【アニメ考察】トップ組と初心者組とその間—『青のオーケストラ』15話【2023夏アニメ】

© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 

  youtu.be●原作
阿久井真『青のオーケストラ』(小学館マンガワン」連載中)

●スタッフ
監督:岸誠二/シリーズ構成:柿原優子/キャラクターデザイン:森田和明/音響監督:飯田里樹/音楽:小瀬村晶/洗足学園フィルハーモニー管弦楽団(指揮:吉田 行地)

アニメーション制作:日本アニメーション
制作・著作:NHKNHKエンタープライズ日本アニメーション

・15話スタッフ
脚本:池田ゆき/絵コンテ:田中貴大/演出:前田薫平/作画監督:たかおかきいち・中野友貴・武本心

●キャラクター&キャスト
青野一:千葉翔也/佐伯直:土屋神葉/秋音律子:加隈亜衣/小桜ハル:佐藤未奈子/立花静:Lynn/山田一郎:古川慎/羽鳥葉:浅沼晋太郎/原田蒼:榎木淳弥/立石真理:小原好美/米沢千佳:前田佳織里/柴田修:福島潤/町井美月:安済知佳/高橋翼:青木瑠璃子/木村隆美:金元寿子/裾野姫子:金澤まい/滝本かよ:渕上舞/青野龍仁:置鮎龍太郎/青野の母親:斎藤千和/武田先生:金子隼人/鮎川広明:小野大輔

公式サイト:アニメ『青のオーケストラ』公式 (aooke-anime.com)
公式Twitterアニメ『青のオーケストラ』公式 (@aooke_anime) / Twitter 

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 直近の話数で、主人公の青野はコンマス候補であることを知る。同じコンマス候補である佐伯と一緒に、各パートリーダーたちが集まる「トップ練」を見学する。二人は、時にぶつかりながら、課題曲に向き合う彼らの真剣な姿を見て、自分たちもと意気込む。また、場面は変わって、初心者組の練習風景も映される。一年生初心者三人と秋音に、立花が指導する。コンクールの合奏に参加して彼女は、久しぶりに見る四人の成長ぶりに驚き、彼らの努力をツンデレ気味にほめる、思わず和むシーンだ。

 以上の概要の中で、それぞれに特徴的な演出が見られる。「トップ練」のシーンでは、コンマスと各パートリーダーの関係性・よりよい演奏へ向かうぶつかり合い、「初心者組」のシーンでは、彼らの努力と成長・彼らなりの必死さが描かれる。また、その後、肩越しショットが用いられることで、「トップ練」を目撃した青野たちの様子、青野たちの関係性が描かれる。

 

トップ練

 海幕高校では、各パートリーダーだけが集まる「トップ練」なるものが存在する。顧問の鮎川の指示で、コンマス候補の一年生二人、青野・佐伯はこの「トップ練」を見学する。各パートリーダーが集まるため、練習のレベルも高く、お互いに自分の意見をぶつけ合う様子に、青野は圧倒される。意見のぶつかり合う、各パートリーダーたち(主にはチェロとヴィオラ)と彼らをまとめるコンマスの原田の対比が際立つように、映像が構成される。そうして、そのぶつかり合って質を高める練習、ぶつかり合いをまとめるコンマス原田の力量を、見学している青野は目の当たりにする。この三点がうまく描き出される。ここでは、コンマスパートリーダーの関係、チェロとヴィオラの場面を順に見ていこう。

 

コンマスパートリーダー

 各パートリーダーからのコンマス原田への信頼感は厚い。以前までの話数で、原田へ信頼が寄せられる描写は出てくるが、演奏前のしぐさでその様子がまず表現される。原田のクローズアップ、四人に向かう原田からの肩越しショットで接いで、各パートリーダーの顔のクローズアップが映る。そこでは、原田の方に各パートリーダーが原田に目線を向けてから、自分の楽器へと目線を向ける細かい視線の動きが描かれる。彼のタイミングで演奏は始まる。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 彼のタイミングで始まった演奏は、彼の「ストップ」の掛け声で止められる。「ストップ」の前には、しっかりとその前兆も描かれる。前述した通り、パートリーダーが、原田を見てタイミングを計ってから、自分の楽器へ目を向けていた。それと同様に、一回目に演奏を止める際、彼の視線の動きが、彼の「ストップ」の合図を予告している。

