【アニメ考察】ひとりぼっちは三度立ち上がる―『ぼっち・ざ・ろっく!』1話

©はまじあき/芳文社アニプレックス

 

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●原作
原作:はまじあき(芳文社まんがタイムきららMAX」連載中)

●スタッフ
監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成・脚本:吉田恵里香/キャラクターデザイン・総作画監督:けろりら/副監督:山本ゆうすけ/ライブディレクター:川上雄介/ライブアニメーター:伊藤優希/プロップデザイン:永木歩実/2Dワークス:梅木葵/色彩設計:横田明日香/美術監督:守安靖尚/美術設定:taracod/撮影監督:金森つばさ/CGディレクター:宮地克明/ライブCGディレクター:内田博明/編集:平木大輔/音楽:菊谷知樹/音響監督:藤田亜紀子/音響効果:八十正太

制作:CloverWorks

●キャラクター&キャスト
後藤ひとり:青山吉能/伊地知虹夏:鈴代紗弓/山田リョウ:水野朔/喜多郁代/長谷川育美

公式サイト:TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」公式サイト (bocchi.rocks)
公式TwitterTVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」公式 (@BTR_anime) / Twitter

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 主人公の後藤ひとり*1はぼっちである。中学一年生に、テレビで見たバンドが放つ輝きに憧れ、いつか自分もギターで輝けるのかなと夢を見るも、輝くどころかバンドも組めずじまいで、高校一年生になってしまう。そんなぼっちの彼女が、バンドを組み、輝く日々(?)を進んで行く物語である。

 監督には、『ACCA13区監察課 Regards』以来第二作目の監督となる斎藤圭一郎、アニメーション制作は、A-1 Picturesから分社化したここ数年で、ヒット作を生み出し続けるCloverWorksが担当する。同制作会社がきらら作品を担当するのは、『スロウスタート』以来二作品目となる。

 『ぼっち・ざ・ろっく』は、きらら作品群らしく、ゆるふわな雰囲気を持ちながら、同時にぼっちへの冴えた視点やライブハウスの様子などバンドに関するディティールが描きこまれ、複数の側面を見せる。特に、前者のぼっちへの視点は、ぼっちの描写を丁寧に重ねることで、一種の共感性羞恥を生むものになっており、後者のバンドのディティールについては、決してゆるふわと容易に形容できないことが、キービジュアルからも、よくわかる。第一話では、ぼっちのひとりにとって、希薄な日常からぼっちの現状と向き合い、思い描いてきたバンド結成に向かって、ひとりが一歩踏み出す、本作の始まりにピッタリな内容だった。

 本ブログでは、彼女の始まりでもあり、視聴者の始まりでもある『ぼっち・ざ・ろっく』第一話の魅力を見ていきたい。ぼっちを画面に登場させ、ぼっちを一人で立ち上がらせ、最後には一歩前へ進ませる。ストーリーを追いながら、適宜、演出について言及していく。

 

ひとりなぼっち

 ぼっちとは、一人で居ることと同義ではない。一人で居るしかない状況に置かれていることを意味する。そのため、ひとりが一人で居る様子を映すだけでは画面に姿を見せない。ぼっちエピソードや観客にぼっちを伝える演出を積み上げることで、後藤ひとりをぼっちとして、画面に登場させることができる。

 アバンタイトルで、幼い頃から一人で過ごしていて、ぼっちになったと彼女の過去が語られる。そこで、テレビで見たバンドに憧れ、ギターさえ弾ければ、ぼっち脱却が叶うと希望を持ったが、無惨にも一瞬で三年が経過し、現在進行形でぼっちライフを送り、押し入れに引きこもるひとりが姿を見せる。

 ひとりは、とにかくモノローグが多い。モノローグとは言っても、ひとりは声に出していない。当然だが、視聴者には彼女のモノローグが彼女の声で聞こえるが、彼女にとっては、声に出さずに、思ったこと・感じたことを何でも話している。彼女が実際に声を出す様子は、虹夏と話すまでは、父と話す様子しか映らず、彼女が会話するのは自分だけである。

 また、動画サイトについたコメントを参考に、彼女はぼっち脱却を試みる。バンドTシャツを着て、ギターケースを背負って、バングルを大量に装着して、高校へ登校する。バンド女子アピールをして、バンドに誘われ待ちをするも、結局学校で一度も声を掛けられない。

 そこで、教室でポツンと座っている様子が、彼女の席と対角線上の端から映されている。居たたまれなくなった彼女は、時間が経過するにつれ、Tシャツを隠すように上着のジッパーを閉め、バングルを外していく。教室・廊下で、視聴者に届けられる映像は、ロングショットが中心で、彼女の客観的な様子で占められている。ロングショットの突き放した視点は、彼女が一人で居る事実をくっきりと浮かび上がらせて、そうすることで、彼女を見ているだけの、視聴者も居たたまれなさが募る。

 アピール失敗に終わった彼女は公園で一人佇む。ここでは、先ほどの学校の構図がうまく再利用される。公園にはひとり以外に、スーツを着た男性が一人でベンチに座っている。彼女が学校で一人で座っている様子を映す際に、右端をクラスメイトが占めていたように、彼をロングショットから映すが、そこでは、右端にひとりを配置し、彼女の肩越しショットを取る。同時に、その映像と合わせて、ひとりのモノローグを入れることによって、彼女がぼっちであることとは異なる、ぼっちがどう見えるのかを一人がどう見ているのか、という複雑な構造を見せる。ひとりの肩越しショット、男性の肩越しショット、ひとりの肩越しショットへと切り返しされることで、スーツ姿の男性が一人で居る様子を介して、彼女は「ぼっちであること」を認識する。そして彼女が認識する姿を視聴者は観ている。その後、男性を家族が迎えに来て、ひとりの予想は外れる。ただ彼女に幸運が巡り、彼女も通りすがりの女子高校生の虹夏からバンドの突如バンドの助っ人に誘われ、一人ぼっちから連れ出されることになる。

