【アニメ考察】「最強タッグ」プラス「術師殺し」の不協和音―『呪術廻戦 懐玉・玉折』26話【2023夏アニメ】

『呪術廻戦 懐玉・玉折』26話より
©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

 

  youtu.be●原作
芥見下々『呪術廻戦』(集英社週刊少年ジャンプ」連載)

●スタッフ
監督:御所園翔太/シリーズ構成・脚本:瀬古浩司/キャラクターデザイン:平松禎史・小磯沙矢香/副監督:愛敬亮太/美術監督:東潤一/色彩設計:松島英子/CGIプロデューサー:淡輪雄介/3DCGディレクター:石川大輔(モンスターズエッグ)/撮影監督:伊藤哲平/編集:柳圭介/音楽:照井順政/音響監督:えびなやすのり/音響制作:dugout

制作会社:MAPPA

・26話スタッフ
絵コンテ・演出:高田陽介/作画監督:阿部楓子・山﨑絵美・高田陽介・清水裕輔・島田千裕・中西優里香・オ スミン/総作画監督:森光恵

●キャラクター&キャスト
五条悟:中村悠一/夏油傑:櫻井孝宏/家入硝子:遠藤綾/天内理子:永瀬アンナ/伏黒甚爾:子安武人

公式サイト:TVアニメ「呪術廻戦」公式サイト (jujutsukaisen.jp)
公式Twitter『呪術廻戦』アニメ公式 (@animejujutsu) / Twitter

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 25話では、歌姫の洋館探索パートから本篇の真打たる五条・夏油タッグへと話が移っていった。呪術界の結界を維持する天元様の同化先である天内理子の護衛に回ったのが、25話の終わりだった。25話を要約してしまえば、気味の悪い洋館探索ホラーを前座に、二ツ目をすっ飛ばして、真打たる最強のタッグの物語が始まる。

・25話について

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 26話では、その最強のタッグを破局へ導くだろう敵、伏黒甚爾が本格的に登場し、理子を護衛する二人の活躍と彼らを襲う刺客たちを裏から操作する甚爾が描かれる。本ブログでは、26話で本格的に、セリフが与えられ、その人となりを表し始めた伏黒を描写する演出を見ていきたい。「術師殺し」の名を持つ彼がどのような人物か、26話で描写されていたように思う。ここでは、彼を描写する演出の内、特に音の観点に着目したい。人の負の感情から生まれる呪霊が、目に見えずとも存在するのと似た形で、「術師殺し」は音を媒介に、目や意識を向けずとも、その存在を主張してくる。

 

不協和音を奏でる

削る・消耗させる

 甚爾は、呪詛師御用達の裏サイトに、理子に懸賞金をかける投稿をし、理子を護衛する五条たちに刺客を送り込む。彼の狙いは「削る」ことである。刺客を送り込み、肉体・精神的に消耗させることが狙いである。彼らに消耗の跡が残っていくように、本話で視聴者は、甚爾の印象を脳裏に残していくことになる。そのことが映像やセリフというよりも、音が使われている点で、その痕跡は無意識的で、かつ根深く、逃れようのないものとなる。彼を演出する音は、彼の介入により最強のタッグに不協和音を付け加えるように、視聴者に不快な印象植え付ける。それでは、「術師殺し」の異名を持つ彼はどのような人物か、演出からその一部分を構築してみよう。

 

効果音_いやな音

 「術師殺し」は、競艇場に姿を現す。仲介人の孔時雨と競艇を題材に、軽口を叩く。ダイナミックさを欠いた競艇の描写と舟券をひらひらと弄ぶ甚爾のしぐさが際立つ。競艇での初登場は、彼をあからさまな悪役に仕立て上げないが、孔が元気か聞いた実の息子である「恵」が頭の片隅にもない様子から風向きは変わる。

 風向きの変わりは、音に現れる。音の大事な要素は、効果音や環境音である。登場人物たちの動作に合わせて、効果音がつけられ、登場人物の動作とは別に、その場にあるべき環境音が差し込まれる。今回注目したいのは、効果音である。