 各パートリーダーが、原田から楽器へ緩やかに視線移動をしているのに対して、原田は演奏中の左方向への目線から一瞬で目元が変化し、表情も厳しいものに変わる。その直後、主に左方向に視線を向けていた原田が、正面へ視線を移動させると、カットが変わり、チェロ奏者:高橋の後方からのショットに移る。次のところで詳述するが、チェロとヴィオラのタイミングがずれている話が出てくるので、その点に原田が気付いたところが描かれる。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 このシーンでは、原田の気づきを描かれるのに加えて、もう一つ重要な点がある。それは「トップ練」の厳しさが、微妙なずれで何度も演奏を中断して、議論し合う姿勢にもあるのだが、その微妙なずれすらも、感知し指摘するコンマスの厳しさにも根差している点である。その点が、普段温厚で善良な人間の原田が、厳しい目つきになるところに現れている。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 そうして、彼の指摘は、お互いの議論、主としては走り気味チェロの高橋と遅れ気味のヴィオラの木村を中心として始まる。この議論を収めるのも、原田である。彼は自分なりの課題曲の理解、彼ら四人が初めてパートリーダーに着いた時の思い出を交えて話しながら、全員をまとめ上げる。このときには、基本的には、コンマス原田一人とパートリーダー四人が対比的に映る。

四人に叱咤する様子(『青のオーケストラ』15話より)
彼なりの課題曲理解を語る様子(『青のオーケストラ』15話より)
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 その中で、このシーンでも基本的には構図は維持され、四人に語り掛ける原田、それを聞く四人の構図が取られる。しかし、特出すべきところは、四人の構図に彼が入りこんでくるショットである。このとき彼は、第二楽章がドボルザークの郷愁が色濃く出ている部分であり、郷愁と聞いて彼が思い浮かべるのは「秋の夕暮れ」、という彼なりの考えを話す。この話が、夕暮れを思い浮かべるのが、小学校の下校チャイムの曲だったからという彼なりの経験*1であり、秋のイメージは、「チキンカツの誓い」という彼ら共通の思い出へと繋がっていく。彼の思い出は、パートリーダーたちにとっても上記二つの意味で、懐かしい曲のイメージとして各パートリーダーへ伝播し、そのイメージを基に五人が一つになる。彼がただ技術の秀でたコンマスであるのみならず、信頼されるコンマスであるゆえんが、パートリーダーの心を一つにする彼の語りとともに、四人の元へと踏み出す行為により、余すところなく表現される。

踏み出す原田(『青のオーケストラ』15話より)
『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 こうして、一つのイメージの基に、意思統一がなされ、そのイメージに向かってその日最高の演奏に到達する。そして、その様子を後輩二人へ食い入るように見つめる。

 続いて、原田以外にこの演奏に貢献した、チェロ高橋とヴィオラ木村の議論部分に言及したい。

 

チェロとヴィオラ

 走り気味の高橋と遅れ気味の木村は、演奏速度を巡って、言い合いを交わす。演奏を止めて、演奏の指摘をするのは原田だが、隣り合い・正反対の性質を見せる二人は、お互いのミスを指摘し合う。二人の言い合いは、二人の世界を作るよう構成され、反転した二人の仲の良さが垣間見える。

 言い合いが始まる直前、原田からの指摘を受けて、正面ショット、原田と対面する肩越しショットで、原田の正面ショットで繋がれる。その後、高橋の左手からのショットで、緩やかなにパンして、高橋の裏から右隣りの木村が徐々に現れてくる。高橋の走り気味に隠れて指摘されていなかった木村が、画面に徐々に現れ、高橋の走り気味をからかうと、自分の遅れ気味も原田から指摘を受ける。この話の流れ自体が、このパンにより視覚的にも見えて、おもしろい。

チェロ・ヴィオラ言い合い前(『青のオーケストラ』15話より)
パンから木村登場ショット(『青のオーケストラ』15話より)
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 また、続けて、郷愁がテーマだから「ゆっくり丁寧に」弾きたい木村とローテンポだから曲のよさが伝わるわけではないから「緩急をつけたい」高橋の議論がヒートアップしていく。ここで距離的に最も近い距離の二人が、近距離の肩越しショットから両者のクローズアップショットへ繋がっていく。彼女たちにのみ使用される、近距離でのカットバックがによって、彼女たちだけにしか作れない距離間がそこに生まれてくる。議論が最高潮に至って、二人は思わず立ち上がって、さらなる議論へ続けていく。そして、先述した原田がパートリーダーをまとめ上げるシーンへと通じる。

