【アニメ考察】過去編の青さ満点のホラーと青春―『呪術廻戦 懐玉・玉折』25話【2023夏アニメ】

©芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

 

  youtu.be●原作
芥見下々『呪術廻戦』(集英社週刊少年ジャンプ」連載)

●スタッフ
監督:御所園翔太/シリーズ構成・脚本:瀬古浩司/キャラクターデザイン:平松禎史・小磯沙矢香/副監督:愛敬亮太/美術監督:東潤一/色彩設計:松島英子/CGIプロデューサー:淡輪雄介/3DCGディレクター:石川大輔(モンスターズエッグ)/撮影監督:伊藤哲平/編集:柳圭介/音楽:照井順政/音響監督:えびなやすのり/音響制作:dugout

制作会社:MAPPA

・25話スタッフ
絵コンテ・演出:御所園翔太/総作画監督:小磯沙矢香/作画監督:奥田哲平・矢島陽介・中山智代・三谷高史

●キャラクター&キャスト
五条悟:中村悠一/夏油傑:櫻井孝宏/家入硝子:遠藤綾/天内理子:永瀬アンナ/伏黒甚爾:子安武人

公式サイト:TVアニメ「呪術廻戦」公式サイト (jujutsukaisen.jp)
公式Twitter『呪術廻戦』アニメ公式 (@animejujutsu) / Twitter

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 2023年夏アニメの本命作品の一角が、『呪術廻戦』の二期である。豊富な呪術描写の作画や学園を大きく使った豪快なアクションがテレビアニメ一期で見られ、続く劇場版の『呪術廻戦 0』では、劇場レベルと称賛されたテレビアニメを優に超えた圧巻のバトルアクションがスクリーンに投影された。

 そして、満を持して、テレビアニメの二期が放映されている。前二作の監督朴性厚から今作が初監督となる御所園翔太へ引き継がれる。シリーズ構成・脚本、キャラクターデザイン、制作は変わらず、瀬古浩司、小磯沙矢香、MAPPAが続けて担当する。

 本作二五話では、前半十分に一期の前半を彷彿とさせる気味の悪いホラー描写が展開され、OPを境に、話の中心が「懐玉・玉折」編の主役たる五条悟・夏油傑の二人へと移される。「懐玉・玉折」編が過去編ゆえに、もう戻れない二人の「青の時代」が、予定された破局へと最後の輝きを見せる。「ホラー」から「二人の青春」へつないだ二五話を、見ていこう。

 

歌姫の洋館探索

 二五話前半は、過去の冥冥・歌姫が、洋館の調査に出かけるところから始まる。このときまだ二級術師の歌姫を中心に、彼女が歩く洋館にホラー要素を付け足している。

 

何者かの視点

 洋館に入ってから、歌姫をフレームに収めて、侵入者の様子をうかがう視点が導入される。姿を現さない敵の存在を示唆しながら、歌姫の移動ショットに緊張感を持続させる。

『呪術廻戦 懐玉・玉折』25話より

一緒に探検する

 歌姫の主観ショットも挿入される。彼女の移動とともに、背景も進み、変化していく。彼女を見ていた視聴者も、そこを歩く感覚を主観ショットで共有できる。ただ視線が共有されてもすべてが見えるわけではなく、進行方向の先にある目的地の扉が明瞭には見えない状態が保たれている。

『呪術廻戦 懐玉・玉折』25話より

扉の開け方

 扉を開けることは、出来事が起こる前の意志的行為として推測できるために、開けた後に、何らかの不吉な出来事を予感してしまう。そのため、視聴者を恐怖させようとするホラーでは、扉を開ける直前から扉を開ける行為、開けた直後までの一連の流れは重要である。二五話でも、扉を開けるシーンは、いくつかあるが、大きく分けて三つに分けられる。第一に、最初の扉を開けるシーン、第二に二番目の扉から最後から二番目の扉を開けるシーン、第三に最後の扉を開けるシーンである。手を変え品を変え、「扉を開けること」が演出される。

 

最初の扉

 最初の扉では、先ほど主観ショットのシーンでも言及したように、扉が見えないように工夫されている。歌姫が扉に近づき、扉を開けようとドアノブに手を掛けるとき、いずれも扉の様子は画面に映らない。そのため、視聴者は扉、あるいは扉の先にある出来事の情報がほぼ皆無で、扉が開けられるのを待つことになる。しかし、この扉を開けるショットでは、扉以外の情報、すなわち歌姫の情報は詰め込まれている。ドアノブ近くから歌姫をアオリで、このショットは設定される。緊張感が浮かぶ顔が最も目にしやすい画面中央上に位置し、そして画面から最も近いドアノブには丁寧に作画された手が、にゅっと伸びてきて、慎重にドアノブへ掛けられる。一本ずつ指を折っていく慎重な握り方、思い切ってドアノブを捻る動作から、視聴者が画面外で感じる緊張感は、この手を通じて、歌姫とシンクロする。

