【アニメ考察】2023年夏アニメ演出いろいろ『ホリミヤ-piece-』、『無職転生Ⅱ』、『アンファル』【2023夏アニメ】

ⒸHERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX-「ホリミヤ-piece-」製作委員会

 

概要

 本ブログでは、三作品、『ホリミヤ-piece-』6話、『無職転生 Ⅱ ~異世界行ったら本気だす~』(以下『無職転生Ⅱ』)7話、『アンデッドガール・マーダーファルス』(以下『アンファル』)5話、の中で気になった演出について、触れていきたい。

 

 

※この考察は上記三作品のネタバレを含みます。

 

ホリミヤ』6話_寒さの中の恋模様

・6話スタッフ
脚本:平林佐和子/絵コンテ:黒木美幸/演出:小野勝吾・碇由衣/総作画監督飯塚晴子・髙田晃/作画監督:牛尾優衣・伊藤香織・阿久澤友恵/作画監督補佐:橘由美子
制作会社:CloverWorks

公式サイト:TVアニメ「ホリミヤ -piece-」公式サイト (horimiya-anime.com)
公式TwitterTVアニメ「ホリミヤ -piece-」公式 (@horimiya_anime) / X (twitter.com)

 甘酸っぱい恋愛模様と風変りの人物たちが繰り広げる青春物語が『ホリミヤ-piece-』である。その中でも、六話で描かれた仙石翔と綾崎レミの下校模様(13:15~16:36)は、二人の独特な性格・独特な関係性を描きながら、しっかり二人の恋愛関係も描き出す演出は必見である。

 

 6話の前の二エピソードが比較的冬を感じさせない回だったが、このエピソードに入って、数ショットで冬を到来させる。寒さで太ももをこすり合わせるしぐさ、指を息で温めるしぐさ、赤くなった指先が冬を強く冬を感じさせる。また、登場人物たちの動作からのみでなく、合間合間に雪のショットを挿入することで、寒さという登場人物の実感を補強する。そうして、寒いけど丈の短いスカート、寒いけど早く家に帰りたくないなど、寒さにまつわるレミのいじらしさを表現してくれる。

ホリミヤ-piece-』6話より
ⒸHERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX-「ホリミヤ-piece-」製作委員会
ホリミヤ-piece-』6話より
ⒸHERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX-「ホリミヤ-piece-」製作委員会

 また、レミが仙石に「手」と言って、彼の頬に触れるやり取りでは、彼女が何となくふと思いたった様子が、彼女が右を向く動きに合わせて、密着マルチで背景の回り込みとレミの振り向きにずれを生じさせることで、明快に表現される。そうした思い付きで「手」と言って仙石の顔に冷えた手を押し当てるお茶目で、「レミはあったかーい」と走りだす不思議ちゃんらしさもありながらも、先述したように彼女の乙女らしさも前面に出てくる。

ホリミヤ-piece-』6話より
ⒸHERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX-「ホリミヤ-piece-」製作委員会

 「手」と言っても通じない仙石に、「つなぐんだよ」と怒って見せる姿に愛らしさが見える。手をつないだことに喜ぶレミ、そしてそれを見て、ぐっと手を寄せる仙石の手の動きが、彼の思いが見えるようアニメートされる。恋愛に関して大っぴらに語っていない彼の心情を表現する、彼なりの主張がそこに見える。

ホリミヤ-piece-』6話より
ⒸHERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX-「ホリミヤ-piece-」製作委員会

 今度は、ゆっくり歩くように伝えるレミが、自分の方に握った手を寄せる動きをする。彼女の発する「もっと」の前に手が引かれ、仙石・視聴者も彼女の言葉に意識を取られる。そうして引き寄せられた手を起点に、止まったレミに合わせて、仙石も足を止める。手で引き留めた彼女は、次にさっきまで繋いでいた右手をぐっと握り、意を決して「ぎゅー」と口に出す。

ホリミヤ-piece-』6話より
ⒸHERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX-「ホリミヤ-piece-」製作委員会
ホリミヤ-piece-』6話より
ⒸHERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX-「ホリミヤ-piece-」製作委員会

 先ほどの仙石のショットも合わせて、「手」が何かの起点に見える。相手の注意を引き、停止の動作を促す。また、仙石・レミの心情を描写する。「手」と発した意図は通じず、「ぎゅー」は通じるちぐはぐな二人の会話(?)の中で、手だけのやり取りで、視聴者に登場人物たちの心情を伝える演出は、おもしろく感じた。

