【アニメ考察】ループ令嬢と敵国皇子の馴れ初め合い―『ルプなな』2話【2024冬アニメ】

©雨川透子・オーバーラップ/ループ7回目製作委員会

 

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●原作
雨川透子『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』(オーバーラップノベルスf刊)

●スタッフ

原作コミック
監督:いわたかずや/シリーズ構成:待田堂子/キャラクターデザイン:大貫健一
サブキャラクターデザイン:吉田和香子・田中穣・芝田千紗/ドレスデザイン:長森佳容/プロップデザイン:杉村友和/メインアニメーター:井上英紀・今西亨/色彩設計:中村千穂/美術監督:小木曽宣久/美術設定:滝沢麻菜美・多田周平・伊良波理沙/美術ボード:金井眞悟/背景美術:草薙/3DCGディレクター:広沢範光/3DCG制作:オーラスタジオ/撮影監督:魚山真志/編集:新居和弘/音響監督:森下広人/音響効果:八十正太/音響制作:ダックスプロダクション/音楽:宝野聡史・葛西竜之介/音楽制作:ポニーキャニオン/音楽制作協力:アップドリーム

・2話スタッフ
脚本:待田堂子/絵コンテ:いわたかずや・大原実/演出:吉川志我津/総作画監督:吉田和香子/作画監督:芝田千紗・斉藤準一・泉坂つかさ

制作会社:スタジオKAI & HORNETS

●キャラクター&キャスト
リーシェ・イルムガルド・ヴェルツナー:長谷川育美/アルノルト・ハイン:島﨑信長/テオドール・オーギュスト・ハイン:伊瀬茉莉也/オリヴァー・ラウレンツ・フリートハイム:土岐隼一/ケイン・タリー:立花慎之介/ミシェル・エヴァン:小野大輔/カイル・モーガンクレヴァリー福原かつみ

公式サイト:TVアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」公式サイト (7th-timeloop.com)
公式X(Twitter):TVアニメ『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』公式 (@7th_timeloop) / X (twitter.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 本作でまず語るべきあらすじは、タイトルに記されている。「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」(以下、タイトルを『ルプなな』と呼ぶ)物語だ。一話では、主人公、リーシェ・イルムガルド・ヴェルツナーが、過去にループした六回の人生が彼女の口から語られ、続く七回目のループで、ループする彼女を殺す戦争を引き起こした張本人、アルノルト・ハインに求婚されるという急展開を迎える。そして、二話へと至る。

 二話の見どころは、この求婚、ひいては二人の恋の行方である。二話では、リーシェが求婚を受け、最後にはかつて宿敵だったアルノルトの言葉に、照れを見せるまでに至る。展開的には、二人の恋路が一歩進む話数となる。

 以上を踏まえて、『ルプなな』二話の演出を見ていきたい。二話が、いかなる演出をもって、リーシェがアルノルドになびくよい雰囲気を作り出しながら、さらには七回目ものループをしたと思えない、リーシェのいじらしさを見せるのか。

 

緊迫感を溶かすショットと構図

 リーシェは、六回目の転生時に、アルノルトの剣に殺されている。それまでの転生でも、彼が引き起こした戦争によって、戦死し転生していた。そのため、彼女にとって、アルノルトは宿敵であり、快くは思っていない。そして、突然に婚約を申し出てきたから、疑いの眼差しを向けている。

 ただ、その疑いから二人の間に、常に緊迫感が漂うわけではない。彼女は何度も転生を繰り返しており、アルノルトに対しても、お気楽な心持ちを保っている。その気楽さが、二人の間の雰囲気をよくする方向へ進む。宿敵のアルノルトに対する不審がありながらも、リーシェの転生者としての気楽さによって、二人の間に和やかな、よい雰囲気が生まれる。この点、リーシェのセリフだけでなく、画面作りの段階から感じさせてくれる。

 例えば、二話冒頭に、リーシェとアルノルトの二人で室内に移動し、話をするシーン。机の中央に位置するランプを画面手前に置き、望遠レンズにより距離間が圧縮され、二人が近い距離感に座っているように、二人のカットバックが映る。

 

『ルプなな』2話より ©雨川透子・オーバーラップ/ループ7回目製作委員会

 

 しかし、この緊迫感は、机を横から収めた、次のロングショットで、二人の距離が間延びするような遠さと判明し、一度弛緩させられもする。リーシェの回想と凛としたリーシェの横顔を映したのち、先ほどよりリーシェの主観に近いショットで、アルノルトをランプ越しの類似構図で映す。圧縮された近い二人の距離間とその近距離でリーシェがアルノルトに対峙するように見え、シーンに緊迫感が生まれる。