近距離のカットバック(『青のオーケストラ』15話より)
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション
言い合い後の演奏シーン(『青のオーケストラ』15話より)
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 以上で、「トップ練」で、彼らがよりよい演奏を目指すために、議論し、団結する様子を見てきた。そのような彼らを見つめる青野の視点については、後の章(肩越しに見る景色)で言及したい。

 

初心者組の練習

 先ほどは、海幕高校オーケストラ部の「トップ」たちを見てきたが、この15話では、その対極の「初心者組」の練習風景シーンも映る。前半で「トップ」と来て、続けて「初心者組」とくる流れもおもしろい。というのも、1stヴァイオリンで、コンマス候補の青野・佐伯には、目指す先の演奏を至るための練習を見せ、2ndヴァイオリンの立花には、目指す先の演奏に必要な土台を支える「初心者組」の練習を見させ、1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンの対比がよく聞いているからである。また、10話で秋音と衝突した立花が、米沢との会話の意味に気づくのが、このシーンである。

 ここでは、特に四人が立花の前で演奏するショットについて見ていきたい。四人で合わせたとき、立花は四人それぞれの上達に気づく。「それぞれ」のと言ったのは、後に初心者の三人と秋音でほめるポイントを変えているところにある。前者に対しては、最後まで止まらずに弾けてよかった、後者に対しては、よく弾けてたと思う、と照れながら伝える。

 このほめるポイントは、四人が演奏する姿を映すショットにも反映されていた。すなわち、立花が四人それぞれを見るショットで、秋音を映すショットでは顔より下部のヴァイオリンまで画面内に収めるが、初心者組三人の場合は、顔のみが映るクローズアップで映されている。ほめる箇所でも触れたが、秋音に対しては演奏の技術を指摘したのに対して、初心者三人に対しては最後まで弾けたことを指摘していた。そういう意味で、秋音の場合演奏の手元まで見せ、逆に初心者組三人は大きく揺れる必死な表情を見せる。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 また、立花が四人の演奏終わりに、彼女のモノローグで彼女の気づきが語られていた。「みんな少しずつ変わってきてる。そうか。こういうことか」と彼女の気づきは、この話数だけではわかりづらいが、10話での米沢のセリフを合わせると真意がわかる。一部抜粋して引用してみる。

 

努力の仕方や成長のスピードって人それぞれだし。足の速い子もいれば、遅い子だっている。大事なのはゴール目指して走り続けることだと思うよ。きっと立花さんは、足が速い子だから、みんなに走り方を教えることもできると思うんだ。

(『青のオーケストラ』10話:17:13~18:00、マラソンのくだりから)

 

彼女が「こういうことか」と気づいたのは、まさに米沢のセリフのことだ。みんなそれぞれに努力して、成長して、変わっている。そのことに気づいた彼女は、演奏の感想を話す段になって、初心者三人と秋音を分けて、ほめている。それは、三人と秋音の出発地点が異なるし、それぞれの成長速度も異なるからだ。それに彼女は、厳しさではなく、優しさを見せる。

 オーケストラの土台を支える2ndヴァイオリンにおいて、海幕高校オーケストラ部の未来には、彼女たち四人のような部員が上達し、演奏に安定性と厚みを加えることが必要不可欠である。彼女たちの速度は一人ひとり異なっていても、目指す先は同じである。その2ndヴァイオリンをまとめる彼女は、オーケストラの土台をときに厳しく、ときに優しく走り方を教えていくことを予感させる。

 とはいえ、まずは素直にほめられるところが必要かもしれないが。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 以上で、「トップ練」と「初心者組」の練習シーンを見てきた。ここで一点触れておきたいのは、このシーンで重要な気づきを得たのは、それぞれ一年生である点だ。すなわち、コンマス候補の青野・佐伯であり、立花である。1stヴァイオリン・2ndヴァイオリンそれぞれの特徴を生かしながら描かれたよいシーンだった。

 

肩越しに見る景色

 本話では、肩越しショットで映るシーンに印象的なシーンが多々あった。順にいくつか見ていきたい。

 

青野から見るトップ練

 「トップ練」は、青野・佐伯が見学する形で、その中身を見ることができる。そのため、原田たちのやり取りを、「青野(たち)が見ている」事実も、しっかりと演出されている。