 

 ハグを要求するレミは、彼に呼びかけられ、路上ハグに成功する。彼らの姿を、音により描き出される。

 レミから仙石へハグする際には、ムードからずれた抜けた効果音が付き、BGMの低調なロングトーンが流れる。そこから一度二人が離れ、仙石からハグをしたときには、再度BGMがかかり始めその場を盛り上げる。だがそれとは逆に、BGMに消え入るように、二人から漏れる声がかすかに聞こえる。BGMの盛り上げによりシーンとして劇的さを付け加え、BGMに消え入りそうな声が、ハグした二人の反応のリアルさを生む。一回目のハグを含め、相乗効果を生む優れた演出だった。

ホリミヤ-piece-』6話より
ⒸHERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX-「ホリミヤ-piece-」製作委員会
ホリミヤ-piece-』6話より
ⒸHERO・萩原ダイスケ/SQUARE ENIX-「ホリミヤ-piece-」製作委員会

 こうして、二人の恋愛からレミ・仙石と河野桜のエピソードへ移っていく。

 

無職転生Ⅱ』7話_弟子のアクションは師匠の鏡

・7話スタッフ
脚本:大野敏哉/絵コンテ・演出:渋谷亮介/作画監督:山﨑匠馬・世良コータ・二宮奈那子・五十子忍・山村俊了

制作会社:スタジオバインド

公式サイト:TVアニメ「無職転生 ~異世界行ったら本気だす」公式サイト (mushokutensei.jp)
公式Twitter『無職転生 Ⅱ ~異世界行ったら本気だす~』TVアニメ公式 (@mushokutensei_A) / X (twitter.com)

 テレビアニメ一期で、悲壮な別れを経験したルーデウスは、母を探す旅の中で、徐々に元気を取り戻し、本来の母を探す旅にまい進していく。その中で、母を見つかったこと、ラノア魔法大学から推薦状が届いたこともあり、旅を中断し、彼はラノア魔法大学へ入学することを決める。前話では、一期で出会ったザノバの人形を作るため、ドワーフの奴隷を買い、彼女ジュリエットを弟子とした。

 7話では、過去にルーデウスからザノバに与えられたロキシー像が、リニアーナ・デドルディア、プルセナ・アドルディアの二人の獣族に破壊されたことをルーデウスは知る。彼女たちにロキシー像破壊の制裁を加えるのが、本話の大まかなあらすじである。

 ここで見ていきたいのは、ロキシー像が破壊されたことを知ったルーデウスの反応を見るジュリエット・ザノバの反応、また二人の獣族を捕らえ問い詰める様を見る二人の反応である。特に、ルーデウスに詰問され、その怒りを真正面から見るザノバではなく、二人の間を動くジュリエットの反応である。彼女の動きは、愛らしく描かれるのみならず、彼女(+ザノバ)の動きにより、ルーデウスの怒りの感情を表現し、その怒りに奥行きが生まれる。

 ザノバとジュリエットは、ルーデウスの弟子であり、兄弟子のザノバ、妹弟子のジュリエットの関係である。二人は人形作りを学び、ジュリエットはそのために、無詠唱魔法をルーデウスから学ぶ。その二人が、師匠の怒りを初めて見る。彼らは忠実な弟子として、ルーデウスの怒りを受け止め、そのリアクションでもって師匠の怒りを鏡のように表現する。

 ジュリエットは、静かに怒るルーデウスを前に、そっとその場を離れ、ザノバの後方へ移動する。すたすたとあどけない足取りながらも、焦って目的地へ急ぐ。

無職転生Ⅱ』7話より
©理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生Ⅱ」製作委員会

ルーデウスが、ジュリエットの前方にいるザノバに距離を詰めてくると、またジュリエットは彼の後方から逃避していく。そのタイミングを見計らうかのように、ルーデウスがザノバにもっと詰め寄り、ザノバは恐れのままに、ジュリエットが元いたであろう後方へ、倒れこむ。

無職転生Ⅱ』7話より
©理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生Ⅱ」製作委員会

倒れこんで泣き崩れるザノバの元にまたもや、ジュリエットがフレーム外からやってきて、頭をなでて彼を慰めている。状況が状況だが、なんともほほえましい光景である。 

無職転生Ⅱ』7話より
©理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生Ⅱ」製作委員会

直後のショットでは、ザノバに向かってルーデウスが近づいているはずなのに、構図の妙で、ジュリエットだけが驚いているように見えるのもおもしろい。次ショットで、ルーデウスの視点になれば、ザノバの姿も映り、弟子が二人しておびえている様子が見える。

