【アニメ考察】相手を知ることと友達になること―『明日ちゃんのセーラー服』 第5話「いっぱい知りたいなって」論

f:id:nichcha_0925:20220313203055j:plain

©博/集英社・「明日ちゃんのセーラー服」製作委員会

f:id:nichcha_0925:20220313203240j:plain

©博/集英社・「明日ちゃんのセーラー服」製作委員会

f:id:nichcha_0925:20220313203255j:plain

©博/集英社・「明日ちゃんのセーラー服」製作委員会

 

 現在2022年冬アニメで放送中の『明日ちゃんのセーラー服』第5話で用いられていた演出について見ていきたい。第5話では、生き物が好きな大熊さんと明日さんがアオダイショウをきっかけに出会い、仲良くなるという単純明快なストーリー建てだ。ストーリーだけではなく、二人の会話シーンでお互いの体位と切り返しショットを効果的に使用することによって、二人の距離感と関係性を表現し、そして彼女たちが心を通わせた瞬間に視聴者を立ち会わせることが可能になっている。

 

 

  youtu.be
●スタッフ
原作:博(集英社となりのヤングジャンプ」連載)
監督:黒木美幸/シリーズ構成・脚本:山崎莉乃/キャラクターデザイン:河野恵美/サブキャラクターデザイン:川上大志・安野将人/総作画監督:河野恵美・川上大志・安野将人/美術設定:塩澤良憲/美術監督:薄井久代・守安靖尚/色彩設計:横田明日香/撮影監督:川下裕樹(MADBOX)/3Dディレクター:宮原洋平/キャラクターレタッチ:カプセル/編集:齋藤朱里(三嶋編集室)/音楽:うたたね歌菜/音響監督:濱野高年
制作会社:CloverWorks

●キャラクター&キャスト
明日小路:村上まなつ/木崎江利花:雨宮 天/兎原透子:鬼頭明里/古城智乃:若山詩音/谷川景:関根明良/鷲尾瞳:石上静香/水上りり:石川由依/平岩蛍:麻倉もも/四条璃生奈:田所あずさ/神黙根子:伊藤美来/龍守逢󠄀:伊瀬茉莉也/峠口鮎美:三上枝織/蛇森生静:神戸光歩/苗代靖子:本渡楓/戸鹿野舞衣:白石晴香/大熊実:小原好美

公式サイト:TVアニメ「明日ちゃんのセーラー服」公式サイト【2022.1.8 ON AIR】 (akebi-chan.jp)
公式TwitterTVアニメ「明日ちゃんのセーラー服」【公式】毎週日曜23:30〜BS朝日にて再放送中 (@AKEBI_chan) / Twitter

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

シーン分析

 明日さんと大熊さんが最終的に親密になったと視聴者が感じるのは、二人が下校中に、蝶が舞う中、大熊さんから昆虫観察に誘い、それに応えて明日さんが大熊さんに抱き着くラストシーンだろう。ラストシーンは二人がお互いに親しくなりたいという意思、要するに友達になりたいという意思が初めて一致する瞬間になる。このシーンに至るまでの、彼女たちがこの意思で一致せずに、そしてラストシーンでは一致しているのかをどのように映像で表現しているのかを見ていく。

 

(1) シーンの分析道具

 具体的なシーンを分析する前に、上述した注目ポイントの体位と切り返しショットについて説明する。第5話の主要登場人物は主人公の明日さんと大熊さんだ。そして、大熊さんの趣味である観察をテーマに第5話は進んでいく。

 観察をテーマにしているので、各所に観察のシーンが挟まれている。冒頭に差し込まれた大熊さんが森の生き物たちを観察している様子から始まり、クラスメイトの様子を二人で観察するなど。また、大熊さん視点では明日さんを観察する峠口さんを観察するという入れ子構造をした特異な視点もある。それらに共通しているのは観察である。そして観察には、観察者と観察対象が存在し、そこには観察に特殊な関係が存在する。

 特殊な関係について、大熊さんの発言を参考に明らかにしていく。平岩さんのシーンで、背の低い平岩さんが何とか自動販売機にある最上段のボタンを押そうと必死になっているところを明日さんは手助けする。それに対して、大熊さん曰く、観察は「客観的にものごとを見て、記録するもの」で、「対象物に手出しをしてはいけ」ないものらしい。それゆえ、本作でも明日さんが何度も注意されているが、観察対象に気づかれてもいけない。

