【アニメ考察】三人目の誤認と主従二人羽織による笑劇<ファルス>―『アンデッドガール・マーダーファルス』2話【2023夏アニメ】

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

 

  youtu.be●原作
青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス』(講談社タイガ刊)

●スタッフ
監督:畠山守/シリーズ構成:高木登/キャラクター原案:岩本ゼロゴ/キャラクターデザイン・総作画監督:伊藤憲子/サブキャラクターデザイン・総作画監督:小園菜穂/美術監督:関口輝・佐藤理来/撮影監督:塩川智幸色彩設計:中村千穂/3Dディレクター:菅友彦/編集:松原理恵/音楽:yuma yamaguchi/音響監督:若林和弘

制作会社:ラパントラック

・2話スタッフ
脚本:高木登/絵コンテ:畠山守/演出:高野やよい/作画監督:黒灰祐誓・池津寿恵・鎌田均

●キャラクター&キャスト
輪堂鴉夜:黒沢ともよ/真打津軽八代拓/馳井静句:小市眞琴/アニー・ケルベル:鈴代紗弓ゴダール卿:木下浩之/クロード:野島裕史/ラウール:千葉翔也シャルロッテ:土師亜文/アルフレッド:西澤遼/ジゼル:深田愛衣

公式サイト:TVアニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』公式サイト (undeadgirl.jp)
公式TwitterTVアニメ『アンデッドガール・マーダーファルス』公式 (@undeadgirl_PR) / X (twitter.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 時代は、19世紀末。世界に、怪物・異形のものが存在する。そのような時代にあって、「鳥籠使い」を自称する三人の東洋人集団が、怪物専門の探偵として、欧州で名をはせる。三人の名を、不死の怪物「輪堂鴉夜(りんどうあや)」、半人半鬼「真打津軽(しんうちつがる)」、メイド「馳井静句(はせいしずく)」と言う。

 異なる目的をもった三人について語られ、三人が演じる「ファルス」を見ていこう。

 

 第二話では、人類親和派の吸血鬼が殺害され、その捜査依頼を「鳥籠使い」一行が受ける。二話は、三つに分けることができる。第一に、凶行が起きたゴダール家のシークエンス、第二に、「鳥籠使い」がゴダール家に向かい鴉夜が認識されるまでのシークエンス、第三に、鴉夜が認識されてから終わりまで捜査のシークエンスである。今回、第二・第三のシークエンスについて、見ていきたい。というのも、各々のシークエンスで、別の根多(ネタ)を用いて、本作が掲げる「ファルス」を作り上げているからだ。その根多は、第二のシークエンスでは鴉夜と静句の誤認であり、第三のシークエンスでは頭-身体であり、師匠(?)-弟子である鴉夜と津軽の二人羽織的な関係性である。本ブログでは、前者に関して御者やゴダール卿が当惑しながらも鴉夜と静句を誤認する様子を映す演出、後者に関して二人羽織的な関係性をいかに見せるか、またそこから津軽が逸脱する様子を映す演出、それぞれを確認していく。

 

2+「1」人の誤認

 第二のシークエンスは、ゴダール卿の妻が殺害され、記者からのインタビューにゴダール卿が憤慨しながら馬車で去っていくシーン続く。ゴダール卿の馬車からゴダール卿の屋敷へ向かう「鳥籠使い」一行の馬車へと、馬車を通じてショットは繋がれる。

 ここでの根多は、御者やゴダール卿たちが、鴉夜を認識できず鴉夜の声に驚き視線が惑い、彼女を探し求めた末に、当惑しながら静句と勘違いする点である。

 勘違いの元は、どこからともなく響く、鴉夜の声が彼らに聞こえることにある。視聴者は、その声が黒沢ともよの演じる鴉夜の声であり、声の主が津軽の大事に掲げ持つ鳥籠に鎮座していることを知っている。だが、御者やゴダール卿は知らない。

 御者は声がして、声の主を探すも、回答になるのは二人しか見当たらない。一人は馬車代をごねる津軽、もう一人は一言も話していないように見える静句である。彼は女性の声から声の主を静句と判断して、視線を向けるが、彼女の口元が動いていないことを知るし、リップシンクのない彼女のショットが挿入される。その際、ピン送りで御者から静句へフォーカスが移ることで、そのことに御者が気付いたことに視聴者も気づかされる。

