【アニメ考察】明るい気遣い屋のノンデリカシー—『ガールズバンドクライ』2話【2024春アニメ】

『ガールズバンドクライ』2話より
©東映アニメーション

 

   youtu.be●スタッフ
シリーズディレクター酒井和男/シリーズ構成:花田十輝/音楽プロデューサー:玉井健二(agehasprings)/劇伴音楽:田中ユウスケ(agehasprings)/キャラクターデザイン:手島nari/CGディレクター:鄭載薫

原作・企画・製作:東映アニメーション

・二話スタッフ
脚本:花田十輝/絵コンテ:酒井和男/演出:朝倉舞彩/作画監督:山﨑智加

●キャラクター&キャスト
井芹仁菜:理名/河原木桃香:夕莉/安和すばる:美怜/海老塚智:凪都/ルパ:朱李

公式サイト:アニメ「ガールズバンドクライ」公式サイト (girls-band-cry.com)
公式X(Twitter):アニメ『ガールズバンドクライ』公式 (@girlsbandcry) / X

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 『ガールズバンドクライ』二話では、主人公の井芹仁菜がバンドを始める決心がつき、さらにそのバンドメンバーで、ドラム担当となる安和すばるが登場する回だった。一話では、上京してきた仁菜が、憧れるストリートミュージシャンの河原木桃香に出会い、彼女がバンドを辞めることを引き留めた。二話では、桃香のバンドへの強い勧誘、一人ぼっちの東京での孤独感、何よりもバンドメンバーにすばるが加入することにより、仁菜の思いは一気にバンドへ傾くことになる。

 二話では、明るいすばるが、物理的に場を明るくする。要所ですばるが、ライトを点けることになる。一点目は、明るいすばるの人物像を補強してもくれる、ライトを点ける、という行為を掘り下げる。二点目に、そうした明るく、さらに初対面の仁菜へ気遣いもできるすばるが、仁菜といかに打ち解けるきっかけが生まれたのか、仁菜の内面に寄り添って、ストーリーを追ってみたい。

 

明るいドラムの参入

 安和すばるは明るい。初対面の仁菜に明るく振る舞うだけではなく、彼女が登場するシーンでは、彼女がライトを点けて登場する。性格面での明るさとともに、彼女が登場するシーンは、物理的に明るくなる。というのも、暗いところで、彼女が登場する際、彼女がライトを点けるからだ。該当する二シーンを見てみよう。

 一つ目のシーン。すばるが初登場するのは、仁菜が桃香からの連絡で、ライトを取りに行ったときである。暗い玄関で二人が話す中、玄関の照明を点灯して姿を見せるのが、すばるである。そこで、仁菜は桃香からすばるがドラムとして、バンドメンバーに参加することを教えられる。

 二つ目のシーン。先ほどの会話の後、三人は焼肉を食べに行く。そこで、明るく振舞い、仁菜に話を振るすばるに対して、仁菜は不快感を募らせて、桃香の説得・制止も振り切り、店を飛び出す。通行人とのひと悶着を経て、仁菜が住むアパートの部屋で一人泣いているところに、桃香とすばるが現れる。そこでは、ライトもない暗い室内で泣いている仁菜に桃香はやさしく声をかけ、再びバンドへ誘う。そうしている中、仁菜が持ち帰り、彼女一人では設置できなかったライトを持ち、二人が映るフレームから立ち去る。フレーム外ですばるはライトを設置し、スイッチを入れて、明かりを点ける。その瞬間に、仁菜と桃香の二人を映していた画面はカットを変え、すばるを含めた三人が映る。

 二シーン紹介してきたが、ここまでは、ライトを点ける行為が、それぞれの登場人物にとってどういう意味を持つのか、そして視聴者にどう映るのかを掘り下げるのは、やめて、二点の指摘にとどめておきたい。一点目、すばるに関して、人物像としての明るさと物理的な明るさが、うっすらとでも視聴者の中に連想されることで、すばるの人物像や彼女のラストシーンのセリフ(「めんどくせー」)に深みを与えてくれること。このことは次章で触れたい。二点目、仁菜・桃香・すばるの三者関係を見ていく上でも、重要となってくること。というのも、二話では、ライトを点けるのは、すばるだけでなく、仁菜もだからだ。

 二話を思い返すと、ライトを点けるシーンはこの二度ではなかった。冒頭のシーンへさかのぼれば、そのシーンに思い当たる。二話アバンタイトルで、桃香が入り込んだトイレのライトを点けている。

 簡単にアバンタイトルシーンを記述してみる。

 起床した桃香を追って、仁菜がトイレに向かうのを、仁菜の主観ショットを通して、視聴者は彼女の行動を追っていく。仁菜がベッドを降り、部屋の扉を開け、廊下を抜けて、トイレの前に来たときに、カットは変わり、カメラはトイレ内に移る。そこから、仁菜がトイレ内からトイレの扉を開けて、トイレ内を覗き、トイレ内のライトが点けられる。そう、ここで仁菜であるが、ライトを点ける、というシーンが入る。