 以上をまとめると、観察者は観察対象から距離を置いて、その行動を記述するのみで、観察対象に関与することはもちろん、観察対象に観察している事実を認識されてもいけないということになる。ここまでで、観察者と観察対象のあるべき関係を観察者の立場から取り出した。以下では、そこから導き出される帰結を映像表現と絡めて説明する。

 

①切り返しショット

 観察者のルールでは、観察対象に気づかれてはいけない。それゆえ観察者と観察対象を繋ぐ映像表現に関して、両者の視点を介した切り返しショットが使用されることも禁止となる。このことは制作者への禁止という意味ではなく、そのような切り返しショットが使用される関係性の中に観察者が入り込んではいけないという意味での禁止である。つまりは、作中人物の振る舞いを規制する禁止ということだ。というのも、そのような切り返しショットが生じたとき、観察者は観察対象に干渉し、少なくとも目を遣るという意味で影響を与えてしまっていることになるからだ。逆に、そのような視点は明日さんが観察対象に見つかってしまうときに効果的に用いられている。

②体位

 切り返しショットの次は、比喩的な意味になるが、観察対象に向かい合って会話することも禁止となる。「向かい合う」とは単にお互いに正面を向き合うこと、つまりは体位の問題も含むが、心が求める先という意味で志向性の問題とも言える。簡略化すれば、前者は身体の問題、後者は精神の問題ともいえる。私はこの点は表裏一体の関係にあると考えたい。というのも、観察者のルールに照らすと、正面に向き合うほどの関係性に陥っている時点で、「距離を置いて」という規定に背いているからだ。

具体例で考えてみる。観察者が掟を意識しながらも、何らかの理由から観察対象と向かい合うことになってしまう。その場合、精神・意図の次元では観察者としての規律を遵守しているが、他方で、身体的な次元ではそれを逸脱している。観察者が何を意図しようが、向き合ったらそこでルール破りになること必然である。というのも、正面から向き合う行為は敵対的、友好的問わず、少なくともその相手に対して何らかの興味があることを表現する振る舞いである。そのため、相手はその体位を見ただけで、体位が含意するメッセージを受取り、観察者は観察対象に影響を与え、「手を出して」しまうことになる。

 以上より本稿で分析軸となる向き合うという体位と切り返しショットについて記述してきた。前節で、観察者のルール取り出し、本節ではそこから観察者と観察対象の関係を破った根拠となる映像表現を見てきた。これで本編を分析する道具立ての準備は完了したので、以下より本編の分析へと移る。

 

(2) シーンの分節

①序盤 アオダイショウを森に返す一幕

〇シーンの記述

まず二人は廊下への闖入者、アオダイショウをきっかけに出会い、話し始める。大熊さんは入学前に、水辺で蝶を妹に見せる明日さんの様子を目撃する。そのことから明日ちゃんが自分と同じ生き物好きと思い、声を掛けたいと思っていた。

 アオダイショウを森へ返しに行くシーンでは、横並びをロングショットで映しているショットが中心となっている。二人がアオダイショウの話で盛り上がってくると、ミドルショット、そして明日さんのアオダイショウエピソードに驚く大熊さんの顔がクローズアップで収められる。

 その後、観察ノートの話から二人を正面からロングショット、次に明日さん視点で見える大熊さん、「一緒!」と立ち上がる明日さんを大熊さん視点から切り返しショットで捉えている。大熊さんは明日さんが生き物の観察日記をしていると考えていたが、明日さんが記録していたのはクラスメイトについてだった。そこで俯瞰ショットで二人の調子が外れた様子が描かれる。

 最後に、明日ちゃんの悩みに対して観察を提案する大熊さんの様子を切り返しショットで収め、一緒に観察しようと切り返しショットで占める。そしてクラスメイトのことを知るために、共同戦線を開始する。

 

〇シーンの分析

以上に記述したのは、二人がアオダイショウを森に返し、クラスメイトの観察を二人で開始するきっかけとなったシーンだ。彼女たちの出会いのシーンである。ここでは、基本的に横並びとなっており、また彼女たちが向かい合うのは、観察日記をつけている会話とクラスメイトの観察を明日さんが誘う会話だ。その会話はクローズアップを使用されており、あくまで意志の交換ができているのが分かる。

 本シーンは、次シーンからクラスメイトを観察するきっかけとして重要であるとともに、このシーンが彼女たちにとって決定的に親密になったシーンでないことも重要だ。というのも、ここでの彼女たちはある目的について親しくなっているだけだからだ。

