【アニメ考察】武器よさらば、こんにちわ人間―『SHORT PEACE』

ⒸSHORT PEACE COMMITTEE ⒸKATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE

 

  
●原作
大友克洋武器よさらば』(『週刊ヤングマガジン講談社)

●スタッフ
監督・脚本:カトキハジメ/キャラクターデザイン:田中達之メカニカルデザインカトキハジメ山根公利CGI監督:若間真/作画監督堀内博之美術監督小倉宏昌/演出:森田修平/絵コンテ:カトキハジメ・片山一良/ストーリーアドバイジング:佐藤順一色彩設計:山浦晶代/撮影監督:田沢二郎/編集:瀬山武司/音楽:石川智久/音響監督:鶴岡陽太

制作:サンライズ

●キャラクター&キャスト
マール:二又一成/ラム:檀臣幸ギムレット牛山茂/ジン:大塚明夫/ジャンキー:置鮎龍太郎

公式サイト:映画『SHORT PEACE』オフィシャルサイト (shortpeace-movie.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 本作が所収される『SHORT PEACE』は、OP映像と短編四編のオムニバスから成る。『SHORT PEACE』は、本作の他に、森本晃司監督のオープニング映像、監督:森田修平「九十九」、監督:大友克洋火要鎮」、監督:安藤裕章「GAMBO」によって構成される。各作品が、独創的な世界観、独特な映像表現を、日本という共通舞台で繰り広げる。その中でも、カトキハジメ監督の「武器よさらば」を取り上げる。個性的な作品群の中で、本作がどのような個性を表出させているのか、見ていきたい。

 

あらすじ諸々

 主人公たちは、乾いた砂漠の地を進む。廃墟に残された装備・武器などのお宝を持ち帰り、それを生活の糧にする。彼らは、戦争が終わった時代でも、傭兵さながら、<戦争>を生活の糧にしている。

 富士山が見え、東京の街が登場する通り、本作の中心地は、日本らしき都市である。主人公たちが、都市に降り立つと、敵性の自律戦車が、起動開始する。この鋼鉄の塊と彼ら「プロテクトスーツ(以下、より一般的なパワードスーツ)」部隊との、三段階の<戦争>が幕を開ける。

 東京の荒れ地で展開されるのは、自律戦車と激しい攻防を繰り広げる市街戦、自律戦車の急襲から一方的な攻撃を受ける地下鉄戦、最後に敵勢力ともみなされなくなる地上戦の三つの戦いである。第一段階の市街戦では、自律戦車と正面から対峙し、市街戦が臨場感たっぷりに描かれる。市街戦でかろうじて自律戦車を退けた一行は、地下鉄構内らしき地下を探索する。埃と瓦礫にまみれた地下内で、マールがお宝の兵器(TEL*1とミサイル)を発見したのもつかの間、突如、先ほどの自律戦車が地下内に登場する。地下鉄での自律戦車との再戦が第二段階となる。地下鉄内の戦闘で、ラム・ジンと順に仲間が減っていく。マールは何とかTELでミサイルを起動するも、射出されたミサイルは地下から地上へと穴を穿ち、むなしくミサイルは爆散してしまう。マール・ギムレットが、崩落した地下から地上へ生還したように、自律戦車も健在だった。自律戦車は、一瞬でギムレットの頭部を貫き、マールに迫る。自律戦車に追い詰められたマールは、脱ぎ捨てたパワードスーツ、認識票さえ自律戦車の光線に焼かれてしまう。丸腰・丸裸の彼は、武装をしていないため、自律戦車から民間人扱いを受ける。彼は自律戦車に一矢報いようと、ミサイルの弾頭を手に、自律戦車へ飛び掛かって、静かに<戦争>は幕を閉じる。