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

 次に、ゴダール卿一家との会話シーンである。ゴダール卿も、玄関の広間で聞こえる鴉夜の声の主を探し、その主を静句だと誤認する。ここでも、静句のクローズアップが差し込まれ、リップシンクのないことが強調される。しかし、御者のシーンと共通しておもしろいのが、怪物が存在する世界で、静句が口元を動かさずに話すと思われたために、御者・ゴダール卿たちから奇異の眼が向けられるということだ。不死の怪物と半人半鬼が隣にいるにもかかわらず、人間でありその衣服から最も身分がわかりやすい彼女に、疑いの視線が向けられる。

 添付画像①11分42秒から、添付画像②は12分13秒からの一連のショット。ショットに合わせて、鴉夜の話す内容を突き合わせてみるのもおもしろい。例えば、①であれば、静句に向かって鴉夜輪堂かとゴダール卿が問い、静句のショットで鴉夜がいかにもと答える。しかし、画面に映る当の静句は口元が動く様子もなく、ゴダール卿の怪訝そうな顔へカットバックされる。また、②は話す内容と映る内容が一致しているが、話す人物と映る人物に齟齬をきたす。鴉夜が自らの体に言及するとき静句の体が俯瞰で映り、静句方向を凝視するゴダール卿のショットが挿入され、足元から顔へパンアップして静句が映される。必ず犯人を見つけると意気込む鴉夜の発言が聞こえ、アオリで自信ありげに見える静句が移り、それぞれに齟齬があるが、声と映像が意味合いは一致してくる。

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

御者よりもゴダール卿にとって、静句が鴉夜と誤認するときの困惑度は一層高い。そのため、ゴダール卿のシーンで、おかしさに拍車をかかっている。その要因は、ゴダール卿に相対する形で津軽が位置しているが、静句は玄関入り口端に控えていることであり、その様子がしっかりフレーム内に収められている。ゴダール卿が、鴉夜=探偵と思っていたが、鴉夜と誤認した静句は身なり・ふるまい・立ち位置からして、明らかに眼前の津軽という軽薄な男の従者にしか見えない。しかし、津軽以外には静句しか声の発生源は見えないから、静句=鴉夜と困惑しながら判断する。

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

 そして、これをまた裏切るのが、静句が津軽の荷物のみを落とす唐突なショットである。ここで、ゴダール卿の脳内は、さらに乱される。津軽=主人、鴉夜=探偵=従者と彼の頭は整理されたはずなのに、荷物を落とす光景を見て、その推理は瓦解する。さらに、津軽の荷物を落とした静句に対して、津軽の荷物も運ぶように指示する声が聞こえてくる。静句への指示を耳にするに至って、ゴダール卿の混乱は頂点に達する。声の主はどこにいて、鴉夜とはいったい何者なのか、と。不死で頭のみの鴉夜が登場する舞台が整う。そうして、彼女は最高度の驚愕に満ちた眼差しに迎えられ、やっとのことで二話初登場を果たす。

 

頭と体の主従二人羽織

 前述した第二のシークエンスでは、鴉夜が鳥籠の中に隠されており、御者やゴダール卿たちが、鴉夜=静句と誤認したことが根多となっていた。その際に、リップシンク・立ち位置・主人(鴉夜)-従者(静句)-旅の連れ(津軽)の関係性がうまく利用されて、表現されていた。第二のシークエンスで、津軽と手に持つ鳥籠は切り離されて、御者やゴダール卿の視野の外に置かれていた。第三のシークエンスでは、鳥籠から布の覆いが外され、鴉夜が姿を見せる。このとき、第三のシークエンスでおもしろいのが、探偵物のコンビの関係性に、異様だが新しい関係性を持ち込んでいることだ。

 その関係性とは、探偵と助手という役割分担が、そのまま頭と身体という役割分担につながっているところだ。探偵物でわかりやすい関係性は、「シャーロック・ホームズ」シリーズのホームズとワトソンの関係であったり、2022年8月から『風都探偵』としてアニメ化もした、『仮面ライダーW』の左翔太郎・フィリップの関係性である。前者は、天才であるホームズと彼のサポートをしながらも読者・視聴者と同じ立場でホームズの推理を聞くワトソンという関係性であり、後者は、実地捜査を担い、かつ「仮面ライダーW」として主に戦う翔太郎、翔太郎からの情報で推理を担当するフィリップの関係性である。要約すれば、前者が天才とそのサポート役兼聞き手(あるいは書き手・語り手)であり、後者は一方が肉体、他方が頭脳を担当する。本作の鴉夜と津軽の関係性は、後者に似ていながら、少し異なる。そこが、本作が持ち込む、異様だが新しい関係性である。