 勢いよく歌姫が扉を開けると、カットが変わる。歌姫を後ろから見下ろす形で、俯瞰ショットが取られる。歌姫の頭部のみが、映る程度の映りに抑えられているため、視聴者は扉をゆっくりと開けた歌姫と同じ緊張感で、開かれた扉の先を見ることができる。

『呪術廻戦 懐玉・玉折』25話より
決死の覚悟

 最初の扉を開けた後、歌姫は叫びを上げながら、次々に扉を開けていく。恐怖に襲われている歌姫の決死の覚悟が見えるとともに、時間をおいて恐怖を煽って扉を開けて最初の扉とは、「扉を開ける」行為に差別化が図られている。そうして、彼女の調査が一挙に終わり、最後の扉へと彼女は向かう。

『呪術廻戦 懐玉・玉折』25話より
最後の扉

 最後の扉は、「扉を開ける」行為自体はあっさりと行われる。扉、歌姫がかろうじて見えるロングショットで、歌姫はドアノブを捻り、扉を開く。その次の二ショットは最初の扉を開けたときのショットを反復している。扉を開ける行為後、歌姫後方から部屋の様子を見せる俯瞰ショット、カットバックして部屋を見回す歌姫を映すショットへと続く。

扉を開ける直前から直後
『呪術廻戦 懐玉・玉折』25話より

 変化が起きるのは、歌姫を映す同一ショット内で、彼女がベッドの下の物音に気づいてからである。腰を屈めながらゆっくりと物音の出どころに近づいていく。彼女が恐れながらも前進する様子が、屈めた腰・伸ばした手が強調される横からのショット、恐る恐るの足取りに目が行くベッド下からのアオリショット、彼女の恐れの表情が見やすいベッド上からの俯瞰ショットで、各ショットに役割分担があるかのように、ポイントを絞って子細に描き分けられる。

物音の先へ歩いていく
『呪術廻戦 懐玉・玉折』25話より

 そうして高められた彼女の緊張感、そして視聴者の緊張感は、彼女の視線がベッド下へ下がりながら、彼女の顔のショットと彼女の主観ショットが交互に入れ替わり最高潮を迎えたところで、懐中電灯内蔵の豆電球の光は、物音の元凶たるネズミを怪しげに照らし出す。ネズミが驚きベッドから飛び出すのと同時に、歌姫も驚き部屋から飛び出す。彼女は窮地を逃れたかと思ったが、恐怖は遅延してやってきたように、冥冥の手に驚き、彼女は迫真の叫びを上げる。彼女の迫真の叫びに相応うように、彼女が驚いて振り乱した髪の毛には、彼女の叫びと同程度に彼女の恐怖が現れている。

 

 以上で、前半部分のホラー展開を構成する要素をいくつか取り出してみた。他にも前半部分ではおもしろい表現が見られた。例えば、無限と化した廊下を表現するために、画面を窓枠に固定して、登場人物を何度も通らせるのは、アニメというより映像ならではの表現で面白かった。次にOP後の後半部分へ進みたい。五条たちの助けにより、冥冥・歌姫は洋館から脱出する。その直後からが後半部分に当たる。

 

「クズ共」の青の時代

対歌姫への無意識的共同戦線

 前半のホラー展開を視聴者と辿ったのは、歌姫だった。後半部分最初に、彼女から五条・夏油の二人へと主役の座は譲り渡される。ただ、二人の関係性を表現するのに、彼らは計算高くかつ奇抜に画面配置および立ち位置の配置がなされている。

 ここで詳しく見たいのは、夏油が登場した後の冥冥・五条・歌姫のショットとそのあとの歌姫の表情変化である。

『呪術廻戦 懐玉・玉折』25話より

このショットでは、画面中央に歌姫が大きく配されており、奥にいる冥冥と五条を分割している。人物を用いて空間を分割する、この川島雄三的なショットは、それ自体奇抜でおもしろいショットである以上に、配置による効果が存在する。ただ、それは川島雄三が用いたように、分割した空間それぞれに別の営みや空間を存在させたり、分割された空間へと視線運動を誘導したりすることではない*1。もっと実用的な効果である。ここでの話題の中心が、歌姫にあることに関連してくる。

 まず、この場に登場する人物の中で、表情変化が群を抜いて豊かなのは、歌姫である。このシーンにおける表情変化という現象が、歌姫からのみ現れていると言っても過言ではない。そのため、このシーンで起こる会話・出来事に対するリアクションを彼女が一身に引き受け、彼女が画面中央を陣取ることで、その変化を視聴者はよく見ることができる。