 アバンタイトルでの点灯は、他の二シーンと比して、念入りにライトを点けることが強調されている。朝日と暗さがまじりあう部屋、日の光が入らない暗い廊下とその廊下で光る開け放たれた冷蔵庫、そしてトイレ内を見る通常の目から点灯し桃香を発見するジト目への移り替わり、これらが合わさって、トイレのライトを点ける行為が、浮かび上がってくる。

 

 ライトを点ける役が、仁菜からすばるへ移っている。すばるの明るさと掛け合わせられると同時に、すばるの登場自体が、桃香がバンドに誘うのを仁菜が拒む二人の関係性やお互いの感情を照らし出し、二人の物語をバンドの道へと進めることになる。「ライトを点ける」という行為に着目して、主にすばるの人物像を見てきた。

 一見すると、明るく気遣いできるすばるは、世間への反抗心で共鳴する仁菜・桃香としっくり合うように思えない。次章では、仁菜が明かした上京の理由に絡めて、特に仁菜がすばるを受け入れることができたのか、見ていきたい。二人やすばるの一筋縄でいかない、「めんどくせー」登場人物たちが、『ガールズバンドクライ』の大切な魅力となっている。

 

ひねくれた主人公と率直なドラム

 続いて、明るく振る舞うすばるが、どういう経緯で仁菜と桃香の間に入ってきて、そして仁菜と一歩距離を縮めたのか、二話の流れをおさらいしつつ、確認してみたい。ここに、ただ明るく気遣い屋なだけでない、すばるの人物像が見えてくる。むしろ、先述したライトと絡めて、明るく気遣いのできる少女であることが強調されることで、この明るいだけではない部分が強調されている。
 この部分、仁菜と桃香の二人で物語が進むAパート、孤独な仁菜の描写を経て、仁菜・桃香・すばるの三人の物語が進むBパートの順で見ていく。
 

仁菜と桃香の物語_二話Aパート

 仁菜が憧れだった桃香と知り合えたのが、一話だった。そして、バンドを辞め、実家へ帰る予定の桃香を引き留めたのは、他ならぬ仁菜だった。
 二人の出会いの一話を経て、二話にまずあったのは、東京に出てきて、初めてまともに言葉を交わしたのが憧れの人で、しかも知り合いになれたという二人の関係性だった。そうした夢のような展開を、現実のものとして提示するのが、二話アバンタイトルを始める仁菜の主観ショットだ。先ほど書いたように、主観ショットで映されるのは、目を覚ました仁菜が、ベッドからトイレへ向かった桃香を追っていく、一連の移動である。
 この一連のシーンを見て思い出すのは、一話の同じくアバンタイトルだ。一話と二話は夢と現実の重点の置き方で、対照をなしている。一話アバンタイトルでも、寝ていた仁菜は、新幹線の清掃員の声で、夢から覚める。それも、彼女の欲望を反映した夢から覚める。二話とは異なり、一話では夢から覚める仁菜を映すのは、主観とは正反対とも言える、明らかにカメラと視点とわかるカメラワークを伴う、客観的なショットだった。
 目覚めた彼女が新幹線を降りこの先出会うことになるのは、いくつもの現実的な問題だった。例えば、アパートに入れなくなったり、憧れの人が音楽を辞めそうになっていたり、など。現実的な問題、すなわち彼女がどうしたいのか、など彼女の内面とは関係のない問題が、彼女の前に立ちはだかる。それに対して、二話では、目覚めると憧れの人がいる、夢のような生活が待っている。しかし、桃香が引っ越していき、孤独を抱え、苦手なタイプのすばると出会うことになる。孤独や過去のトラウマと重なるすばるとの付き合い、さらには自分がバンドに参加するのかを含めて、どうしていきたいのか、という内面の問題が、二話では仁菜に立ちはだかることになる。
 こうしたことが、一話二話のアバンタイトルで、仁菜を主に映すことで、仁菜に主人公性を付与するとともに、一話での明らかにカメラ視点とわかるカメラワークの客観的な映像、二話での仁菜視点の主観的な映像を駆使して、仁菜が直面する問題に応じた各話の方向付けを行っている。そのため、仁菜視点の主観的な映像(=主観ショット)を踏まえて、仁菜の主観部分を追っていくことが重要となる。
 話を戻すと、二話Aパートは、仁菜と桃香の二人で物語が進む。その中で、大きく進展するのは、仁菜が自分について桃香に語るところである。高校を中退した彼女が、予備校に通ってせめて大学に進学しようとしていること、一風変わった家族のこと、学校から仁菜の居場所を奪った同級生のこと、等々、彼女のこれまでとこれからを語る。仁菜の背景が明らかにされ、彼女の物語が大きく動きだすことになる。そして、そのことは仁菜の話を聞き、彼女をバンドへ誘い続ける桃香との物語が進展していくことでもある。
 

