【アニメ考察】三つの扉とホラー・苦悩の語りについて_『光が死んだ夏』3話【2025夏アニメ】

©モクモクれん/KADOKAWA・「光が死んだ夏」製作委員会

 

    youtu.be●原作
モクモクれん(KADOKAWAヤングエースUP」連載)

●スタッフ
監督・シリーズ構成:竹下良平/キャラクターデザイン・総作画監督高橋裕一/ドロドロアニメーター:平岡政展/プロップデザイン:應地隆之介/サブキャラクターデザイン:渡辺舞・西願宏子・長澤翔子/美術設定:多田周平・高橋武之・曽野由大美術監督:本田こうへい/色彩設計:中野尚美/色彩設計補佐:越田侑子/3D 監督:中野祥典/撮影監督:前田智大/2D デザイン:永良雄亮・津江優里/編集:木村佳史子/音響演出:笠松広司/音響制作:dugout/音楽:梅林太郎

制作会社:CygamesPictures

・3話スタッフ
脚本:竹下良平/絵コンテ:横山麻華/演出:城戸康平・宇和野歩・横山麻華/作画監督:矢永沙織・王國年・鵲あかね・西願宏子

●キャラクター&キャスト
辻中佳紀:小林千晃/ヒカル:梅田修一朗/田中:小林親弘/暮林理恵:小若和郁那/山岸朝子花守ゆみり/巻ゆうた:中島ヨシキ/田所結希:若山詩音

公式サイト:TVアニメ『光が死んだ夏』公式サイト
公式X(Twitter):TVアニメ「光が死んだ夏」公式 (@hikanatsu_anime) / X

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 『光が死んだ夏』三話は、ホラーと主人公辻中佳紀の苦悩といったジャンル・物語がうまく組み合わされて語り出される。

 ざっくりのあらすじは、以下。

 佳紀の幼なじみ光が行方不明になるも、ある日光とは違う何か(ヒカル)となって帰ってくる。光に特別な感情を抱いていた佳紀は、不安を抱えながら、ヒカルが光とは違うと知りながら共に過ごす。ヒカルが帰ってきたのと同時に、光が行方不明になった山や彼らが住むクビタチ村で不可解なことが起こり始め、村全体に不穏な空気が漂い始める。

 以上全体のあらすじを受けて、三話では、村民の不審死、村民の警告によって、佳紀は、この不穏な空気の元凶がヒカルだと気づき始める。彼は光ではないヒカルとこのまま一緒にいてもいいのか悩み、その苦悩の果てに、佳紀とヒカルの関係が変質する。二人の関係性の変化が描かれると同時に、佳紀にヒカルへの疑念を生ませた、得体のしれない何かであるヒカルの不穏さも描かれる。

 前者が登場人物たちの関係性の進展、後者が不穏な何かであるヒカルが持つホラー要素である。冒頭でも書いたように、三話の語りがおもしろいのは、両者がうまく結びつけられているからだ。この巧みな主題とジャンルの結び付けは、扉を効果的に使った語りにより可能となっている。

 三話で目立って登場する扉は、物語を、状況を、雄弁に語る。では、その語りはどのように行われたのか具体的に見ていこう。


三つの扉とホラー・苦悩の語り

 語りに扉を使う、と一口に言っても、様々な使い方がある。象徴的にも、登場人物の動作・動線の誘導・制約にも、物語の区切りなどの映像話法にも使うことができる。映像で何かを語る上で、扉は映像に相性がよく、たびたび使われる。

 たびたび使われるのだが、三話では、実際どのように使われたのか。先述した通り、キーワードは、ホラー(得体のしれないヒカルの不穏さ)と苦悩(物語・関係性の進展)である。

 まずは、ホラーがわかりやすい。本作は、山で行方不明となった光が、期間を経て村に戻ってきたが、当の光は死んでいて、彼の体に何かが憑りついて帰ってきた、といったホラーの設定を持っている。

 山から帰ってきたヒカルは、光の姿をしているが、光ではない存在。そのような存在のヒカルと一緒にいることに、佳紀は少なからずヒカルに疑念を抱く。疑念は大きくなり、以前ヒカルのことで警告を受けた霊感のある女性暮林理恵と会う。ホラーを感じさせるのは、得体の知れない存在であるヒカルの動向が不明で、何をするかわからない、ということである。

 佳紀と理恵が会う前のシーンで、佳紀はヒカルの家を訪れ、寝ているヒカルの前で、理恵にチャットを送っている。佳紀がヒカルのいる部屋から離れた間に、机に置かれたスマホの通知でヒカルが目覚め、佳紀が自分の知らない誰かと会うことを知る。次のシーンで、よしきと女性は待ち合わせ場所のスーパーで落ち合い、レストラン「あめりか」で二人が座っている。

 ここで注目したいのは、劇伴と効果音である。不穏な劇伴が佳紀と理恵が話すシーン全体にヒカルの影を落とし、その緊張感が扉の効果音で持続していく。

 ヒカルが、佳紀が理恵と会った理由や彼の意図を知ったら、何をするかわからない。そのわからない怖さを視聴者は、二話でヒカルに怯えていたおばあさんが変死するシーンを通じて知っている。一歩間違えれば惨劇を起こしかねないヒカルの動向に、緊張が走る。この待ち合わせの直前シーンに、ヒカルが佳紀のスマホ通知に気づいたところから、光が女性との待ち合わせへ、シーンをまたいで不穏な劇伴がかかる。それにより、ヒカルによる緊張感を増長させ、ヒカルのいない二人の時間にヒカルの影が広がる。

