【アニメメモ】TRIGGER好きを加速させる―「THE ANIME STUDIO TRIGGER編」より

CD PROJEKT RED Japan 公式Twitterより

 

●出演
今石洋之吉成曜、雨宮哲

公式サイト:NHK総合とBS1で「THE ANIME STUDIO」シリーズ3作品を一挙放送! - NHK

 

 

※本ブログは「THE ANIME STUDIO TRIGGER編」の内容、及び『サイバーパンク エッジランナーズ』の内容を含みます。

 

 

概要

 今回取り上げるのは、3月19日に、NHKで放送された「THE ANIME STUDIO」である。「Production.I.G」、「TRIGGER」、「WIT STUDIO」の順で、各制作会社の特集が組まれた。本ブログでは、「TRIGGER編(以下、NHKの番組について、「TRIGGER編」と言及)」に着目する。

 特集とは言っても、三十分の番組で、三人を紹介されたため、そこまで人物像や作品について掘り下げがされているわけではなかった。しかし、単なる情報紹介に終わっているわけでもなかった。作品の魅力に関わる事柄、現在日本を代表する制作会社の一つとも言えるTRIGGERの普段見られない様子を見ることができたのは、大きな収穫だった。

 

「TRIGGER編」の見どころ

サイバーパンク』の絵コンテ_今石洋之

 番組は、TRIGGERの顔とも言える今石洋之から始まる。彼の監督最新作『サイバーパンク エッジランナーズ』(以下、『サイバーパンク』)は、第7回「クランチロール・アニメアワード 2023」で、最高賞となる「アニメ・オブ・ザ・イヤー」を直近に受賞しており、今最も熱いアニメの、今最も熱い監督と言えるだろう。

 その今石が、『サイバーパンク』を例に、絵コンテへのこだわりを熱っぽく語ってくれる。語りの中身としては、三点に言及していた。一点目が、各シーンを担当する演出が描いた絵コンテを、今石がどのような修正を入れているかということ。二点目は、記憶に残っている方も多いと思われるシーンだが、ディヴィッドとルーシーが、走行する救急車から担架で飛び出し、トンネル内を滑走するシーンのこだわり。三点目に、毎回新たな挑戦をしているという今石が、本作で初挑戦した試みについてである。それは、「リムライト」と呼ばれるライティング表現である。以上が、「絵コンテへのこだわり」を一本の筋として、今石の場面で取り上げられる。

 

吉成エフェクト・教育_吉成曜

 次に、スポットライトを向けられるのは、『サイバーパンク』で、作画監督を担当した吉成曜である。吉成爆発とも呼ばれる彼のエフェクト技術について、彼が書き溜めたエフェクトの数々を見ながら、解説が加えられる。蛇足となるが、『サイバーパンク』でも、彼は作画監督と兼任する形で、エフェクトを手掛けおり、本作のスピード感・激しさをエフェクト面で支えている。また、吉成は、TRIGGERの新人アニメーター教育に携わり、その様子を垣間見ることができる。その様子や彼自身が作成したアニメーション資料から、TRIGGERの新人教育の力の入れようを、画面越しからでも、感じられる。

 

『SSSS.GRIDMAN』の絵コンテ_雨宮哲

 最後に、『サイバーパンク』から離れて、三月二十四日から劇場公開される『グリッドマン ユニバース』監督の雨宮哲が取り上げられる。同じ監督の今石と同様に、絵コンテが焦点に当たる。特撮×アニメという異色の試みを、彼がどのように絵コンテから設計したのか、語られる。彼が語る、BGMを使わないことで安易に間を持たせない演出、さらに日常シーンのディティールを凝り、怪獣が登場する非日常にギャップを付けることで、特撮が持つ「日常への非日常の介入」という特質を表現する演出は、『SSSS.GRIDMAN』を深く知る新たな発見だった。

 

 以上で、本番組で、TRIGGERの精鋭三人が語った内容を、かいつまんで記述してきた。これで、終わりというのでもよいが、せっかくなので、本番組から触発されて、一つのことを考えてみたい。先に、今最も熱いアニメと書いた『サイバーパンク』についてである。その中でも、特に今回初の挑戦と言われた「リムライト」の表現を取り上げたい。

 

サイバーパンク』のこだわり

サイバーパンク』とは?

