【アニメ考察】(セルフ)プロデュースで生まれるかわいいー『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』5話

©Bandai Namco Entertainment Inc. / PROJECT U149

 

  youtu.be●原作
バンダイナムコエンターテインメント
原案:廾之『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』(サイコミ連載)

●スタッフ
監督:岡本学/副監督:高嶋宏之/シリーズ構成:村山沖/アニメーションキャラクターデザイン:井川典恵/コンセプトアート:大久保錦一/デザインワークス:野田猛・小田崎恵子・中村倫子・渡部尭皓・槙田路子/美術設定:曽野由大高橋武之・金平和茂/美術監督:井上一宏/色彩設計:土居真紀子/3DCGディレクター:石川寛貢・榊正宗・神谷宣幸/撮影監督:関谷能弘/編集:三嶋章紀/音響監督:岡本学/音楽:宮崎誠川田瑠夏睦月周平/音楽制作:日本コロムビア

5話担当
脚本:村山沖/絵コンテ:長町英樹/演出:長町英樹/作画監督:長沼智也・栗原裕明

アニメーション制作:CygamesPictures

●キャラクター&キャスト
橘ありす:佐藤亜美菜櫻井桃華照井春佳赤城みりあ黒沢ともよ/的場梨沙:集貝はな/結城晴:小市眞琴佐々木千枝今井麻夏龍崎薫春瀬なつみ市原仁奈久野美咲/古賀小春:小森結梨/プロデューサー:米内佑希

公式サイト:TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」オフィシャルサイト (idolmaster-official.jp)
公式TwitterTVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」公式 (@u149_anime) / Twitter

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 第3芸能課に所属する、身長149センチメートル以下の小学生アイドルを主役に置くのが、『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』である。本作では、各話一人のアイドルの物語が語られる。今回取り上げる五話では、努力家でかつ自信家のギャル小学生、的場梨沙のアイドルへの一歩が描かれる。

 彼女が持つ、魅惑的なふるまい・年相応のわがまま・「好き」に一途なまっすぐさなど、彼女の魅力は、本編を見ていただくことに譲るとして、本ブログでは、そのような魅力にあふれるアイドル、的場梨沙がどのように成長したのか、またその成長をどのように表現したのかを見ていきたい。この点について、好きを追求する彼女のセルフプロデュース力と五話でたびたび登場する電車内(駅)に着目する。

 

研究・努力とセルフプロデュース

アバンを読み解く

 的場梨沙は、アイドルが好きでアイドルを目指す。目標のアイドルになるため、彼女は、「ファッションやアイドル」の研究に余念がない。いかにもなギャルの服装を身にまとう彼女について、アバンそしてOP後のワンショットにより、簡潔で、かつ必要十分に表現される。簡にして要を得る表現こそが、五話にふさわしい導入となっている。

 アバンに映るのは、彼女の極めるファッションの一部たるメイク、そして彼女の得意とするダンスである。化粧水で肌を潤し、ファンデーションで肌を作り、アイブロウ・ビューラー・リップの順に細部を整える。メイクを施す描写と交互に、一人のレッスン室でダンスの練習に励む梨沙の背面が映る。前面が映るメイク中の梨沙、背面が映るダンス中の彼女は、二つの場所にいる彼女へと分離していくのではなく、一人の梨沙に重ねられる。自室とレッスン室の二つの場所にいる梨沙が、二つの場所で持ち上げられたツインテールの動きとその動きを連続させるショットのつなぎによって、重ね合わされる。現在の彼女が持つ武器、ファッションとダンスによって、的場梨沙というアイドルを彼女自身がセルフプロデュースする様子が、この交互に組み込まれたショットで表現される。

 そして、場所を電車内に移し、梨沙が同じ第3芸能課に所属する桃華の動画をチェックする様子が映される。乗客が消え、広々とした電車内に彼女だけが画面に残される。これからの彼女にとってポイントとなる、「孤高」のアイドルにある「弧」の姿が強調される。ここまで詰め込まれたアバンは、流れるようにOPへと繋がれる。