 まずこのシーンで横並びが多用されているのは、二人がアオダイショウを安全な森に返すという目的に共に目指していることが理由である。そしてアオダイショウと観察ノートの話題で、彼女たちが切り返しショットによりお互いの視線が交錯するように映されている。だが、そこでは、大熊さんが明日さんを自分と同じ生き物好きと誤認していたり、異なった内容の観察日記を付けていたり、とアオダイショウを一緒に森へ逃がしに行った以上に親密になるには、肝心なところで一致していない。とはいっても、最後にクラスメイトを観察するシーンをお互いの視点を採った切り返しショットで映すことによって、アオダイショウを森に返す外から与えられた目的から二人で共に達成した目的に取り組むという段階へと一歩進展したことが分かる。

 

②中盤 写生の授業での一幕

〇シーンの分析

序盤のシーンでは、二人の視線が交錯するが、お互いの意志の面で乖離があり、二人にとって決定的な瞬間とならなかったことを見てきた。次に中盤の二人がトンボの写生を完成させた後、屋根付きのベンチで話すシーンを記述・分析していく。

 音楽と共に、思い思いに写生に取り組むクラスメイトの姿が映り、そして目を輝かせる明日さんがクローズアップで映り、一瞬の暗転の後が該当シーンである。このシーンではストーリー上では、大熊さんが明日さんに今一番気になる生き物を答えられなかったシーンである。

 このシーンの始まりは、明日さんがベンチに座っている大熊さんを覗き込むようにして、問いかける様子を大熊さん視点でかつミドルショットで映している。それに対して、大熊さんの驚いた様子をクローズアップがリ明日さん視点の切り返しショットで捉える。そして大熊さんを映す同じ角度で引いた位置で二人の位置関係を見せる明日さんの肩越しからのロングショットが挿入される。大熊さんの「今一番気になる生き物は…」に合わせて、明日さんのクローズアップに切り替わり、問いかけられた大熊さんが困惑する様子がクローズアップで収められる。そしてその様子に首を傾げる明日さんのシーンから木崎さんの手がクローズアップで映る。そして兎原さんを加えた四人全体の様子がミドルショットから撮影される。以上が本シーンの一連の流れだ。

 

〇シーンの分析

このシーンでは、明日さんと大熊さんに意思の不一致のシーンとして描かれる。意思の不一致は、分析軸たる体位・切り返しショット(明日さんからの肩越しショットは含まない)に現れている。まず体位から見ると、明日さんは半身の状態で覗き込むように大熊さんと会話している。覗き込む状態は、大熊さんに問いかけ、彼女の答えを誠実に聞き取ろうという姿勢だが、半身の状態で距離を取った姿勢にも感じる。それに対して、大熊さんは明日さんに体位と心の状態が一体となり、明日さんの問いに正面から答えようとしているのが分かる。

 逆に、四人全体が映るショットでは、明日さんが正面から大熊さんの方を向いており、大熊さんはカメラを正面から見て、明日さんに対しては半身の状態になっている。ここでは、兎原さんが大熊さんの絵を褒めるのに、明日さんは強く同意している。明日さんの知っている大熊さんに正面から全面的に肯定している。他方で、大熊さんは注目の対象となることに居心地の悪さを感じて、正面からその称賛を受け入れられていない。

 体位から見た結果、明日さんと大熊さんに興味あるいは理解のずれが生じていることが分かった。次に、切り返しショットの観点から、このシーンを見てみる。

 このシーンでは、丁寧に切り返しショットが用いられている。基本的に問答では、大熊さんが問いに答える主役であるので、基本的なショット数は同じだが、大熊さんの表情を映すショットの方に時間が割かれている。ここで興味深いのが、基本的に二人の会話が切り返しショットで継続されているのに対して、途中ロングショットでの明日さんの肩越しショットが挿入されていることだ。

 肩越しショット(特に手前の人物の全体が映る場合)は一般的には、手前の人物が奥の人物に対して、感情移入をしていると視聴者が感じる演出方法である。しかし、このシーンでは、明日さんは大熊さんの心情を知ろうとしているが、彼女は首を傾げて、大熊さんが一番気になる生き物を理解してはいない。このことは、彼女が大熊さんの話を真摯に聞くことを表現する覗き込む体位も合わせて考えると、より際立ってくる。そして、この事実から彼女が半身の状態を取っていたのかが分かる。すなわち彼女の聞く姿勢は真摯なものではあったが、感情移入ではなく、観察だったのだ。