 甚爾の影が徐々に見えてくるのは、彼が競艇場内の食堂に、姿を現すシーン*1からである。串肉にかぶりつき、舌なめずりする。歯で肉を挟みクチャっという弾力のある音がして、串から引き抜く際に、肉のたれが飛び散る液体の流れる音が響く。直後、競艇のアナウンス音から少しずれて、彼の舌なめずりする音が響く。甚爾から仲介人の孔へ画面が切り替わる。彼も裏サイトの画面を見ながら、PCを叩く無機質な音をカットのタイミングとずれて、不調和をきたしながら、薄暗い画面に鈍く響く。これだけでも、まだ描かれ切っていない敵の漠然としたいやな感じが醸し出される。

 響く音は、再度食堂で、甚爾が登場するシーンでも続く。孔からの電話に出ながら、席に付き、割り箸を割る小気味よい音が響く。だが、その音の小気味よさは、甚爾の右方から彼を捉えるショットで、甚爾の箸の開閉により鳴り続けるところで、孔と甚爾の会話を邪魔するように、うっとうしさへと変貌する。続いて、たこ焼きを箸でつかみ、箸で押し込み、たこ焼き潰れるぐちゃっという音とそのたこ焼きを食らう甚爾の咀嚼音が耳に残ってくる。お茶を取りに立ち上がり、サンダルを履く甚爾の足音が響く。その響きは、彼が直後に男が落としたラーメンを踏み、麺とスープがつぶれる音を際立たせる。そうして、競艇場の食堂から甚爾は立ち去り、二本の箸に刺されたたこ焼きが、穴から液状の中身が漏れ出る音が残される。

 以上で、甚爾および孔が登場するシーンの効果音を中心に見てきた。いやな感じ・不快さを作り出すために、単体で好ましくない音が採用され、またあえてその場で響く音を聞かせた後にそれに対応する不快な音を強調するなど、音に工夫が凝らしてあった。音の要素は、効果音だけではなく、BGMも大切な音の要素である。次に、甚爾に関わる部分で、BGMに触れていきたい。

 

BGM_無理やりつなげる

 BGMでわかりやすいのが、二回目に甚爾が登場するシーンで、あからさまに不穏なBGMが流れ、前述した効果音と相まって、甚爾の描写を力強く後押ししているところである。いやな効果音は、甚爾に好ましくない印象を感じさせ、BGMによってそれを増強している。

 だが、不穏なBGMよりも注目したいのが、競艇場シーンで流れるクラシックと理子が通う学園で流れる聖歌の対比である。甚爾が競艇場で、始めて登場するシーンでは、優雅なクラシックがBGMとしてかかっている。直前のシーン、「Q」の組織瓦解シーンからシーンを跨って、BGMがかかる。シーンの跨ぎにより、五条たちと彼らに襲い掛かる刺客の糸を引く甚爾のつながりを見せながら、クラシックと競艇のギャップを表し、かつBGMであることを如実に示してくれる。軽やかで優雅なBGMに合わせて、舟券を揺らす甚爾の動きも自然と優雅に見えてくる。だが、孔の去り際、彼が階段に足をかけると、BGMは徐々に音を下げ、孔の口から「恵」が出る直前に、BGMは完全に消失してしまう。そこからの音の演出は前述した通りである。

 これと対比となるのが、本編14分10秒から流れ出す聖歌である。これは、後に五条が礼拝堂に突入するシーンでわかるように、実際に作中で生徒たちが歌う聖歌がBGMとして使用されている。二つのシーンを無理やりにつなげてしまう「そこにはないBGM」と作中で実際に歌われ、ある意味順当に場所をつなげる「そこにあるBGM」と位置付けられる。この違いの演出が秀逸だが、あえてそこに意味を見いだすのなら、同じ場所で流れる聖歌でシーンがつなげられる二人には確かな繋がりがあるが、そこに相応しくないクラシックでシーンがつなげられる甚爾は、二人に忍び寄る侵略者とも読み取れる。

 

終わりに

 以上で、音を中心にして、26話で本格的に登場してきた甚爾の演出を見てきた。効果音・BGMが足並みを揃えて、甚爾を好敵手でも、最強の敵でも、最悪の敵でもなく、そこにいるだけで不快な侵略者に仕立て上げた。彼の侵攻により、今後悲劇になる予感しかしない。とはいえ、26話で輪郭が描かれた甚爾と二人がどう対峙していくかは気になるところである。

 

*1:本編8分42秒~9分10秒、9分49秒~12分18秒。