 その関係性とは単純明快で、頭部しかない鴉夜が頭、すなわち頭脳を担当し、津軽が肉体、すなわち鴉夜の身体代わりをするという関係性だ。頭脳担当が動き、見るために、肉体担当が頭脳の身体を代役する。肉体担当が、犯人の確保など、体を動かすことを担当するというだけでなく、頭脳の文字通り身体代わりになる。この点が、怪物で探偵の彼らが作る、新奇な関係性である。

 具体的なシーンを見ていくと、現場検証時、鴉夜は津軽にあれやこれやと指示を出す。「見せろ」と言えば、彼女に手があるかのように、彼女の眼前に証拠品が津軽の手を介してさらされる。このとき、津軽の姿は、必要最小限のみが映る。添付画像①が16分21秒から、②が17分20秒からのショット。

①現場写真を鴉夜に見せるシーン、椅子の下を鴉夜に見せるシーン

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

②ビンを拾って、鴉夜に見せるシーン

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

また「調べろ・見ろ」と言われれば、そのときには津軽は、鴉夜の一部であることをやめ、彼自身が椅子の背やビンを調べる。

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

一体の頭と身体のように、頭としての鴉夜からの命令に、身体としての津軽は従順に応える。だが、津軽は肉体担当でも、頭部をもった肉体であり、物言う肉体である。そのため、彼は鴉夜の命令に真っ向から背くことはないにしても、鴉夜の全くの思い通りに動くだけではない。津軽自身の意志を見せる、彼の軽口は、二人が作る一体を軽妙に逸脱して、うまいくいかない人間二人羽織のようでおもしろい。例えば、ビンを袖で拭くシーンや後述する指を立てるシーンで見られる。とはいえ、彼の軽口は、二人羽織を崩壊させるほどではない。それは、二話のラストに訪れる。話を一体感に戻そう。

 

 彼らの頭脳と身体の一体感は、頭脳と身体という役割分担だけではなく、探偵と被疑者が対峙するショットからも、表現される。添付画像①シーンでは、手前に鴉夜・津軽、奥にゴダール卿が立つ。暗い色の目立つ中、黄色に光る画面奥、その光によりうっすらとフレアの靄が画面を覆う。さらに、じわパン(アップ)のゆったりしたカメラワークが、対峙の緊張感を演出する。

 添付画像②シーンはより、対峙の側面が強調される。先ほどよりも強いフレアが画面を覆い、画面左の鴉夜・津軽から画面右にいるゴダール卿と後ろに控えるアルフレッドへパンしていく。このとき、憎い演出なのが、パンしていく途中に、ゴダール卿が映る瞬間、津軽が画面から見切れ、彼の右手と鴉夜のみが画面に残すことだ(添付画像③)。頭脳の鴉夜、彼女の身体の代役を務める津軽の手が探偵側に映り、逆に彼らが対峙する先に被疑者たるゴダール卿が位置する。添付画像①が17分3秒から、添付画像②が18分8秒からのショット。

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

 頭脳と身体である、彼ら一体が画面前面に現れるのは、最後に鴉夜が不可解な謎を七つ挙げるシーンである。ここで、彼らは、厳密には五つだが七つの謎を語る鴉夜と謎の数を指で示す津軽が、同じショットで重なるように収められる。

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

重なり一つの身体を構成するも、ここでも津軽の軽口は止まらない。鴉夜の入る鳥籠を持っているため、彼は七つ指を立てられないと言い始める。身体に邪魔をされた、鴉夜は舌を出して、足でも上げていろ、と投げやりに答える。そうして、彼女の決めシーンは、言うことを聞かない身体により、ファルスへと昇華されてしまう。

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

最後の最後で、ゴダール卿の娘シャルロッテの登場により、飛び跳ねる津軽、彼の動きに合わせて鳥籠ごと揺らされる鴉夜が丁寧に作画され、その一体化が表現される。しかし、彼がシャルロッテを怖がらせ、軽口を叩く以上に、鴉夜の全く意図しない行動を取る。意思を持った二人の分離した様子が、逆方向に傾く二人の顔が個別に映され表現される。津軽が七つ目の足を下げるのを合図に、二話「吸血鬼」に落ちが付く。

『アンデッドガール・マーダーファルス』二話より

 

終わりに

 以上で、『アンデッドガール・マーダーファルス』二話を、鴉夜と静句の誤認、言うことを聞かない身体(=津軽)を根多に、二話全体をファルスへと仕立て上げられていたことを見てきた。本作では、本ブログで記載したショット構成を中心とする演出以外にも、「鳥籠一行」三人を演じる声優の演技も本作のファルス作りに大きく貢献している。その点にも注目しながら、次話以降の推理パートも見ていきたい。