 簡単にあらすじを語ってみたものの、本作の魅力は、簡単には語り切れない。砂漠の地で、一体の自律戦車に立ち向かうパワードスーツ部隊の熱い物語、最終的には自律戦車に蹂躙されてしまう悲哀的な物語は、観客の注意を掴んで離さないし、3DCGが豪華に使用されることで、ミサイルが飛び、光線が放たれる戦場が、確かな厚みを持って描き出される。約二十五分の尺には、例えば、リアルな戦闘・豪華な3DCG作画・熱狂から哀愁まで振り幅大の物語・兵装や戦車のディティールについて、観るべきところ、観たいところ、大略から細部までが揃っている。

 到底このすべてを語り尽くすことはできない。一つ本作でユニークなのが、カメラの映像をモニターで見る、という描写が見られる。彼らが装着するパワードスーツのヘルメット部に、モニターが仕込まれている。このモニターを通して、UAVのカメラ・各人のカメラや戦場のマップなど情報を伝達・収集する。本ブログでは、この<戦争>の中で活躍する、情報デバイスすなわち、情報を伝達するモニターに着眼したい。

 そのため、まず、第一段階の市街戦、第二段階の地下鉄戦、第三段階の地上<戦>を、情報デバイスの観点からポイントを指摘していく。ポイントを抑え、全体の流れを確認しながら、最終的にパワードスーツをはがされた人間が誕生し、マールが見せる人間性の発露を見届けたい。

 

武器人間 VS. 自律戦車

<武器>対武器の市街戦

 彼らは、パワードスーツという近未来的な装備を持ち、颯爽と荒れ地を、装甲車で駆けていく。自律戦車と<戦争>を始める市街戦でも、その軽やかさは変わらない。軽やかさは、戦闘中に、リーダーのギムレットから各人への指示の迅速さ、それに対する各人の行動の即応性に変奏させられ、<戦争>のスピード感として画面に残り続ける。

 しかし、スピードがあれば、非力な人間が自律戦車に適うわけではない。スピーディーな行動は、標的の自律戦車撃破に向かって、組織されなければならない。この組織化に必要なのが、リーダーの的確な指示であり、さらにその指示を可能にするのが、毎秒変容する戦況の全体情報を、リアルタイムかつシームレスに指揮官へ提供することである。ここで、一役買っているのが、最初に言及した情報デバイスである。

 市街戦では、パワードスーツ・重火器・UAVなどの攻撃用の兵装以外に、この情報デバイスが魅力的に描かれる。情報は、通信機器を介して、音声で通信できる。だが、注目したいのは、音声情報よりも視覚情報である。パワードスーツの顔面部は、モニターになっている。パワードスーツ本来の防護機能に加えて、備え付けのモニターに情報が視覚的に表示される。モニターを介して装備者は、UAVのカメラ映像・他隊員のカメラ映像や市街地のマップ情報など見ることができる。それにより、装備者から離れた場所の地形・敵の情報、さらに味方の位置情報まで、素早く鳥瞰的に視覚化される。

 このモニターの意味付けは、演出により、強く方向づけられていた。モニターでは、UAVに取り付けられたカメラ映像、各人のカメラ映像、さらに各人の位置や標的の位置の、二次元的なマッピング図を見ることができる。カメラ映像とそれを見る装備者のショット繋ぎが、このモニターが持つ意味を表現してくれる。カメラ映像のショット、続いて素早いズームアウトのカメラワークを用いて、装備者がモニターを見ているショットへと移行させる。ここで、カメラワークの素早さは情報伝達の即時性を、カメラ映像とそれを見る装備者のショット間をカットしないこと(=ズームアウトで処理すること)は、情報伝達のシームレス性を、表現してくれる。

 そして、このモニターがパワードスーツの一部に組み込まれていることからも、意味を引き出すことができる。パワードスーツは、衣服のように、身体に装備することで、人間は自らの柔な肉体の外部に硬質な外殻を獲得し、内部の身体能力を飛躍的に向上できる。要するに、装備することで、超人間的な効果を得られる。このことは、視覚モニターにも当てはまる。