 

『ルプなな』2話より ©雨川透子・オーバーラップ/ループ7回目製作委員会

 

さらに、リーシェの「婚約してもいいけど、ぐーたらしたい」との発言により、緊迫感は一気に霧散してしまう。転生前の宿敵との対峙に緊迫感を出しつつも、転生者の彼女は「宿敵」に囚われず、「やりたいことやる」、という場違いな奔放さに帰着させる。構図、ショットサイズにより、緊迫感に段階を設定し、そこからリーシェの奔放さで、緩んだ、和やかな空気感を見せることに成功する。

 もう一つ例を挙げる。先ほどの対峙で婚約の話がまとまり、二人は馬車で移動する。ここでも、宿敵への不審と転生者のお気楽さが、剣の有無を中心にした構図・リーシェの反応といったコミカルな仕掛けと合わさり、二人の雰囲気づくりに貢献している。

 まず、座席位置は、進行方向を向いて、右奥にアルノルト、左手前にリーシェが座る。二人は対角線上に位置し、二人の距離は遠い。アルノルトの剣は、彼の隣でリーシェの正面に置かれる。

 と言った配置の中で、馬車で移動する中、あろうことか宿敵の前で、リーシェは因縁のあるこの剣を抱きながら眠ってしまう。彼女が六回目の転生で、彼女の胸を貫き致命傷を与えたのは、この剣だった。剣を抱いて、気持ちよさそうに寝てしまう。この事実を、座席奥の位置から剣越しにリーシェを映す構図を、同ポジションの構図を用いて描き出す。

 

『ルプなな』2話より ©雨川透子・オーバーラップ/ループ7回

 

剣を取ろうとしただけのアルノルトに、リーシェが起きて筋違いの反応をする様も含めて、コミカルさ、和やかな雰囲気が生まれている。

 以上で、急に婚姻を申し出てきただけでなく、因縁があるアルノルトに、リーシェが対峙する緊迫感を出しながらも、令嬢らしからぬが転生者らしいお気楽さとそのお気楽さに合った演出が、その緊迫感に付加されることによって、緊迫感が解けていくコミカルな落し所に通じている。こうして、アルノルトがリーシェへ想いを伝える雰囲気が整えられる。

 

最高のロケーションを選択する

映えの湖とお互いの一面を知る

 二話では、アルノルトは、リーシェに想いの告白を二度行う。この告白でも、告白にふさわしいタイミング・ロケーションが演出されている。

 その一度目が、馬車で移動中、馬車を襲う盗賊を片付け、湖の前で二人が語らうシーンだ。薬草を摘むリーシェの元に、アルノルトがやってきたとき、カメラは湖側から森側に向かって、二人を映す。そのため、二人を映すロングショット内で、画面下部の一部を湖、中部を草むら、上部を森の木々が占める。二人の話は進み、カットを変えていき、アルノルトが再びリーシェに惚れた旨伝えるとき、カメラは先ほどとちょうど逆側にポジション取りをする。そうすると、画面下部に二人が座る草むらが生え、中央には二人が位置し、その二人を飾るように、燦然と湖が輝く。

 

『ルプなな』2話より ©雨川透子・オーバーラップ/ループ7回目製作委員会

 

 最高のロケーションで、告白を遂げるが、よいのはロケーションだけではない。タイミングも絶好のタイミングだった。アルノルトは皇子であるにもかかわらず、臣下を庇い盗賊をさっそうと倒す。さらに、臣下それぞれについて、リーシェに語って聞かせて、臣下を大切にする、というアルノルトの意外な一面を見せる。リーシェも貴族の家柄であるのに、薬草に詳しい、という貴族らしからぬ側面を見せる。というお互いの意外な一面を知るステップを踏んで告白するへと至っている。

 この第一の湖での告白では、告白の雰囲気が最高のロケーション・絶好のタイミングから十分に作り出されていた。だが、この第一の告白では、リーシェの心は動かない。結果から見れば、湖の告白シーンが戯れなら、次のバルコニーではガチ、前者が準備なら、後者は本番と言える。というのが、アルノルトの言葉が、リーシェの心に響くのは、後者のバルコニーのシーンだからだ。

 

