youtu.be●原作
武田綾乃『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』(宝島社文庫)
●スタッフ
監督:石原立也/副監督:小川太一/シリーズ構成:花田十輝/キャラクターデザイン:池田晶子・池田和美/総作画監督:池田和美/楽器設定:髙橋博行/楽器作画監督:太田稔/美術監督:篠原睦雄/3D美術:鵜ノ口穣二/色彩設計:竹田明代/撮影監督:髙尾一也/3D監督:冨板紀宏/音響監督:鶴岡陽太/音楽:松田彬人/音楽制作:ランティス・ハートカンパニー/音楽協力:洗足学園音楽大学/演奏協力:プログレッシブ!ウインド・オーケストラ/吹奏楽監修:大和田雅洋
・六話スタッフ
脚本:花田十輝/絵コンテ・演出:北之原孝將/作画監督:丸木宣明
制作会社:京都アニメーション
●キャラクター&キャスト
黄前久美子:黒沢ともよ/加藤葉月:朝井彩加/川島緑輝:豊田萌絵/高坂麗奈:安済知佳/黒江真由:戸松遥/塚本秀一:石谷春貴/釜屋つばめ:大橋彩香/久石奏:雨宮天/鈴木美玲:七瀬彩夏/鈴木さつき:久野美咲/月永求:土屋神葉/剣崎梨々花:杉浦しおり/釜屋すずめ:夏川椎菜/上石弥生:松田彩音/針谷佳穂:寺澤百花/義井沙里:陶山恵実里/滝昇:櫻井孝宏
公式サイト:TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』公式サイト (anime-eupho.com)
公式X(Twitter):アニメ「響け!ユーフォニアム」公式 (@anime_eupho) / X (twitter.com)
※この考察は、『響け!ユーフォニアム3』5話、6話のネタバレを含みます。
概要
『響け!ユーフォニアム3』六話は、コンクールのオーディションを軸にした、緊張感が見どころだった。オーディションを受ける緊張、オーディションの結果を待つ緊張が、部全体の空気を固くしている。主人公の黄前久美子もこの緊張感の中にいて、オーディションというイベントに、部長として対処していくことになる。
その一つの典型例が、オーディション結果の不満を表明する鈴木美鈴と久美子のやり取りだった。オーディションの結果に一喜一憂する緊張感に加えて、オーディション結果への不満が出てくるのは、トランペットのソロ問題の回想が入るように、一期での出来事を彷彿させる緊張感がある。オーディション特有の緊張が部員内に見られ、視聴者へもその緊張感が伝わってくる。
しかし、六話の大筋で進行するのは、五話から引き続く、久美子と真由のやり取りだ。二人のやり取りが特徴的なのは、久美子が部長としてだけでなく、部長という立場抜きに真由と微妙な関係にあるところだ。二人の間には、不和とまではいかない少し離れた距離感がある。その距離感が、真由の側から描かれた五話とは異なり、六話では久美子の側から描かれる。こうした真由と久美子のやり取りは、オーディションによる緊張感とは別方向から、六話に緊張感をもたらす。
本ブログでは、久美子が、部長として/個人として、真由と接する際に、いかに緊張感を作り出しているのか、見ていきたい。本話の中から、真由がオーディション辞退を口にするシーンと校舎裏で個人練習する久美子の元へ真由がやってくるシーン、の二つのシーンを取りあげる。
部長と部員の距離感
ユーフォニアム奏者とチューバ奏者
六話で、真由がオーディション辞退の話題を口にするのは、六話序盤である。二年生久石奏の発言に反応して、真由は五話での辞退の話を蒸し返し、真由と久美子の話し合いが始まる。真由と久美子に目を目を向ける前に、周囲の状況から始めたい。
まず、真由があがた祭り・修学旅行での写真を見せるところから始まり、次いで全体練習の光景が差しこまれる。その後、低音パートのパート練習の光景に移る。そこでは、向かって左手のチューバ奏者たちのチューニングの話から、右手のユーフォニアム奏者たちへ会話が流れていく。
ユーフォニアム奏者内の会話で、真由がオーディションを辞退した方がよいか、という五話でも話された話題が繰り返される。これに対して、久美子は五話と同様に、部内の方針に従って、部長らしく返答する。
真由と久美子に挟まれて、ユーフォニアム奏者の一年生の針谷佳穂、二年生の久石奏は、二人の話を聞いている。注目したいのが、五話とは異なり、この真由の不安から始まったデリケートな会話が、五話の真由・久美子・奏という会話の輪に、同じくユーフォニアム奏者の佳穂を加えただけでなく、同じ低音パートのチューバ奏者たちにまで、その輪が広がっているところである。