 明日さんには蠟梅学園に入るまで同級生が居なかった。それゆえに、友達の作り方が感覚・経験として分かっていない。この明日さんの歴史を巧みに用い、かつそこを補うために第5話のテーマである観察を取り入れている。彼女は観察しているがゆえに、前述した距離のある半身の姿勢を取っていたが漸く分かる。

 以上の分析をまとめると、切り返しショットにおいて基本的に二人は対等である。しかし、二人の会話では、大熊さんの真意を理解できず観察しようとする明日さんと真意を精一杯答えようとして、表情で意思表示をしてしまっている大熊さんにずれが発生しており、そして四人での会話では、自分の知っている絵の上手な大熊さんを手放しで称賛する明日さんと自分が注目の対象になるのが落ち着かず目をそらしてしまう大熊さんという点でもずれが発生している。

 以上のずれが発生し、お互いの思いが上手く一致していない。終盤では、中盤とは異なり、どのように二人の意思が一致していくかを見ていく。

 

③終盤 昆虫観察の約束をする一幕

 〇シーンの記述

ラストシーンでは、大熊さんと明日さんが下校するシーンから迎える。林道を横並びで歩いているところ、軽やかな音楽が流れ始め、明日さんが大熊さんに語り掛けるところからこのラストシーンが始まる。明日さんの明日さんと大熊さんの様子が切り返しショットでかつ客観視点で映される。ここでも大熊さんが驚くシーンを経て、次の明日さんへの切り替えしショットから両者の主観視点での切り返しショットとなる。ここからはお互いに類似した切り返しショットが二人を横から映す客観視点でのロングショットが挟まって展開される。またその横からのロングショットも大熊さんが一歩進むところと明日さんが大熊さんに近づいて抱き着く二人それぞれに対して一回ずつ設けられている。

 

 〇シーンの分析

このシーンも前二シーンと同様に、体位と切り返しショットに分けて見ていく。まず体位の観点からは、主観視点のスタートである大熊さん視点の明日さんは後ろを向いて、話しながら、途中で振り返る。その後は二人が会話するには距離があるが、向かい合った状態で会話をし始める。このシーンでは、大熊さんの主観視点からはお互いに正面を向き合った状態で会話をしている。

 また切り返しショットの観点からは、前述したように、二人に平等なショットが与えられている。すなわち、上記した大熊さん視点から換算すると、クローズアップがそれぞれ2回、ミドルショット1回、サイドからのロングショット1回が割り当てられている。

 以上の分析を経ずとも、このシーンでは、二人が親密になれた瞬間が分かる。が、以上の分析から分かるのは、お互いに親しくなりたいという意思が一致したことだ。この点で序盤・中盤ではなく、このラストのシーンにおいて二人が仲良くなったと明確に分かる。

 序盤では、お互いに対等な一致はあったが、それはクラスメイトを観察して知ろうという目的の一致だった。次に中盤では、二人が二人に関心がある意思表示をしていたが、それぞれに上手く一致しなかったところを見た。そして最後に、二人はお互いに友達になりたいという意思表示が一致し、感動的なラストを迎える。

 そして蛇足になるが、このシーンで客観視点でのロングショットも重要なショットだった。二人の距離が近づいたというのを見せる演出だが、それは大熊さんが得意としていた観察から逸脱する振る舞いだった。大熊さんが一歩を踏み出す前に、彼女が何かを決意したクローズアップ、そして一歩踏み出し、クローズアップにも戻って、明日さんを昆虫観察に誘う。この流れの中で、彼女が決意したのは明日さんを昆虫観察に誘うことだが、その中には、彼女が彼女自身を置いていた観察者の立場から脱する決意だったのではないかと思う。そして彼女の決意の中で、重要だったのは後者の決意だったのではないかと思う。そうである限りで、彼女は明日さんとなんの目的もなしに遊ぶことができるのだからだ。

 本作の各話で明日さんともう一人焦点が当たる人物が登場する。第5話では、大熊さんがそれにあたり、そして最後のロングショットは彼女の変化が明確に表れる彼女のために用意された場だったと考えられる。

 

おわりに

 大熊さんは明日さんとアオダイショウをきっかけに出会い、以前から観察していた彼女と話をすることが叶う。そして彼女は明日さんとのクラスメイト観察ミッションを経て、明日さんとの関係性がただ離れたところから見るだけの観察者から関与し影響を与え合う近しい友達へと変わっていった。彼女の変化がストーリーだけでなく、映像を通して視聴者に表現されるので、彼女たちの物語にリアルに感じさせる。

それだけではなく、私には、友人関係とは何たるかと、そんな問いにまで導いてくれる、そんな第5話だったという感覚に陥った。