事実・心情を演出する

茜で立つ者と影で忍び寄る者

 こうしたロケーションで雰囲気を作る演出は、二度目の告白シーンでも力を発揮する。そして、このシーンでは、アルノルトの思いが伝わったのか、リーシェの照れを引き出してくれる。二度目のシーンは、二人がガルクハイン国へ到着し、バルコニーで物思いにふけるリーシェの元に、アルノルトがやってきてからのシーンである。

 ここでのロケーションの利用は、二段階で行われる。

 リーシェは、ガルクハイン国に住むというかつての夢を、モノローグ中にバルコニーで語りながら、夕陽に向かって物思いにふける。そこに、室内から忍び寄るように、アルノルトが現れる。先ほどの湖とは違い、公然の場で、堂々と歩み寄るのと異なり、アルノルトは彼女元へ忍んでやってくる。

 

『ルプなな』2話より ©雨川透子・オーバーラップ/ループ7回目製作委員会

 

 この忍ぶ姿は、色・場所のコントラストを用いて、視覚化される。リーシェは開かれたバルコニーで、茜の夕日に身を晒すのに対して、アルノルトは、もの暗い閉じた室内からそんな彼女の元へ、影に隠れて近づく。室内に影を用いることによって、ふれあい禁止・別居宣言通告したリーシェに元へ、アルノルトが忍び通う部分に光が当てられる。と同時に、公然と立つリーシェと忍んで彼女元へ近づくアルノルトとの間で、赤と黒で色彩の美しいコントラストが生まれている。

 

夕陽の中での照れをフレーム内に収める

 先ほどのシーンの続きで、アルノルトは室内から歩み寄り、バルコニーにいるリーシェの側に立つ。このシーンでは、巧みな同ポジションの構図と背景の夕陽を効果的に使用する。

 同ポジションの構図について。告白前後で、二つのショットが対比的なショットとなる。告白前に二人を映すショットと告白後にアルノルトが去りリーシェが取り残されているショットである。

 

『ルプなな』2話より ©雨川透子・オーバーラップ/ループ7回目製作委員会

 

前者のショットは、二人がフレーム内フレームに囲まれ、二人の物理的な距離が縮まったことが際立つ。対して、後者のショットは、同ポジションゆえ、アルノルトがバルコニーを去り、リーシェの隣に不在であることが強調される。加えて、後者は去っていくアルノルトの足を映すことで、前面に近づく足が大きくなり、バルコニーに残るリーシェの小ささを強調する。

 前者のショットで、物理的な距離が詰まったことで、精神的な距離が縮んだことを感じさせ、続く二人の会話に期待感を生じさせ、二人の雰囲気を盛り立てる。続いて、後者のショットで、言いたいことを言ったアルノルトは去り、リーシェは不意を突かれ、思わず照れ、それを隠すように小さくなる。一話から二話前半部分までの貴族の令嬢らしからぬ、勇ましい姿とは打って変わって、夕日に照らされながら、思わず宿敵に照れてしまい、その様子を隠すような、少女のようないじらしい姿を見せる。色彩・背景をうまく利用することにより、彼女の人物像と地続きであり、かつ、こうした彼女のいじらしさを、印象に残してくれる。

 

 以上で、バルコニーでの一連のシーンの演出を、影と夕陽のコントラスト、同ポジション、リーシェを染める夕陽、の三点から確認してきた。リーシェがアルノルトに照れるまでの準備をこれらの演出を用いて丁寧に描いている。

 

 

 ガルクハイン国の皇子、アルノルトは、一話でのリーシェの振る舞いにほれ込み、二話では、一度目はきらめく湖の前で、二度目は夕日に染まるバルコニーで、計二回リーシェへ婚約の意思を伝える。アルノルトとリーシェの間にある緊迫感を緩和させるリーシェのお気楽さとお気楽さに沿ったコミカルな演出で、二人の雰囲気をよくする。そうして、湖・夕陽のロケーションを利用して、雰囲気のよい告白を演出し、毅然とした態度のリーシェのいじらしさを際立たせてくれる。

 以上のことを、本ブログでは確認してきた。本作二話の巧みさは、本筋であるリーシェとアルノルトの恋路を演出するところだけではない。この恋路の間に挟まる、二話中の伏線張り、あるいは次話以降への伏線張り、新居の掃除などの説明的な描写の処理、バックグランドや抱く夢などの登場人物の描写を手際よくこなしている。物語の幹につけ、枝葉につけ、構成の巧みさが光る話数だったと言える。