 先述したシームレス性について言及した、カメラ映像とモニターを見る装備者を収めるショットのシームレスな繋ぎ(=カメラワーク)は、モニターと装備者の一体化を表現してくれる。例えば、UAVのカメラ映像の場合、UAVのカメラ映像そのものが映った直後に、映像はカットされることなく、UAVの映像が映るモニター画面と装備者が映るショットに続く。ここでは、UAVが撮影する映像とその映像をヘルメットのモニターを通して見る装備者を、カットを変えずシームレスに映し出すことによって、まるでUAVのいる位置から見ているように、装備者はその映像から直接に、戦場の情報を引き出している。その意味で、UAVの視覚と装備者の視覚が一体化する様が表現され、パワードスーツの装備者は、自分の両目以外の、情報収集する<目>を手に入れる。つまり、装備者はUAVの視覚を取り込み、自らの視覚を拡張している。このことは、UAVのカメラ映像だけではなく、各人のカメラ映像でも同一である。パワードスーツは装備者に、防御性能・身体能力を強化させ、視覚を拡充させる。そうして、パワードスーツは、装備者を超人間的な存在に仕立て上げる。

 とはいえ、前述したように、超人間的な能力を獲得したとはいえ、自律戦車の性能と比較すれば、個人が持つ能力は限定されたものである。それゆえ、個人の力で、自律戦車を破壊することは容易には叶わない。しかし、市街戦では、自律戦車を退けることができる。

 収集された情報は、音声通信及びモニターを通じて、パワードスーツ部隊の各人に伝達される。その情報を基に、部隊のリーダー的存在のギムレットが、部隊の三人に指示を出す。情報が収集され、即時に伝達されることによって、指揮官の指示が可能になる。そして、その指揮官の指示によって、今度は各人の動きが組織化・体系化される。そのような個人が有機的な集団、すなわち戦場(=市街)を覆う一つの兵器となったからこそ、強力な自律戦車を退けることができたのである。

 次シーンの地下鉄戦では、市街戦での善戦は嘘のように、苦戦を強いられる。次に、自律戦車との地下鉄での戦闘シーンに話を進める。ここでも、パワードスーツという強化・拡張装備によって、彼らは超人間的な能力を手に入れ、そうすることで初めて、自律戦車と抗戦可能になる、という点を念頭に置きたい。特に、地下鉄で焦点になるのは、市街戦で重要視した情報伝達が機能不全を起こしたことで、戦況が大きく変わっていくことである。

 

崩壊した地下鉄戦

 市街戦で、自律戦車を仕留めたと思われたが、彼ら部隊は、地下鉄らしき場所で、同じ自律戦車と再度戦闘となる。まず、後方支援のジャンキーとの連絡が途絶える。次に、不意を突かれ、部隊の一人、ラムが、自律戦車の光線で蒸発してしまう。マール・ギムレット・ジンの三人で連携を試みるも、地の利も連携も生かせず、まともに応戦することができない。自律戦車の懐に飛び込んだジンも、ラム同様に光線で蒸発してしまう。この戦闘は、マールが入り込んだTELで起動したミサイルの爆発により休戦となる。

 地下での戦闘は、自律戦車に軍配が上がり、パワードスーツ部隊は崩壊させられる。予期しなかった急襲により、彼らの陣形はバラバラにされる。そして、事前準備ができなかったことに加えて、地下であるから、彼らの視覚を拡張するUAVは、設置できていない。何より、UAVは地下内では自由に飛行できず、自律戦車の的になるだけで、役に立たない。

 完全に先手を自律戦車に取られ、UAVによる情報収集し、戦況を見極め、適切な組織化を行い、自律戦車に立ち向かうこともできない。そうして、彼らは追い詰められ、部隊は崩壊させられる。市街戦では、彼らが戦場を支配していた様子が、UAVの映像から彼らのショットへ切り替わることで、よく表現されていた。しかし、地下に入ると、そもそも地下でUAVが飛ばせないために、この表現は見られず、この表現は、ジャンキーの死を確認するという酷な戦況把握にのみ使用される。