無職転生Ⅱ』7話より
©理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生Ⅱ」製作委員会

こうして、師匠の怒りを見たジュリエットは、二人を捕らえる作戦に加担し、ルーデウス・ザノバが狂信者のごとく信仰を叫ぶのに共鳴して、彼女も小さな腕を振る。師匠・兄弟子・妹弟子の奇妙な一体感が見える。(この一体感は、二人の獣族を捕縛するときにも映し出される)

無職転生Ⅱ』7話より
©理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生Ⅱ」製作委員会

 ジュリエットという弟子の鏡を通して、主人公のルーデウスの静かだが激しい怒りを表現しながら、何よりもその過程でジュリエットの愛らしさを表現したスタッフの演出力には脱帽である。

 

『アンファル』5話_「見ること」のいくつか

・5話スタッフ
脚本:小中千昭/絵コンテ:畠山守/演出:木村佳嗣/作画監督:河村明夫・鎌田均・池津寿恵・吉岡勝・関口紫織

制作会社:ラパントラック

公式サイト:TVアニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』公式サイト (undeadgirl.jp)
公式TwitterTVアニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』公式 (@undeadgirl_PR) / X (twitter.com)

 不老不死と半人半鬼と小間使い(=メイド)の三人一行、「鳥籠使い」が欧州各地の怪物に関わる事件を解決していく。5話では、アルセーヌ・ルパンに狙われたフィリアス・フォッグの依頼を受ける。そこで彼らは、もう一人依頼を受けた探偵、シャーロック・ホームズと邂逅し、話は進んでいく。ここでは、OP後、「鳥籠使い」とシャーロック・ホームズ&ワトソンが警官に捕らえられた後、護送車内で会話するシーン(05:35~07:45)を見ていきたい。

 同じ依頼を引き受けた探偵同士のジャブの打ち合いが行われつつ、護送車内の狭い空間に生まれる思惑・駆け引きがうまく描き出される。

 

『アンファル』については、以下記事もご参照ください。

nichcha-0925.hatenablog.com

 

護送車内の「見ること」

 まず全体を把握するために、護送車内で行われる会話の整理を行う。ホームズが警官に警部を呼んでもらい、誤解を解こうとする。が、拒まれ、次に、鴉夜が同送される双子の被疑者(以下、双子)に推理を披露する。それに乗っかって、ホームズも双子の密輸品を解き明かす。鴉夜・津軽の情報にホームズ達・双子が言及し、車内の話題は、フォッグに届いた予告状と彼が依頼した探偵の話に移る。ここで初めて警官は気づき、ホームズ・鴉夜が丁重に自己紹介し、護送車はフォッグ宅へ行き先を変える。そして、シーンは転換される。

 以上が、今回取り上げたいシーンの概要、主には会話の内容である。狭い護送車に八人もの人物が詰め込まれている。会話に応じて、目に見えない興味・関心の矢印が所狭しと、行来している。

 このシーンは「見ること」をキーワードに見ていきたい。

 

 鴉夜が双子の容疑に言及すれば、ホームズの興味・関心が彼の眼のクローズアップショットで受けられる。そうして、彼は推理の場に参戦する。お互いの技量を争うのは、その観察眼であり、彼らの推理は見ることから始まる。鴉夜は双子の手のひらを見て、ホームズは爪先を見ている。そこから鴉夜は逮捕直前まで何かを持っていたことを推理し、ホームズはカバンに何かを入れていたことも加えて、陶器を持っていたことを推理する。この一連のやり取りで、好敵手となりうる探偵同士のジャブの打ち合いが終わりを告げる。

『アンファル』5話より
© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

 続いて、護送車内の興味の先は、不死の鴉夜・半人半鬼の津軽に向かう。彼女に言及する、ワトソンに知識を披歴するホームズの二人構図、売り飛ばせば金になると画策する双子の二人構図が出来上がり、「見る」側の彼ら四人に向き合う、「見られる」側の「鳥籠使い」という全体の構図が出来上がる。