 話題の矛先という観点からは、瓦礫に沈む歌姫を五条が「泣いてる?」*2とからかい、それを夏油が「弱い者いじめはよくないよ」と諫める中にある。画面の中心にあり、話題の中心にいる歌姫に対して、五条・夏油の認識(歌姫=弱い)は一致している。とはいえ、二人の一致の仕方の違いもあり、それも画面に反映されていて興味深い。歌姫は、正面切って歌姫をなめている五条に対しては、カットバックで正面から怒りを見せていたが、言外で歌姫を弱いと無意識に「煽る」夏油に対しては、歌姫は画面外(歌姫から左後方)に位置する彼をにらみつけている。このように、表情変化の豊かな歌姫を画面の中心に置きながらも、「懐玉・玉折編」の真打たる五条・夏油の関係性、あるいは似た者同士の性質を描き出すことに成功している。奇抜であるが、関係性の提示・登場人物の感情表現という誠に実用的な効果がここでは目指されている。

 また、二人のからかいにあった後、五条・夏油と同学年の硝子が、二人を指して「クズ共」名指すシーンもコミカルでおもしろい。二人の似た者同士を「クズ共」として、デフォルメ化して視覚的にグルーピング化してしまうのも分かりやすくおもしろい。直後のショットでは、コミカルなデフォルメにはここでは別の効果も狙われているように思える。

『呪術廻戦 懐玉・玉折』25話より

前半のホラー展開の緊張感や先ほどの口論とは違って、間延びしたようなテンポ間の会話が繰り広げられる。牧歌的なBGMと夏油の「ピコピコ」という頓狂な足音、二日閉じ込められていた事実をギャラの話に還元する冥冥の図々しいおかしさは、背景の壮絶さと一線を画している。それゆえに、次ショットで冥冥が言う「帳は?」のセリフに、五条たちには重大で深刻だがギャグ的な意味が出てくる。冥冥のセリフにこのような意味合いを引き出す間を補強するのが、この四人の会話シーンでのテンポをコントロールする、そこにはいない夏油である。彼はデフォルメの作用で頭身が下がり、歩く速度が遅くなっている。しかし、彼の足音は聞こえ、登るにつれ頭から段々と姿を見せてくる。そのため、視聴者は彼が登ってくるのだろうという想起の下で話を聞くため、間延びしたような時間を彼の歩く速度と重なるように錯覚させることができる。こうして、このシーンに絶妙な間が作り出され、かつ画面外から支えられている。

 

共有不可能なボールと信念

 先ほどは洋館のシーンで、五条・夏油の反発しながら、似たところがある二人の関係性を簡単に見てきた。共通点は見たが、二人の相違点はどこにあるのか。それが端的に表されるのが、二五話で最も「青さ」があふれるバスケのシーンに見られる。

 「青さ」とは、一つには学生時代の彼らの青春の部分がバスケシーンに込められる。青春の代名詞のスポーツ姿が、短い挿話ながらも導入される。もう一つの青さは、彼らが持つ思想の純粋無垢さである。そのために、「弱い者を弱い」と言いうる力量の認識で一致しながらも、弱者に対する考え方、力に対する考え方の点で、容易には和解不可能に決定的な不一致に陥っている。

 この点が、どの点まで彼らの考えが許容範囲内で、どこから二人の怒りに触れるのかがバスケと絡めた形で表現される。バスケのボールを二人で共有できないように、彼らの信念も性質の違いすぎる二人には分かち合うことができない。この点を、さすがの作画で本来無関係のバスケシーンも、きれいに動かせるMAPPAの技術に感嘆しながらも、そのバスケシーン自体も二人が袂を分かつきっかけを表現しているとも考えられる。パスを受け取る、ボールを奪取する、ゴールを決めるor守る、などバスケットボールにまつわる種々の動作に、二人の考えを読み込む誘惑に駆られてしまう。

 

終わりに

 以上で、前半部分で歌姫を水先案内人とする洋館ホラーの表現を見てきて、その後「懐玉・玉折」編の主役たる五条・夏油の仲良くケンカする様子をいかに描写しているか見てきた。破局の回避を焦がれるような余りに眩しい最強の二人の「青の時代」を、破局することはわかりながらも、否破局が不可避であるからこそ、しっかりと目に焼き付けたい。

 

*1:参考 北村匡平『24フレームの映画学』pp.135-141、株式会社晃洋書房、2021年

*2:正確には、後の五条と冥冥との会話で、冥冥が「泣いたら慰めてくれるかな」に五条が「姉さんは泣かないでしょ、強いもん」というセリフが間に挟まる。このセリフを聞いて、歌姫の怒りゲージは高まる。つまり、強い冥冥は泣かないが、弱い歌姫は泣くと五条が思っているから、五条は最初のところで、歌姫に「泣いてる?」とからかったのだとわかるから。