 情報収集・伝達が困難になり、彼らの動きはバラバラになる。光線の反動で一瞬、マールが気絶していたのを、指揮するギムレットやジンは把握できない。また、電磁パルスを自律戦車に食らわせ、自律戦車の主砲とランチャーをつぶしにかかる。そのとき、ジンは、ギムレットががれきに挟まれていることに気づかず、単独で自律戦車へ向かってしまう。急襲にあったとはいえ、UAV以外すべての装備が整っている状態で、部隊は崩壊させられてしまう。

 マールが起動させたミサイルは、射出空間がない地下内を、生き物のように動き回る。その最中、弾頭を天井に衝突させ、機体を押しつぶしながら、遂には弾頭に着火し、天井へ大穴を開ける。マールとギムレットは地獄を生き残る。ただ、自律戦車との<戦争>は終わらない。

 

失われた地上<戦>

 天井の大穴から外に出たマール・ギムレットは、戦闘は終結したと思い込んでいた。しかし、地下から自律戦車は、再びやってくる。一瞬で、光線がギムレットの頭を貫き、その命を奪う。マールは自律戦車の姿を見て、後ずさる。そのとき、デジタル式の認識票を落とす。自律戦車は、パワードスーツ・認識票を破壊しつくすと、マールを非戦闘員とみなし、マールを置き去りに帰還していく。敵兵とすらみなされないマールは、服を焼かれ全裸になりながら、原始的にも弾頭を掲げて、自律戦車へ自爆特攻を試みる。

 地上<戦>と書いたものの、この場では「戦い」にはなっていない。自律戦車が何の苦も無く、敵勢力を無力化しただけである。生き残ったマールは、装備のすべてを失い、生まれたままの姿となり、戦闘員という地位も剥奪される。彼ら部隊が、地下鉄戦で、情報を失ったように、ここでも防御性能・身体能力を高めるパワードスーツを失う。拡充された視覚、工場させられた防御性能・身体能力を失ったマールは、ただの人間となってしまう。

 

武器よさらば、こんにちわ人間

 以上で、パワードスーツ、特にモニターを介した情報収集・伝達について、『武器よさらば』の流れを見てきた。

 市街戦では、情報収集による組織力、さらに人間を強化し戦車に対抗し得る兵器の面で、彼ら部隊は、自律戦車と何とか渡り合う。次に、地下鉄戦では、部隊を組織化する手段の、情報収集・伝達のための拡充された視覚が失われる。それにより、装備はあれども、各人の状態、敵の状態、周囲の状況を総合した戦況が、指揮官のギムレットにも把握できない。そうして、部隊は連携を失い、ラム・ジンの順に命を落とす。最後に、地上<戦>では、拡充された視覚を失い、組織化する仲間を失ったマールは、驚異的な防御性能・身体能力を授けてきたパワードスーツをも破壊される。彼ら部隊を、戦車と渡り合わせる超人間的な力を授けたものは、すべて失われてしまった。

 この絶望的な地点こそが、人間性を最も発露させる場なのかもしれない。自律戦車は、戦争法規に基づき、目の前の人間が敵性か判断し、非敵性すなわち民間人と判断すると、同じく戦争法規に基づき、見逃す。それに対して、マールはパワードスーツを破壊され、抗戦する手段がないにもかかわらず、民間人に認定された怒りや仲間を殺された意地から、人間そのものの力で、弾頭を抱えて、自律戦車に立ち向かう。

 パワードスーツを失い、超人間的な能力を失って、マールは裸のただの人間として放り出される。それでも彼は、無謀でもありながら、戦車に向かっていく。この点を、人間の愚かしい欠点とみるか、人間の愛すべき美点と見るか、さらなる解釈を試みても、おもしろいかもしれない。

*1:TELは「transporter erector launcher」の略で、輸送起立発射機と訳される。その名の通り、輸送機付きのミサイル発射機である。輸送時は、ミサイルを寝かせて、発射時に垂直に起こして発射する。