 ほかにも、虹夏に連れ出されたひとりは、虹夏とうまく目を合わせることができない。合わせられないだけでなく、虹夏がひとりを見ていないときには、相手をじっと観察して、見られると目を伏せてしまう奇妙な行動を取ったり、自分のにおいを気にして、後ろから虹夏の髪のにおいを嗅いだり、挙動不審な行動を続ける。

 以上のような形で、ひとりを、『ぼっち・ざ・ろっく!』のぼっちな主人公として、登場させる。ぼっちの彼女が、今まで実らなかった待ちの努力が明かされる。しかし、第一話はぼっちな彼女の境遇を説明するに留まらない。先述したように、第一話は彼女にとって、スタートとなる。彼女は待たずに立ち上がり、新たな道へと進んでいく。次に、ぼっちのひとりがどのように新たな道へとスタートを切ったのか、「立ち上がる」際の演出を見ていく。

 

ぼっち立ち上がる

 第一話で、ひとりが立ち上がる描写は、四度描かれる。だが、彼女にとって立ち上がることが重要な意味を持つシーンが三つある*2。一つ目は、中学一年生のひとりが、テレビでバンドを見て、ギターを始めることを決めるシーンである。二つ目は、ライブに出ることに怖気づいたが、こんなチャンスもうないと、ライブに出ようと決意するシーンだ。虹夏に連れられたライブハウスで、リョウを合わせた三人でセッションした結果、二人から下手認定されて、ごみ箱にこもってしまう。そんな彼女に対して、励ましの言葉を投げる二人とならやれる、そして何よりもこんなチャンスもうやってこないと、彼女は立ち上がる。三つ目は、ライブ終了後、ダンボールから飛び出して、次はクラスメイトに挨拶できるくらいになる、と虹夏とリョウに宣言するシーンである。

 どのシーンも、ひとりが今の状態を変え、新たな一歩を踏み出すことを、心に決めるシーンである。この決意によって、彼女はギターを始めて、虹夏やリョウも知るギター演奏の投稿者ギターヒーローになり、またライブ前に彼女が決意できて、ダンボールの中だが、ライブに参加することができる。ライブハウスにひとりが来れたのは、虹夏に強引に連れてこられたからだが、本作の物語を生み出したのは、紛れもなく彼女の決意である。

 物語の展開上、立ち上がるという動作を用いて、彼女の決意が表現されている。しかし、この点に関する演出では、「立ち上がる→進む」というイメージを利用して彼女の心情を表現するのみならず、彼女がどのように決意したのか、決意の態度も表現されている。立ち上がるシーンは、三つのシーンどれも画面が固定されて(=フィックス)撮られている。彼女の動きを追わないフィックスの画面で、視聴者は彼女が、突然勢いよく立ち上がる姿を見せられる。フィックスの画面ゆえに、視聴者は急に立ち上がったひとりに視線をずらすが、同様に、それぞれのシーンで、ひとりと一緒にいるひとりの父、虹夏、リョウも、立ち上がった彼女に視線を映している。そのことが分かるように、三人の顔の上下、体の動作が描写される。彼女の決意の現れである立ち上がる能動的な動きは、彼女の中から生まれたものである。言い方を選ばなければ、誰からの指図もなく誰からの強制もなく、何を、どちらを選んでもよい状態で、彼女が勝手に選んだ決意だ。それゆえに、視聴者や各シーンに同席する三人は、彼女の予想できない姿を目で追う。受動的で誘われ待ちだった彼女は、彼女が願った輝きを求めて、自らの意志で力強く立ち上がる。

 

 後藤ひとりのバンド物語は、ここに開幕する。第一話で彼女は、虹夏に連れられて、遂に念願のバンドを組むことができる。しかし、彼女の物語はこれからである。最後に彼女が宣言した、クラスメイトとあいさつできるようにすることは、ぼっちからの脱却宣言とも受け取れる。彼女のバンドはまだ始まったばかりだ。ソロギターからバンドのギター担当へ立場が変わり、ぼっちと決別(?)した彼女は、今度は、音楽・交友関係両面で、結束バンドの仲間たちと、どのようなハーモニーを奏で合うのか楽しみである。

*1:ひとりについては、以下のように表記する。主人公・後藤ひとりの名前は「ひとり」とひらがなで、人の数を「一人」と漢字で表記する。

*2:残りの一つは、ギター動画を投稿するアカウントの登録者数が、三万人になったのに気づいて、公園のブランコから立ち上がったシーンである。ここのシーンでは、登録者数を見て、ネットで生きていこうとひとりが決意するも、虹夏の乱入により、バンドを結成することに話は進んでいく。さらに、このシーンでは、言及する三つのシーンとは異なり、フィックスだが、ロングショットで彼女の立ち上がる姿を映しているという違いがある。それゆえに、本作全体を総括するなら、ひとりの三つの決意と一つの偶然で、彼女のバンド結成の物語はスタートした、と言える。