 『サイバーパンク』は、CD PROJEKT REDのアクションアドベンチャーゲームサイバーパンク2077』を原案に制作された。『サイバーパンク』は、サイバーウェアを取り込む、いわゆる義体化が当たり前の、近未来都市「ナイトシティ」を舞台にする。繰り返されるサイバーウェアの取り込み、それに伴う薬物(鎮静剤)の常飲、力があれば暴力・犯罪何でもありでのし上がれる世界観は、まさにその名、「サイバーパンク」的な世界観を体現している。まさに「サイバーパンク」と呼ばれる、この世界で、主人公のディヴィッドとヒロインのルーシーの熱くも悲哀的な物語が繰り広げられるのが、『サイバーパンク』という作品である。

 

サイバーパンク』の作品自体については、過去記事をご参照ください。

nichcha-0925.hatenablog.com

 

エッジの強調_リムライトの利用

 今回取り上げた「TRIGGER編」では、『サイバーパンク』で「リムライト」というライティング技法に挑戦していると語られる。まずは、アニメというより実写で使用される、この「リムライト」という技法について簡単に紹介したし、それを今石がどのように生かしているのか見ていきたい。

 「TRIGGER編」で今石が話すには、アニメであまり使われない「リムライト」を使用することにより、『サイバーパンク』では、キャラクターの立体感を出すことを目指している。「リムライト」の線は、原画時点で付けられるために、絵コンテ段階から、その線が計算され、指定される。それゆえ、「リムライト」も、絵コンテへのこだわりの一つとして言及される。では、『サイバーパンク』で使用された「リムライト」とは、どのようなものなのだろうか。

 

リムライトとは?

 「TRIGGER編」の中で、「リムライト」がどのようなものか、具体的な映像を基にして、目で見える形で、分かりやすく解説される。「リムライト」とは、「TRIGGER編」でも言われるように、後方から被写体に当てられる光で、主として、被写体の輪郭を強調する効果を持っている*1。輪郭を強調された被写体は、背景から切り取られたように見える。それにより、被写体と背景に距離感が生まれ、同時に被写体に立体感が生まれるという理屈である。輪郭の強調、被写体と背景との距離感創造、被写体への立体感付与、が「リムライト」の基本的な効果と言える。

 しかし、本作の「リムライト」は、実写で用いられるライティング、例えば三点照明*2における「リムライト(=バックライト)」とは、厳密には異なる。実写で用いられる「リムライト」は、通常、被写体の真後ろ、またはフレーム外の高い位置に設置され、画面内には光源が見えないし、そもそも光源も想定されない。そうした意味で、実写の「リムライト」は、被写体の輪郭を強調するために、被写体を自然にかつ立体的に映す、嘘の光を画面内に介入させていると言える。また、演出上必要な場合を除いて、映像世界内にあからさまに光源は存在しない、実写のライティングは、画面外から光をコントロールすることで、被写体が自然に見えるように意識されている。というのも、「リムライト」を含むライティング技法の一番大切なことが、「観ている人にはライティングなどの人工的な作業がほどこされているとは微塵も感じさせないこと」だからである*3。したがって、実写で言う「リムライト」は、あくまでも上記三点の効果を得られ、かつ<自然に>見えることが重要なのである。

 

サイバーパンク」リムライトとのマッチ

 「TRIGGER編」で、今石は、この実写で使用される「リムライト」を参考に、『サイバーパンク』へ「リムライト」を取り入れたと語っていた。だが、『サイバーパンク』の映像に現われる「リムライト」は、さりげなく<自然に>登場人物たちを照らし、輪郭を強調する本来的な「リムライト」とは異なる。それは、そのような奥ゆかしいライティングではなく、「サイバーパンク」世界を体現する強い蛍光色のライトが生み出すライティングである。蛍光色のライトは、「サイバーパンク」の世界観を醸成する光源として、画面内に存在し、登場人物たちを照らし出している。

 この点で、今石は、実写の「リムライト」からインスピレーションを受けながら、その特質を換骨奪胎し、自らが作りあげる世界で、<自然に>馴染む「リムライト」の使用を実践してみせる。実写からアニメーションへの端的な移し替えにとどまらず、エッセンスのみ生かした完全な移植を果たすことで、単に実写の「リムライト」が持っている効果以上の演出的な効果を発揮している。