 二人は待ち合わせ場所から「あめりか」へ移動する。看板のショットを挟んで、二人は移動していて、喫茶店の扉の音だけが提示される。扉の音は、待ち合わせ場所からの二人の移動、「あめりか」への入店を簡潔に伝えるのだが、扉の音がずり上げられているので、誰の行動で鳴った音なのかわからない。この扉の音のずり上げによる違和感、直前の不穏な劇伴、ヒカルがスマホ画面で佳紀と理恵が会うことに気づいている情報提示で、最悪の結果を予想せずにはいられない。だが、結果、直後の映像を見れば、二人が入店したことがわかり、一安心できる。だが、扉の音の主がはっきりしたことで、この空間が完全な安全地帯になったわけではない。二人がヒカルのこと、ヒカルと似た状況だった理恵の夫のことを話す節目に、客の出が店員の声、扉を開く音が聞こえる。当然、二人が話す空間は、閉ざされていない。それはつまり、ヒカルがやってくる可能性もあるし、何らかの形で介入してくる可能性がある、ということだ。音はそうした可能性に意識を向けさせる。

 もちろん、移動から入店の省略に使われたずり上げられた扉の音だったが、ずり上げの効果で、扉の音が際立つ状況で、緊張感も手伝って扉の音は耳に残る。だからこそ、二人の話に耳を傾けながらも、店員の声、そして扉の音、そこから示唆される人の出入りに敏感になる。もし、今ヒカルの話をしている最中に、ヒカルが現れたら、と考えてしまう。

 こうした血が流れるような惨劇が起こらないシーンでも、もしかしたらヒカルが来るかもしれない、二人の話を聞いてしまうかもしれない、といった想像力を掻き立てて、ホラー要素を的確に演出している。


 理恵との話で、佳紀はヒカルとの関係を一層悩むこととなる。放課後の教室でのシーンで、まさに悩みで閉じこもる。佳紀の悩む姿は、教室扉の開閉により印象付けられる。まず、佳紀が教室に一人で残っているところに、友人の田所結希がやってきて、扉を閉めて去っていく。閉め切った空間に、ヒカルとの関係に悩み、閉じこもった佳紀が浮かび上がってくる。結希により一度開けられ、再び閉じられた教室が、悩みの内に閉じこもった佳紀の姿を体現する。

 次に、扉の音が響き、ヒカルが入ってくる。当のヒカルがやってきて、教室に入ってくることで、佳紀の閉じこもりは中断させられる。開けっぱなしの教室で、二人は向かい合うこととなる。佳紀のヒカルへの態度がおかしいこと、自分の知らない人と会っていたこと、などヒカルが佳紀を問い詰める。佳紀の悩みを知らずに、彼の閉じこもった空間に入り込んでくる。ここで二人の関係が解決せず、ヒカルは佳紀を残して教室を去るし、佳紀は教室に残る。

 光であって、光でないヒカルとの関係を悩む姿、そして以前そうであったかもしれない閉じこもった佳紀に入り込んでくる光(=ヒカル)の関係、が教室・扉を使って演じられていた。


 教室での一件での翌日に、佳紀は友人たちとの会話をきっかけに、かつての光ではなく、今のヒカルとの関係を取り戻そうとする。そのために、ヒカルの家を訪れ、晴れて関係修復を達成する。

 佳紀がヒカルの家を訪れるのは、三話中に二回ある。悩みがあった序盤、悩みが晴れた終盤で、佳紀がヒカルの家を訪れている。いずれも、暗転して、扉の音と「ヒカルおる~?」の佳紀の声が入る。暗転、佳紀のセリフが共通しているが、その中身は異なった意味を持っている。序盤の訪問は、ヒカルとの関係で悩みを持ちつつ、スイカを届ける名目で光を訪ね、不安の種を孕んでいる。逆に、終盤の訪問は、悩みが晴れ、ヒカルとの関係を修復するために訪ね、不安の解消に至っている。

 二つのシーンを比較すると、ヒカルに会いに行く佳紀の違いが、暗転へのつなぎ方の違い、扉・自転車の音を含めた「ヒカルおる~?」のセリフのスピード感、セリフの声質からも作られている。暗転前の佳紀の行動の違い、暗転後に玄関扉を開けて「ヒカルおる~?」のセリフが出て来るまでのスピード感の違い、など序盤とは違って、終盤の佳紀はヒカルに会うことへの強い意欲を感じさせる。

 佳紀がヒカルとの関わり方に答えを出す前後で、佳紀がヒカルの家に行き、玄関扉を開けるとき、佳紀の同じ行動、同じ暗転画面に、同じセリフが繰り返される。この繰り返しが一つの手助けとなり、ヒカルに会って伝えたいという思いが提示されることによって、三話で佳紀が出した答え、その答えをヒカルに伝える佳紀の言動が、血を通ったものと感じさせてくれる。



 光であって光でない彼について、佳紀は悩む。悩んだ佳紀が、ヒカルとの関係をどうするのか、今後も形を変えて繰り返されるだろう問いに、光ではなくヒカルを見る、といったひとまずの決着を付ける過程が描かれた。『光が死んだ夏』三話で描かれた過程を、ホラー要素、佳紀の悩む様子、悩み前後の佳紀の行動を語る枠組み、など三つの扉を起点に考えてみた。ホラー要素、佳紀が苦悩する導入・過程・決着までを、両者を切り離すことなく、偏りなく青春ホラーが語られた回だった。青春とホラーという夏にぴったりの作品の今後の展開に期待したい。