場合、一枚目画像から二枚目の画像へのパン、三枚目カットのフレームイン・体で隠すフレームアウトとピント送り、三枚目から四枚目のアクションつなぎで大胆に回想に入り込む。これらが合わさって、うまく違和感なく現在から回想を連続したものとして見せられる。

 回想から現在の場合、同構図と異なった「隠し方」の回想と現在を、手のオーバーラップでつなぐ。

*2:いったん、花音に合わせてまひるの表情が変化すること自体よいのだが、このよさの根本的な理由は、なぜまひるが表情を変えるのか、という問いの答えにかかっているように思える。ここでの会話を引用してみる。

花音 「まあ、いろいろあって」

まひる「いろいろ?ひょっとして、業務用冷蔵庫にでも入った?」

花音 「ははは、何それ、なわけないでしょ」

まひる「ですよねー」

(『夜クラ』1話、11分35秒~の花音とまひるの会話から)

「何それ」のセリフで、花音は体を傾けている。そのため、まひるの表情変化は、まひるが炎上をにおわす冗談で、まひるが笑ったことに対して向けられているわけではない。そもそもまひるが冗談を言っているから。かといって、「何それ、なわけないでしょ」の突込みに驚いたわけでもない。

 じゃあ、残りまひるが表情を変えた原因で考えられるのは、一つは花音がまひるに違和感を与える表情をしていた、もう一つは、花音がまひるに合わせて、傾いて話す行動自体の二つである。前者の花音の表情は、次ショットでかろうじて映っている程度で、どんな表情だったかはっきりとはわからない。後者の花音の行動自体も、確かに距離が近づいてはいるが、それがまひるの驚く程度だったかは決定しきれない。

 とはいえ、そこの余地が、「よさ」に思える。まひるが何かに反応していることで、このシーンや二人が豊かな内容を付与してくれる。そして、それがよい。