この輪の広がりは二点をもって行われる。一点目が、ユーフォニアム奏者の話をチューバ奏者に聞こえている状況を作ることである。これは、チューバ奏者からユーフォニアム奏者へ話が移るときにつくられる。チューバ奏者内でチューニングの話をして、二年生鈴木さつきが、話し終わるのと同時のタイミングで、ショットがユーフォニアムへ移る。その際、チューニングの話題を引き継いで佳穂に発言させつつ、ユーフォニアム奏者たちの裏で、チューバ奏者内の会話が続いているのを音声で入れ込んでいる。佳穂が話題を引き継いでいるように、チューバ奏者内での話は、ユーフォニアム奏者に聞こえている。裏を返せば、ユーフォニアム奏者でこれから話していくこと、真由がオーディション辞退した方がよいか、という話題も、チューバ奏者に聞こえている。つまり、話題・音を途切れさせずに、チューバ奏者からユーフォニアム奏者の会話へとつなぐことで、真由と久美子の話題をチューバ奏者にも聞こえる状況を作り出し、真由の話題に関する会話の輪を、ユーフォニアム奏者からチューバ奏者へと広げられる。また、二点目、チューバ奏者がユーフォニアム奏者の話を聞いている状況を見せることである。話の途中にワンショット、引きの絵で、ユーフォニアム奏者に加えて、チューバ奏者がユーフォニアム側を見ている様子で画面端に映るよう画面構成される。
真由はオーディションを辞退した方がよいか、という話題を、ユーフォニアム・チューバ奏者たちが聞く中で、話されるという状況が作られている。この五話でも、この話題は話されていた、と言った。五話と六話では、同じくパート練習の中でこの話題が話されるのだが、両者の状況のつくり方が異なる。五話では、詳細は以下ブログに譲るが、低音パートの部員が教室内に四組に散らばっている中、ユーフォニアム奏者(真由・久美子・奏)を除いて、三組は各部員を部員越しのショットでつないでいるのだが、この話題が話されるユーフォニアム奏者三人を映す際には、部員越しのショットなしに、いきなり真由の足元のショットで繋がれ、他の部員たちと断絶された状況が作られていた。
六話では、その断絶が取り払われ、話題・音的な繋がりを持たせて、ユーフォニアム奏者にチューバ奏者を含めた公開の話し合いになっている。
みんなが聞いている中で、デリケートな問題を話し合う状況自体が、登場人物たち、そして視聴者にも緊張感を高める一因となるし、このことが、真由の不安に対して、久美子が部長としての立場から回答することを、補強することにもなる。
部員の不安と部長の正論
こうした状況の中、奏の「敵」という発言をきっかけに、真由はオーディション辞退の話を持ち出す。真由と久美子、下級生の奏と佳穂を入れて、オーディション辞退の話が進んでいく。みんなが聞いている状況、という緊張感漂う中、真由と久美子の間で距離を感じる話し合いが、より緊張感を引き立てる。
ユーフォニアム奏者たちが話すシーンにおいて、真由の側で特徴的なのが、久美子越しに映る真由の二つのクローズアップである。一か所目は、奏のオーディションの同じ楽器奏者を「敵」という冗談に、真由がやっぱりオーディション辞退した方がいいか問う、この話題の始まりの部分である。二か所目は、オーディション辞退を巡って、久美子が真由に対して、辞退する必要がないことを説明した後、真由が「久美子ちゃん、部長だもんね」と言う部分である。
二つのショットを比較すると、久美子から真由への距離がかなり違っている。一か所目は、真由への距離が近く、二か所目は遠い。その距離間と、真由のセリフが相まって、一か所目には、差し迫った感じを受けるのに対して、二か所目は、突き放した感じを受ける。
このことは、真由の状態を語るとともに、真由に対する久美子の状態をも語ることになる。部員全員で目標へ向かうことを望む久美子は、真由のオーディション辞退の発言に動揺する一方、真由の不安に対しては、部長という立場、言い換えれば部長という少し離れた距離から、至極真っ当な意見で、真由を説得していくことになる。
久美子は、部長らしくふるまうが、文字通り一呼吸置いて、彼女はそのようにふるまう。
真由の不安に、部長としての立場から、正論を返す。その内容を簡単にまとめれば、「全国大会金賞」を目指す部の方針からして、うまい人がオーディションで選ばれることが、この部にとって最善であり、だから、うまければだれがオーディションで選ばれても問題ない。そうした正論で、オーディションへの不安を抱える真由を諭すことになる。
彼女の正しくある言葉は、すらすらと迷いなく口から出てきたわけではない。彼女の答えへ至る前に、彼女は何かを飲み込んでから、話し始める。こうした飲み込む音、口元を強調したショットが、彼女のたどたどしい正論の言葉よりも、彼女が部長として真由に向かうことを引き立てる。
彼女の中で、整理し、心を落ち着かせて、正しい発言をするために、何かをつぐみ、息を整え、口を開く。それは、真由の場合もそうだし、先述した美鈴の話もそうであるし、その後の久美子が個人練習する際にも、深呼吸する久美子の姿が映る。