仁菜・桃香・すばるの物語_二話Bパート

  二話Aパートが二人の物語だったら、二話Bパートの序盤は、桃香が仁菜の部屋から引っ越していき、仁菜が孤独を実感する仁菜一人の物語と言える。そんな中、桃香から仁菜へメッセージが届き、仁菜は桃香の引っ越し先を訪れるのだが、そこですばると出会うことになる。仁菜と桃香の二人の物語が始まるところだったのに、仁菜が苦手に感じるすばるが参入してくる。これ以降、二話はすばるを加えた三人の物語が進んでいく。
 すばるは明るく気遣いのできる少女として描かれる。食事の場に、すばるも来たら、という桃香の提案に対して、居心地の悪さを感じる仁菜と仁菜のしぐさに心情を察するすばるが、さりげなく示される。この玄関口でのやり取りでも、仁菜の主観は大切にされている。玄関口のやり取りでは、仁菜が戸を開けて入って以降、カメラは仁菜が立つ玄関土間から三人のやり取りを映すことになる。そのため、視聴者が三人のやり取りを見るのは、仁菜側からとなる。具体的には、仁菜と同じ位置・方向から桃香やすばるを見て、仁菜の隣から仁菜の表情を見て、三人の様子を仁菜の左後方から見ることになる。
 結局、しゃぶしゃぶ店に三人で行くことになる。しゃぶしゃぶ店では、桃香の隣には仲良さげなすばるが座り、対面に仁菜が座る。仁菜が案じたような、両サイドの様子が、二人と一人でフレームを分割して映される。ただ、仁菜の心情を察していたすばるは、仁菜へしきりに話題を振る。そのような状況に耐え切れず、仁菜は席を立ち、遂には店を飛び出してしまう。
 ここでも、先ほどの玄関口同様に、すばるから仁菜が感じる圧迫感が、画面の節々に現れることになる。先ほどの桃香・すばると仁菜の様子が、分割されて提示されるのも一つである。加えて、絶えず仁菜に話題を振るすばるが、桃香とすばるのショットからすばる単体のショットで映ってくる。さらに、話題を振るすばる、振られる仁菜が二つのフレームで映るスプリットスクリーンで映され、すばるが位置するスクリーンが拡大される勢いで、仁菜に迫る勢いが表現される。こうした画面の圧から仁菜の感じたすばるの気遣いの過剰さを視聴者の共有する。
 こうした画面からも圧を感じる、すばるの過剰な気遣いに、仁菜は高校でのいじめ相手を重ね、ひねくれた考えですばるに反感を抱き、店から飛び出すことになる
 桃香の家からしゃぶしゃぶ店でのシーンで描かれたすばるの明るく気遣いできるという、いわば単純な人物像は、自宅で仁菜が泣き崩れるところへ、二人がやってくるラストシーンで打ち砕かれることになる。
 仁菜と桃香が話しているとき、すばるはぼろぼろのライトを持って、静かに歩いてフレームアウトしていく。そして、二人が話し終わるタイミングで、ちょうどライトを付け終え、ライトを点灯する。点灯後、同じ画面に三人が映り、和んだ空気になるも、その後、泣きじゃくる仁菜に向かって言うのが、容赦のない「めんどくせー」だった。すばるの人物像が更新されながら、仁菜は仁菜で、先ほど逃げ出したすばるの膝を殴って「めんどくせー」の言葉にやり返す。
 すばるは、仁菜に向かって、絶えず気を遣う一面を持っていながらも、それだけではなかった。「めんどくせー」ことに、「めんどくせー」と言える率直さ、そうした意味で明るい気遣い上手な面に、取り繕わない毒をも持ち合わせていた。この一言は、すばるの絶え間ない気遣い、明るい振舞い、それを補強するライトを点ける行為、などによって、一際印象的に聞こえる。この取り繕わなさ、率直さを、仁菜が感じ取ったことで、玄関口でのやり取りの気まずさ、しゃぶしゃぶ店で押しつけに感じた気遣いも、ひねくれた見方出会ったことがわかる。
 そのことは、同級生からのずる賢く陰湿なイジメにやり返せなかった仁菜が、「めんどくせー」と言うすばるにはやり返せた。やられやり返しの応酬により、毒をぶつけ合い、互いを受け入れられることで、仁菜とすばるの間にきれいごとではない関係性が芽生えた。すばるは、明るく気遣いもできるけれども、裏腹な明るく気遣いのできない率直さをも持つ、一癖ある人物だった。

 

終わりに

 ライトを点ける、という行為に着目した後、仁菜と桃香の物語、そこに入り込んできたすばると仁菜の物語を追ってきた。その中で、明るく気遣いできるすばると仁菜の関係に萌芽が見られるのか確認した。それを可能にしたのが、すばるの軽率な率直さ、つまりはノンデリカシーな部分だった。

 このようなすばるを加えたメンバーが、それぞれが個性的なメンバーゆえに、どのような化学反応を起こしていくのか、注目していきたい。