 アバンの部分で、メイク・服装というファッションとダンスに力を入れる梨沙像が構築される。また、メイク・ダンスどちらのシーンでも、梨沙の顔の一部や背面・横顔のみのショットで紡がれることで、メイク・ダンスそれぞれの部分ショットからツインテールのなびきを軸にして、メイクにもダンスにも熱心な、一人の梨沙へと統一される。映像で梨沙の姿が徐々に映っていくのに合わせて、「梨沙がどういうアイドルか」も徐々にだが、手早く明かされる展開が面白い。こうして立ち現れた梨沙は、メイク・ダンスのショットで見せた自信にあふれる表情から一転して、四話でバズった桃華の動画を表情のない目で見ている。ファッションやダンスに熱心な梨沙も梨沙であれば、同じ第3芸能課のメンバーの人気に嫉妬する梨沙も梨沙である。この点は、彼女がほかの第3芸能課とのメンバーとのかかわり方を変える後半部分へと関係していく。

 

自己・他己・他者_自撮りと自撮り越しの視線

 アバンで、ファッション(メイク・服装)とダンスで梨沙の人物像ならぬ、「アイドル像」が構築され、同時に彼女の他メンバーへの羨望が垣間見えた。次に、OPが明けると、梨沙が身に着けるアクセサリーのクローズアップから徐々に、梨沙の顔が映る。梨沙の顔が遠のくと、スマホの縁が見え、初めて自撮りするスマホのインカメラ映像が映っていたことに気づく。更にスマホがずれると同時に、彼女を公園に誘う仁奈・みりあ・薫が映り、これまた声だけ聞こえていた三人が正面にいたことに驚かされる。単にショットとしてのおもしろさがあるだけではなく、自分のかわいさを自覚する梨沙のセルフプロデュース(=自撮り)、およびアバンについてで言及した他メンバーとの関係性に関わり方(=スマホ越しの関係)を同時に映してしまう上手さがある。

 ここまでのわずかなシーンで、的場梨沙というアイドルが構築される。的場梨沙というアイドルは、メイク・服装といったファッションに詳しく、ダンスが得意。そして、アイドルが好きで、何より努力・研究を怠らない。しかし、巧みな演出によって五話の序盤も序盤で、上のように彼女を理解したのもつかの間、ツインテール、ギャルファッションで、努力家・自信家のアイドルという安易な理解は、彼女の成長と並行して突き崩されていく。彼女自身のセルフプロデュースの結果であり、その結果を受け取った視聴者の理解は、五話において特権的な場を基に崩されていき、彼女のより深い理解へと通じる。その場とは、電車内(駅)である。

 

電車で帰る

まじめで孤高の駆け出しアイドル

 本作では、アバン・本編入れて、五回電車(駅)シーン*1が登場する。電車内(駅)は、彼女の性格を端的に描写しつつ、彼女の成長のきっかけを作る場になっている。

 それ以前に、電車は彼女の努力家な側面と彼女の孤高さの側面を表現する。自宅と事務所の距離は明言されないが、毎回彼女は電車に乗って、事務所に来て、自宅へ帰ってゆく。さらに、五回目の電車内シーンを除いて、彼女はいつも一人である。

 そして、彼女の印象的な見た目は、電車の中で目立って見えるが、現在の彼女にアイドルの仕事がないように、電車内で乗客から注目されることはない。特徴的であるにもかかわらず、電車内という日常的な光景に埋没している。

 電車内の描写には、電車で事務所に通う梨沙のまじめさ、一人で行き帰りするまじめな彼女の孤高さ、孤高で派手な彼女が日常的な電車内に埋没する知名度のなさ、すべてが電車内の画面に表れている。画面内の表れによって、物語が語られることもなく、彼女自身が描写されていく。

 

自宅と事務所をつなぐ

 彼女の性格を描写する以外に、五度繰り返す電車(駅)のシーンを経て、彼女はプロデューサーと第3芸能課のメンバーを新たにとらえなおし、オファーされた役を見事演じ切ることになる。電車を象徴として読み解き、本作に適用することから、本作本話の梨沙に意味を与えることはできるかもしれない。しかし、ここではそのような考え方は一点指摘するにとどめて、各シーンを分析し、次いで各シーンを交錯させることで、本作本話にとってポイントを取り出したい。