以上で話してきたのは、真由と久美子が、部員と部長として話すシーンだった。主に、久美子の部長としての側面をいかに画面に出していくのか、補強していくか、を①周囲の状況、②真由を映す二つのショット、③部長らしさとなる久美子の一呼吸、の三つの演出を取りあげた。
部長と部員の個人的な距離感
先ほどのシーンでは、真由と久美子が部員と部長の関係性で、話は進んでいく。オーディションの後、一対一の状況で、二人は話をすることになる。重要なのは、真由と久美子が一対一で会話していることだ。それは五話も六話も共通している。お互いに、周囲の人間を気にせず、先輩や部長という立場をなしに、同級生の立場から話すことが要請されないところである。
五話も六話もオーディションの話はするわけではないが、久美子が個人練習をしているところへ、真由がやってくる。このあたり、五話と六話は似ているが、五話と六話でかなり趣が異なる。五話・六話も気まずい空気感が漂うが、六話ではその気まずさ、居心地の悪さが決定的なものとなる。そのため、五話と六話での一対一での会話シーンから各話の特徴を取り出して考えてみたい。
まず、五話について。五話では、練習場所が見つけられない真由が、個人練習をする久美子の元にやってくる。息を吸いユーフォニアムへ集中していた久美子は、目の前に来た真由に気づかず驚きを見せる。練習場所の話以外にも、久美子が予想しなかったあがた祭りについて質問をされ、その会話の先で彼女は真由の誘いを嘘で断ってしまう。
こうしたとっさで予想外の真由の言動に、驚かされる。そして、久美子は距離を取りつつも、なんとなくそのままに断ってしまう。
こうして出た言葉が、「嘘を付いてしまった」であり、久美子にとって予想できない展開が続いた五話に対して、六話はかなり趣が異なる。
次に六話について。五話が、とっさで予想外の真由の言動に、久美子は驚き、とっさに嘘を付いてしまう。だが、六話は、そうした気まずさを弁明できる原因は存在しない。真由が歩み寄ってくるのに対して、久美子は、面と向かって、気まずさをにじませる。
五話同様に六話でも、個人練習する久美子の元を真由が訪れる。だが、久美子は、ユーフォニアムを吹きながら、校舎裏から近づいてくる足音に気づく。足音の主が、真由だった。というように、誰かが近づいてきたことを予想でき、久美子が待ち受ける形で、真由はユーフォニアムの音色に誘われてやってくる。そして、彼女は久美子が吹いていた曲が何の曲だったか、問いかける。それに久美子は調子を合わせて、答えることができない。真由の正面からのミディアムショットと久美子のクローズアップを組み合わせて、真由は久美子へ向かって歩を進め、いつの間にか目の前にまで進むような印象を与える。距離をすぐに詰めた真由と真由の問いに体を硬くする久美子。そして、真由は久美子に気を遣って、練習の邪魔になるから、とその場を去っていく。
久美子の元へ歩み寄ってくる真由に対して、真由の問いかけに素直に答えられない久美子。気さくに話しかける真由に対して、気まずさを募らせる久美子の姿が浮き彫りになる。
久美子のモノローグでも、真由との間に何があり、どういった感情が渦巻いているのか具体的な言葉では語られてはいない。しかし、久美子から真由に対して、個人的に思うところが何かあることが示唆されている。この久美子と真由の間にあった気まずい空気感や間は、彼女たちの間の緊張感を引き続きもたらす。
真由と久美子が一対一で、話しているシーンを見てきたが、周囲に気兼ねなく話せる状態でも二人の間に、気まずい空気が流れている。五話では真由の言動が予想外だったことで引き出される久美子の反応があった。しかし、六話では予想外さが取り除かれることで、真由が近づいてきたときの久美子の反応、それに気づいて立ち去る真由の反応が浮き彫りにされている。みんなの前から一対一の場に移っても、真由と久美子の間にある不穏さは、話している場に緊張感を醸し出す。
これまでで、真由と久美子の会話を中心に、六話に漂う緊張感の元を考えてきた。最後に別の角度から緊張感を高め、緊張感とは別に魅力がある緊張感が緩む瞬間について指摘したい。一つに、六話中盤のオーディション結果発表後に喜ぶ癒しの時間である。加藤葉月が初めてコンクールメンバーに選ばれた喜びを川島緑輝と伝え合うところに感慨があるし、一年生初心者の釜屋すずめが姉のつばめに、飛びつくほどの喜びを見せる。もう一つに、コンクール地区予選シーンの直前、職員室を後にした久美子が、高坂麗奈と軽口を言い合う。
オーディション結果に喜びが一気に噴出する、部長としての責任からくる気詰まりが解きほぐされる、そうした緩みが効果的に取り入れられ、緩みと緊張の相乗効果が生まれている。しかし、『響け!ユーフォニアム3』から登場した真由については、緩さという緩さがまだ見当たらない。彼女も、この先の展開で緊張が一気に緩むのか、徐々に解きほぐされていくのかわからないが、北宇治吹奏楽部・ユーフォニアム奏者、さらに久美子に、彼女が打ち解けた様子も見てみたい。