 この「演出的な効果」は、先ほども言った「サイバーパンク」世界を体現する強い蛍光色のライトで、作り出された「リムライト」に依っている。本作は、主人公ディヴィッドが、軍用サイバーウェア「サンディヴィスタン」を手に入れ、その力を用いて裏の社会でのし上がり、最後には、ヒロインのルーシーを残し、悲劇的な死を遂げるストーリーである。今思えば、蛍光色のライトは、このストーリーそのものを、<照らし出し着色>している。

 母親が死に、悲壮のどん底にいたディヴィッドは、「サンディヴィスタン」を見つけ、ルーシーと出会い、裏の社会で新たな人生を歩み出す。この転換点を照らすのは、輝かしい光ではなく、本作の「サイバーパンク」らしさを引き立てる怪しげな蛍光色のライトである。そのライトは、「力こそすべての」ナイトシティを覆う、厳しい闇に呑まれる寸前で、ルーシーと出会った彼を闇からくっきりと照らし出したが、その怪しげな光に彼は次第に蝕まれていく。蛍光色の光は、ディヴィッドの二つの側面を表している。一つは、彼をナイトシティの闇から照らし出し、新たな人生を歩ませたこと、もう一つは、その彼を裏の社会の感覚に侵し、ラストに迎える破滅へと誘ったことである。本来控えめで<自然な>「リムライト」は、「サイバーパンク」の世界観の中で<自然>かつ誇張気味に存在しながら、彼が本編中に歩む道筋を予告的に象徴する。

 過去の今石作品を見ても、本作のような、「近未来SF」や「サイバーパンク」を押し出した作品は存在していない。その新たな題材と「リムライト」という新たな挑戦を組み合わせ、観客に最高の化学反応を見せてくれた。このような適応性、さらに毎度新しい挑戦を作品で提示するところに、彼の作品が評価され、何よりも多くのファンに愛される要因があるのかもしれない。

 

膨れ上がるTRIGGERへの期待

 以上で、「TRIGGER編」を振り返りながら、「リムライト」の手がかりから『サイバーパンク』の新たな魅力の一端にも触れることができた。「サイバーパンク」の世界観を象徴するようなライトが、おぼろげながら印象には残っていた。が、本作では、単にこれが、「サイバーパンク」世界の雰囲気づくり利用されるのみならず、登場人物に立体感を与えるというビジュアル面での底上げを図り、本作のストーリーを文字通り彩る演出になっているとは、思いもかけなかった。間違えなく、『サイバーパンク エッジランナーズ』は、彼の他作品に匹敵する、新たな代表作の一つと言える。

 話は変わって、「TRIGGER編」の中で、新人アニメーターたちは、今石・吉成から教育を受けていた。『サイバーパンク』という驚異的な作品を作り上げた彼らから、新人アニメーターたちは、直接の薫陶を受けている。「TRIGGER編」を見た今、彼らから習い(倣い)、彼らを越える存在が、「TRIGGER」から輩出される未来を、否が応でも期待せざるをえない、そんな気にさせられてしまう。

 

 

 これらの思考を駆動させたのは、他ならぬ「TRIGGER編」のおかげである。本番組は、数分で分かるというタイパ100点の作品でもないし、深くまで突っ込んだマニアックな内容を含んでいるわけではない。しかし、今石・吉成・雨宮のファンであったり、彼らの作品・TRIGGERのファンであれば、必ず楽しめる箇所を見つけることができると思う。ぜひ見てみてください。

*1:「半逆光的な光。人物照明では立体感や髪の毛のディティールを強調するために使用する。」(映画・映像 業界用語辞典 「リムライト」 | 映画と映像の学校 | TMS 東京映画映像学校 (tf-tms.jp))

*2:三点照明とは、「キーライト」、「フィルライト」、「リムライト(=バックライト)」という三つの光で構成される、基本的なライティング技法のことである。最も明るく、メインの光源となる「キーライト」、キーライトの強い光が作る影を補正し、補助的に被写体を照らす「フィルライト」、そして、上述した「リムライト(=バックライト)」と補足できる。

*3:櫻井雅章『図解・実践 新版 映像ライティング』株式会社玄光社、2020、6頁