 その一点は、先ほど触れたが、電車は梨沙にとって、自宅と事務所をつなぐ移動手段である。彼女は電車を使って事務所に来て、帰宅時には電車で逆方向へ戻っていく*2。そのため、電車は自宅と事務所をつなぐものでありながら、同時に自宅でも事務所でもない場所である。どういうことか。パパっ娘の彼女がパパといる家、そしてアイドルを目指す彼女が通う事務所、どちらも彼女が感情のままの素を出せる場ではない。パパを喜ばせたい彼女とアイドルとして必死に仕事を求める彼女、その彼女の素の表情(主に弱み)を見せる場所が、場所的にもシーンの位置的にも狭間にある電車(駅)となる。こうした意味で、梨沙を描くうえで、電車(駅)が重要な場所となる。

 

画面の主役_安定構図

 構図に着目して電車のシーンを見ると、三段階の変化がみられる。第一に、前三回の電車シーンで基本となる、座席に座る彼女の正面ショットである。一部彼女へのクローズアップがみられるが、電車の窓や座席などに至るまで、幾何学形または整った配置が画面を支配し、またその光景を正面かつ水平ショットでとらえることによって、きわめて安定した構図になっている。

 

Not電車、駅構内_構図の崩れ

 第一の安定した構図が崩れるのが、第二の構図である。ここでは、物語の進行と合わせて、この第二の構図が現れる。映画のオーディションに落ちたことが知らされ、次のシーンで、彼女はいつもの電車内にいるのではなく、プラットフォームで電車を待っている。オーディションに落ちた彼女の心情と呼応するように、カメラは彼女を離れ、彼女をまっすぐにとらえることはできず、斜めやアオリや俯瞰といった視点の定まらない画面が、彼女を映すことしかできない。台本のセリフをつぶやいた彼女をやっとカメラは正面からとらえるが、すぐにカメラは距離のある向かいのプラットフォームからに移動し、小さくなった彼女は、到着した電車と重なり、消えて行ってしまう。

 

プロデューサーと一緒_構図の再構築

 この第二の構図では、彼女が自分を見失ったのと重なる、とりとめのない種々のショットが使われたが、第三の構図で、画面は劇的に変わる。その劇的さを生むのは、プロデューサーが同じ画面に映るからである。第一・第二とその場にいるのは梨沙一人で、当然画面の中心も梨沙が占めることになる。プロデューサーが一緒に帰るよう梨沙を誘うことによって、電車内のショットは二人の被写体を獲得する。画面は座席に座る梨沙とその前に立つプロデューサーに分割される。分割された画面は、プロデューサーが第3芸能課のメンバーへの思いを話したことを機に、空いた隣を梨沙がプロデューサーに勧め、初めて電車内で梨沙が複数人で映る。そして、電車内で、梨沙はプロデューサーと分かり合え、プロデューサーは続いて彼女と第3芸能課のメンバーをつなぐ。

 

終わりに_自分とみんなで作るかわいい

 第3芸能課のメンバーの意見を取り入れ、梨沙はイメチェンに成功し、映画を成功で納める。五話の最後のシーンを飾るのは、梨沙がプロデューサーにお願いしたご褒美である。梨沙が出演した映画を、第3芸能課のメンバーみんなで観に行っている。

 五話の始めでは、メイク・ダンスにわたって、孤高の努力家である梨沙が、第3芸能課の他メンバーの人気に焦る様子が映っていた。彼女は、どちらも手に入れる。第3芸能課のメンバーは、もちろんライバルであるが、同時に自分の魅力を引き出してくれる仲間である。孤高の努力家は、単に孤立することをやめ、自分だけが知っている自分のかわいさだけではなく、自分の知らないかわいさをも知ることになる。もはや、「アタシってかわいいでしょ?」と豪語する彼女に死角はない。

 

*1:以下の時間で、電車内(駅)のシーンが挟まれる。

 ①アバンで桃華の動画を見るシーン(00:30~00:45)、②プロデューサーのアドバイスノートを読むシーン(09:30~09:40)、③パパへのメール(10:45~10:50)、④オーディションに落ちたプラットフォームシーン(13:30~14:55)、⑤プロデューサーと帰りの電車シーン(15:05~17:30)

*2:とはいっても、車窓から進行方向を推測すると、本編で映るのはすべて、帰宅時の電車内である。