【アニメ考察】浮遊するアイドルと地についた上官との出会い—『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』

©1984 BIGWEST

 

●スタッフ
監督:石黒昇河森正治/ストーリー構成:河森正治/脚本:富田祐弘/キャラクターデザイン:美樹本晴彦/プロダクションデザイン:宮武一貴作画監督美樹本晴彦板野一郎平野俊弘美術監督:宮前光春/撮影監督:橋本和典/音響監督:本田保則/編集:三木幸子/音楽:羽田健太郎

原作:スタジオぬえ
制作会社:竜の子プロダクション(現タツノコプロ)

●キャラクター&キャスト
一条輝長谷有洋リン・ミンメイ飯島真理/早瀬未沙:土井美加

公式サイト:超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか - MACROSS PORTAL マクロスポータル(公式)
公式X(Twitter):「マクロス」公式アカウント (@macrossD) / X (twitter.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』は、テレビアニメシリーズ『超時空要塞マクロス』を再構築し、1984年劇場公開された今なお残る古典的アニメの一作品と言われる作品だ。

 時代は、宇宙戦争が起こるような時代。男のゼントラーディ、女のメルトランディが宇宙で戦争を続けており、その影響が地球にまで広がり、人類は宇宙戦艦マクロスに乗り、宇宙へ飛び立つ。ゼントラーディ、メルトランディ、人類の三つ巴で、幾度もの衝突を経て、三者の祖先文明であるプロトカルチャーの流行歌を、アイドルのリン・ミンメイが歌い上げ、ついにゼントラーディ・メルトランディの戦意を喪失させ、主人公の一条輝は敵の親玉を討ち取ることに成功する。

 以上のような、輝たちパイロットが搭乗するバルキリーでの戦闘、挿入歌にもなるリン・ミンメイの歌は、本作を楽しむ醍醐味の一つであるが、こうした宇宙での戦闘とそこに絡む歌のストーリーと並行して、輝、ミンメイ、そして輝の上官早瀬未沙との三角関係の恋愛模様も、見どころの一つである。

 三角関係の恋愛模様は、他二要素、バルキリーでの戦闘・バトルアクション、リンメイの歌、に比べて迫力に欠けるのだが、繊細で細かな演出に富み見どころが多い。それに、本作の中盤の展開を支え、観客の興味をストーリーから引くのは、この三角関係の恋愛模様である。この恋愛模様を、輝と二人の出会いを中心にして追いかけてみたい

 

アイドルと上官の出会い

 輝が出会う二人のヒロインとは、アイドルのミンメイと上官の美沙である。一方のアイドルのミンメイは、親の反対を振り切り、家を飛び出して歌手になる。屈託なく、自由な女性である。他方で、上官の美沙は、マクロスの優秀な司令官で、職務に忠実で、クールな大人の女性である。タイプが異なる二人の女性との出会いが、異なった描かれ方がなされている。輝の浮き立つ夢のようなアイドルとの出会いを浮動感に任せて描き、これからを共に生きたいと感じた上官との出会いを現実感たっぷりの演出で描き出す。

 

無重力なアイドルとの出会い

 輝とミンメイの出会いは、衝撃的なものだった。ゼントラーディマクロスを襲撃し、マクロス内部へ侵入してしまう。その状況に輝は現場へ駆けつける。マクロス襲撃により、マクロスは損傷し、重力制御装置が故障してしまう。その場に居合わせたミンメイは、真っ逆さまに落下してしまうも、輝が彼女を間一髪のところで救出する。ここでは、ピンチに駆けつけるというだけでも、輝はミンメイのヒーローたりえるのだが、スローモーションを利用して、バルキリーの加速を強調し、バルキリー、輝のヒロイックな姿をより映えさせる。

 二人は艦内の閉鎖された空間で、助けが来るのを待っていた。この時間が二人の仲を育む。二人の間を包むのは、無重力状態である。地に足を着かず、浮遊する様子が見ていて心地よいし、助けてすぐにサインをもらうほどのファンだった輝の心持を表象しているようでもある。

 さらに、決定的なのが、二人のキスシーンである。輝の問いに答えて、ミンメイはキスの演技をしてみせる。そのとき、この無重力の状態を存分に使って、キスシーンを構築し、後続シーンへつなげる。ミンメイが無重力を利用して輝の元へ滑り、彼女を受け止めた輝も、その勢いをそのまま後方に動いていく。ミンメイから輝へ力が伝わるのと同時に、彼女から唇が重ね合わされる。その後、二人の様子が、記者陣に見つけられるに至る。マクロスの破壊に騒然とする記者とは対照的に、抱き合いながら、ゆっくりと降りてくる二人の姿は、幻想的に飾られる。二人の出会いは、夢のようでもあり、幻想的でもある。無重力がこれを演出し、ここでできたスキャンダルは、二人の次の逢瀬のスリルを準備する。

 後日、二人は秘密の逢瀬を果たす。夜の街を遊び歩く様子が映る。音楽とともに、幾重もの場面が淡々と流れていく。二人の関係値が高められるにせよ、あっさりと過ぎていく。そして、二人は無断でバルキリーを飛ばし、夜の土星を楽しむ。こうして、後日の逢瀬は、スキャンダルに隠れ、無断のバルキリーで飛び立つなどスリルに満ちたものとして描かれる。