 まずは、高橋・木村の議論が白熱しているシーンである。「トップ練」の厳しさを、青野と佐伯が実感しているショットである。下図の左から右へトラックバックしている。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 次に、議論の収集の付かなさにどうするのか、と思い、コンマスの原田を見つめる場面。先述した原田が、パートリーダーたちをまとめていくシーンにつながり、青野がコンマスの役割を目撃することになる部分となる。青野と原田の間に空間が空けられ、青野が原田を見ていることがわかりやすく、次に続く原田のできるコンマスぶりが強調される。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 最後に、曲のイメージが共有されて、演奏を見つめるショットである。コンマスの役割から引き出された演奏が、彼の目に焼き付けられる。先ほどの原田の強調から強調部分が「トップ」組のオーケストラへ移っている。先ほどの原田のショットに比べて、余白が少ないため、青野がどこを見ているのか判別しづらい。だが、それゆえに、彼が五人全体を見ている点を強調される。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

 主に抜粋したところを見ると、青野(たち)が「トップ練」の厳しさとコンマスの役割を目撃し、それにより演奏がよくなるところを彼らがしっかり見ている、ことがよくわかる。

 

青野から見る佐伯

 「トップ練」を見た直後に、青野が佐伯の圧倒的な演奏を聞くシーン(11:30~12:20)である。彼の最後のセリフにあるように、「トップ練」で話に出ていた、「夕暮れのにおい」が充満する。

 青野の肩越しショットが、トラックバックのカメラワークにより、彼が佐伯の演奏から影響を受けている様がよくわかる。この点、彼と佐伯が別れる階段のシーンで、対比が顕著になる。その点、後述する。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

秋音から見る青野

 青野が佐伯を見たように、秋音も青野を見ている(19:30~19:46)。しかし、そこには苦しそうにヴァイオリンを奏でる青野の姿があるのみで、「夕暮れのにおい」は充満しない。また、夕方に練習終わりの青野が、秋音が青野を見ていたのと同構図で映る(下図四枚目)。そこには、一日の練習によっては、佐伯の地点にたどり着けない、彼の変わらなさが映りこむ。

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

佐伯から見る青野

 青野と佐伯の中に亀裂を表現するショットとなる(22:00~22:20)。前に挙げた三つのシーンでは、前景の人物から後景の人物(たち)へピントが合い、パンフォーカスが取られている。しかし、このシーンでは、最初去っていく青野から残される佐伯へとピン送りが取られている。このおかげで、お互いの顔のクローズアップが映った後、去っていく青野と残される佐伯の断裂感が、視覚的に表現される。

 また特に、青野から見る佐伯のシーンが佐伯から青野への影響がトラックバックで表現されていたのに対して、青野から佐伯のへのピン送りとなっている。連続性がある影響関係から関係性の亀裂という連続性が薄れた状況が、ピン送りにより表現される。

 

『青のオーケストラ』15話より
© 阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

終わりに

 以上で、「トップ練」、「初心者組」の練習、お互いを見る「肩越しショット」を見てきた。それぞれが、それぞれの部分で、もがき苦しんで、よりよい音、演奏を生み出そうとしていることが、伝わってくる。その中で、コンマスの力・ぶつかり合う議論・少しずつの努力・成長の苦しみなど様々な要素が、二つ和音を担当する楽器を中心に、散りばめられた。トップ練のまとまりもそうだが、ヴァイオリンの1stと2ndがうまく組み込まれて、今までの話数の中でも、特にソロではない、オーケストラの側面が出ていたように思えた。

 そういった意味で、本話はオーケストラの魅力が詰まった話数であった。

 

その他、『青のオーケストラ』2話・12話については、下記の記事をご参照ください。

nichcha-0925.hatenablog.com

 

nichcha-0925.hatenablog.com

 

*1:この小学校の下校チャイムの話をする原田を映すショットが、おそらく高橋の主観ショット(本文下画像)であり、この原田の思い出語りに対して、一番に返答するのが高橋という流れはとてもよい。走り気味を指摘され、演奏方針に最も意見していた高橋が、思い出のレベルで曲のイメージが合致して、そこから意識が統一されていくのはきれいな構成である。

 また、「あの日感じたにおいや景色を音にしたい。ごめんね、ちょっとふわっとしたイメージだし、伝わっているかわからないけど」の原田のセリフに、08:07~のシーンで、高橋が「伝わったよ」と返事するのも、同様によい。