『アンファル』5話より
© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

 そうしたのも束の間で、ルパンの予告が記事になっているのを、ワトソンが見つける。ここで新聞記事を読んでいる警官に光が当たる。しかし、その光は、光栄なスポットライトではなく、彼の失敗を照らすサーチライトである。双子が、ルパンの話題を始めたとき、そちらに目を向ける警官の目のクローズアップ、そして双子が話す様子が挟まって、警官は新聞記事に掲載されたホームズの写真に気づく様子が映し出される。

『アンファル』5話より
© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

そうして、次ショットで、初めてこのシーンにおいて、護送車全体が映る引きのショットが入る。気づいた警官は、姿勢を正し新聞紙を掲げて、食い入るように新聞紙を見ている。

 そして、人物たちの正体がわかる段階に至って、護送車内の全体が映る引きのショットが挟まれ、視聴者もこのやり取りが行われた場の全体像を知ることになる。謎に包まれた人物、護送車を包んだ状況など、護送車に充満する謎すべてが氷解していく。

『アンファル』5話より
© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

 最後には、例のごとく、『アンファル』らしく落ちが付く。警官からあえて見えるように、新聞記事に重なる形で姿勢を作り丁重な自己紹介をするホームズ、「犬小屋ではなく」ときっぱり否定する鴉夜、両者のシニカルな態度が、護送車での戯れをファルスへと変貌させる。

『アンファル』5話より
© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

津軽の穏やかな表情

 こうして、「見ること」を巡って、護送車内の思惑・探偵たちの力量が演出され、さらには最後に新聞と同じ人物が映る光景から皮肉っぽいファルスを生み出す。しかし、ここで「見ること」から遠ざかっていた人物がいた。それは津軽である。彼は、一つのショットを除いて常に目を閉じ、さらに先ほどまで対峙しようとしていた二人組、窃盗犯を前にしても、にこやかな表情で、席に腰かけている。

『アンファル』5話より © 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

 彼が目を開けているショットは、双子がホームズに密輸品を言い当てられた直後に、警官が二人を叱責するショットである。津軽は、ショットの最初正面を向いているが、警官が声を発した直後、彼の方を向いて見る。これだけのショットである。

『アンファル』5話より
© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

 ここから意味を読み取るとしたら、方向性は二つある。

 一つは、「見ない」ことに着目するなら、この護送車に存在する複数の関係性から鴉夜と津軽(+静句)の関係性を示唆してくれる。護送車にある関係は、まず探偵と助手、対等な協力関係、上司と部下、そして「鳥籠使い」の師匠と弟子(主人と従者)である。鴉夜と津軽(+静句)の関係性は、ワトソンがホームズへ口を挟む関係性でもなければ、双子の対等な関係性でもなければ、一方が他方に命令を下す関係性でもない。そうした独特な関係性が、会話・言外(興味の視線)の喧騒にもかかわらず、ほとんど微動だにせず静かに座っている様子に現れてくる。

 以上で言及した津軽が「見ない」シーンに着目したが、逆に、津軽が「見る」ショットに着目すれば、もう一つの方向性が開かれる。すなわち、彼は彼なりの興味の先を、警官を見るショットで示しているのだと。この護送車(もっと言えば護送車内)を取り仕切っているのは、彼が護送車で唯一視線を向ける警官である。そのため、警官をどうにかすれば、この状況から脱することができる。もちろん、「どうにかする」には、暴力的・非暴力的、合法的・反法的であるかは、語られていないためわからない。しかし、彼がそちらの方を見る様子が映っていることから、彼の興味がそこに向いており、その意味を上記のように推測するのも、誤りとは言えまい。したがって、彼は乗り合わせた人物たちには興味もさらさらなく、この状況を取り仕切る人物のみに、穏やかな表情で虎視眈々とチャンスを伺っていたとも推測できる。

 

 以上で、護送車内の「見ること」、津軽の「見ないこと」と「見ること」に着目してきた。本話の該当シーンは、探偵のたぐいまれな観察眼を見せ、眼を糸口に、正体の知れない人物たちのへの興味を的確に表現してくれ、最後には本作お決まりのファルスで落ちをつけてくれた。

 

終わりに

 以上で、『ホリミヤ-piece-』6話、『無職転生Ⅱ』7話、『アンファル』5話、三作品特定のシーンにフォーカスを当てて、その演出について見てきた。夏アニメも残り1か月だが、まだまだ続きが気になる作品は多い。楽しみつつ、気になる部分を発見していきたい。