 輝とミンメイが親密になる過程は、ヒロイックな救出劇、アイドルとの夢の出会いを包み込む無重力、一瞬に過ぎ去っていく幻想的な夜、無断の土星遊覧、などの出来事を通過し、二人の出会いや逢瀬を夢のようであり、スリルに満ちて彩られている。しかし、輝と彼女の恋物語は、土星遊覧後にゼントラーディの介入により、切断されてしまう。この切断を機に、登場してくるのが、上官の美沙である。

 

荒れ地についた上官との出会い(直し)

 輝と上官の美沙の初めての出会いは、厳密には本作では存在しない。劇中始めから二人は上官と部下の関係だった。しかし、二人は、お互いを知りなおすという出会い直しの機会を得る。出会い直しという出会いを経て、輝はミンメイとの夢のような日々を過去として、二人は惹かれ合うことになる。

 二人の出会いは、輝とミンメイが出会い過ごした日々のような、スリル・ドラマチックさ・夢のような雰囲気はない。二人が出会うのは、ゼントラーディの捕虜から逃げ出し、不時着した地球で過ごす過酷な日々において、である。マクロスが飛び立った地球が、人っ子一人見当たらない荒野になり果てており、絶望感漂う。それでも、輝は何とか生きて、マクロスへ帰ろうとするし、美沙が故郷の地球が荒れ果て、絶望に暮れるところを、生きて帰るよう鼓舞する。

 二人の出会いは、こうした極限状態だった。美沙は、地球の現状にショックを受け、普段見せない弱さをさらけ出してしまう。逆に、輝は何とか生き延びて、マクロスへ帰ろうと強い意志を示す。二人は、いつもの毅然とした上官の美沙・反抗的な部下の輝とは異なった、新たな一面を発見する。

 そして、何よりも二人の関係性を象徴するのが、古代文明「プロトカルチャー」の遺跡を発見し、その中で美沙が食器を見つけ、食事をするふりをお互いにする一連のシーンだ。食器を洗い出し、輝を呼び、空の食器でままごとのように、食事をする。突如、美沙はヒステリックに泣き崩れる。続けて、「帰りたい」と呟く彼女と輝は彼女を抱き、口づけを交わす。こうして、二人はマクロスの迎えが到着し、マクロスに帰ることができる。マクロスへ帰還した後、街のスクリーンに映るミンメイを二人で見て、輝は二者択一の解答を、確信をもって言葉にする。

 輝と美沙の二人は極限状態で、お互いの新たな一面を見せあい、出会い直しを果たす。そこでは、荒野を背景にしてただ生きていくことを励まし合う。そして、進展を示す二人のキスシーンも、引いたロングショットで飾り気なく映され、それにより、寄り添う二人の姿が、地球の荒野とプロトカルチャーの住居とをバックに、食器の置かれた食卓に前にして、溶け込んでいく。そこには、荒廃した世界と生活感が奇妙に入り混じった。そこにこそ、これからを一緒に生きていたいという輝の思いが重みを増してくる。

 

まとめ

 ミンメイとは夢のような出会いとスリルある逢瀬を過ごし、美沙とは荒廃した地球で、新たな一面を見せ合って出会い直し、荒廃しながらも生活感に溶け込む。三角関係の見どころは、以上で触れた出会いのシーンだけで完結しない。ミンメイが、ゼントラーディの捕虜からマクロスへ帰ってきて、三角関係のもろさは表出してくる。記者会見上で三人が意味ありげな視線を向け合う前哨戦があり、三人が輝の部屋で鉢合わせ、お互いの感情を言い合う本戦が繰り広げられる。そうして、この恋の決着に合わせて、恋破れたミンメイは、輝に鼓舞され歌を歌い続け、ゼントラーディ・メルトランディとの戦いに貢献し、輝は敵の親玉を破り、この戦いに終止符を打つ。物語は幕を閉じる。

 

 

 以上で、『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』を構成する三要素の一つ、三角関係の恋愛模様を中心に拾い上げてきた。この一観点から本作全体について少し触れながら、本ブログ一行目で書いた「今なお残る古典的アニメの一作品と言われる作品」を「今なお残る古典的アニメの一作品である」と言いなおしたい。

 本作で見てきた二人の女性との出会いに根差す価値観、あるいは登場人物たちが話す価値観、本作に底流するテーマの男対女の構図などは、こうして観ると、現代から古臭く感じる部分も少なくない。しかし、作品に流れる価値観が古いというからと言って、作品全体を切って捨てるのはもったいない。本ブログで触れたように、アイドルと上官との出会いを、単純化すれば「夢と現実」の形で見せる見せ方には、現代でも目を見張るものがある。そのことは、表現される価値観に、共感するかしないかは無関係である。そうした意味で、本作はいつの時代で見ても楽しめる作品になっており、アニメの古典になっていると言える。

 そして、ここでは三角関係の恋愛模様にしか触れられなかったが、バルキリーのバトルアクション、歌、さらには圧倒的物量の三者宇宙戦争、など見どころはまだまだたくさんある。先ほどは一面から、「アニメの古典になっていると言える」と断言したが、こうした見どころがたくさんあり、何度でも視聴したくなる、懐の大きさも本作が古典と言えるゆえんである。そうは言っても本作を「今観るべき」かどうかはわからない。だが、確実に言えるのは、「今観てもおもしろい」作品であることだ。そして、何よりも長年続く「マクロス」シリーズを、手軽に見られるところも本作のよいところだ。