【アニメ考察】「革命」と「百合」の始動ー『転生王女と天才令嬢の魔法革命』2話

©2023 鴉ぴえろ・きさらぎゆり/KADOKAWA/転天製作委員会

 

 転生王女と天才令嬢が出会う「王宮百合ファンタジー」と謳われているが、百合以前に、二人の仲を深める(深めてもよくする)シーンで、演出が冴えわたる。本ブログでは、特に二話の前半部分、すなわちアニスフィア・ユフィリアと彼女たちそれぞれの父であるオルファンス・グランツの四人での会話シーンに言及し、その中でも、部屋の仕切りが持つ効果について見ていく。

 

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●スタッフ
監督:玉木慎吾/シリーズ構成:渡航/キャラクターデザイン:井出直美/クリーチャーデザイン:宮澤努/イメージボード:益田賢治/美術設定:滝口勝久/美術監督:細井友保/色彩設計:林由稀/撮影監督:伊藤康行/オフライン編集:小島俊彦/音響監督:立石弥生/音響制作:ビットグルーヴプロモーション/音楽:日向萌/音楽制作:KADOKAWA
アニメーション制作:ディオメディア

●キャラクター&キャスト
アニスフィア・ウィン・パレッティア:千本木彩花/ユフィリア・マゼンタ:石見舞菜香/イリア・コーラル:加隈亜衣/アルガルド・ボナ・パレッティア:坂田将吾/レイニ・シアン:羊宮妃那/ティルティ・クラーレット:篠原 侑

公式サイト:TVアニメ「転生王女と天才令嬢の魔法革命」公式サイト (tenten-kakumei.com)
公式Twitterアニメ「転生王女と天才令嬢の魔法革命」公式《TVアニメ好評放送中!》 (@tenten_kakumei) / Twitter

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

あらすじ

パレッティア王国王女、アニスフィア・ウィン・パレッティアには前世の記憶がある。

魔法が当たり前に存在する世界に転生し、魔法使いに憧れるアニスフィアが夢見たのは、

魔法で空を飛ぶという、破天荒で非常識なことだった。

けれど、なぜか魔法が使えないアニスフィアは日夜、

キテレツ王女とあだ名されながら、怪しげな研究に明け暮れるはめに。

ある夜、お手製魔女箒で空へ飛び立ったアニスフィア。

暴走する箒が飛び込んだのは、貴族学院の夜会。

そこでは、魔法の天才と噂される完璧公爵令嬢ユフィリアが、

アニスフィアの弟・アルガルド王子から婚約破棄を宣言されているところだった。

声もなく流されるユフィリアの涙を見たアニスフィアはそっと手を差し伸べる。

(『転生王女と天才令嬢の魔法革命』公式サイトより)

 

概要

 二話では、アニスフィアとユフィリアが出会い、物語が本格的に始まる。一話で、アニスフィアが、婚約者のアルガルドに公衆の面前で、婚約破棄を宣言されたユフィリアを強引にさらったところから続く。アニスフィアが、さらったユフィリアを自分の助手にする提案を父で現国王のオルファンスに直談判する。ユフィリアを助手にする話がまとまり、二人の間に一定の絆が生まれるのが、二話のゴール地点である。

 あらすじを簡単に説明したように、アニスフィアとユフィリアの間に、信頼関係の萌芽が生まれる。ここでは、その信頼関係が醸成される、空間をどのように演出しているのか見ていきたい。

 

ドラマを区切る仕切り

 本作で存在感を放つのは、仕切りである。アニスフィア・ユフィリア・オルファンス、そしてユフィリアの父で宰相のグランツの四人が会して、アニスフィアの提案を聞く広間、アニスフィアとユフィリアが眠る寝室、それぞれ大切なシーンで仕切りが、効果を発揮している。

 二話でのシーンの流れは、①オルファンスとグランツが話すシーン、②そこにアニスフィアとユフィリアが登場して、四人で話すシーン、③ユフィリアの助手採用を認めたオルファンス・グランツがバルコニーで話すシーン、④助手採用が認められて、アニスフィア・ユフィリア・イリアでお茶を飲むシーン、⑤同じ三人が工房に移動して話すシーン、⑥アニスフィア・ユフィリアの寝室でのシーン、に分けることができる。

 アニスフィア・ユフィリア、二人の関係性が大きく変容する②④⑤⑥のシーンである。ここでは、特に②に着目して、最後に④⑤⑥のシーンについて簡単に言及する。

 

四転させる仕切り

 ②のシーンでは、四人が一堂に会する。このシーンで、最も重要なのは、アニスフィアとユフィリアの直接の関係性が進展すること、あるいは明示的にアニスフィアが出したユフィリアを助手にする提案が受け入れられることではない。そうではなく、アニスフィアとオルファンスの親子関係を見たグランツが、自分とユフィリアの関係性を問い直し、彼女に寄り添って、本心を聞きくことにある。ここで語られた提案が認められたことは、③のシーンで、オルファンス・グランツが、アニスフィア会話から分かるし、アニスフィアとユフィリアの関係性が進展するのは、特に⑥のシーンで見られる。

 このシーンでの会話は、アニスフィアが入ってきた扉を正面にして、右手の空間で続く。部屋の中央には、仕切りが立てられ、四人がいる右手側と左手側に部屋の空間が分けられる。その空間で、アルガルドの婚約破棄宣言、ユフィリアの助手提案など、王家を揺るがすような、出来事が語られる。そのため、クローズアップが多用され、各人の感情が溢れる表情がデフォルメ・特殊効果を用いて、いかにもアニメらしく表現される。例えば、アニスフィアの突飛な提案に面を食らうオルファンス・グランツの様子やアニスフィアの奔放っぷりに怒りを露わにするオルファンス、そしてユフィリアを気遣うグランツとその思いに泣き出すユフィリアなど、である。

 しかし、ここでの注目点は、仕切りにあった。この仕切りが織りなす効果を見ていく。

 まず、仕切りの明白な効果は、仕切りが広い一部屋にある左側の空間を締めだし、画面の弛緩を防ぎ、同時に、右側に四人を押し込めることで、四人だけの会話という側面を演出する。

 仕切りはこのように、空間を仕切って、画面を制御するのみではなく、他の効果も生み出している。それは、②のシーンで、左手の空間から、彼女たちがいる右手の空間を映す四度のショットを可能にし、そのショットを話の転換点として、使用できることである。

 ここでの話は、前半・後半に分けることができる。前半は、アニスフィアがアルガルドの婚約破棄を伝え、ユフィリアを彼女の助手に迎えることを提案し、二人の父親を説得し、ユフィリアと(物理的・精神的)距離を詰めるところである。後半は、ユフィリアとグランツがお互いに、本心を見せるシーンである。前半で、アニスフィアが両家の父親を説得する、お近づきの順当なステップを踏みながら、後半では、⑥のシーン(寝室のシーン)の伏線となるユフィリアの完璧さを表現し、彼女の内面を掘り下げている。これらを、ワンシーンで、個々の話がもつれることなく、整序された形で、展開される。展開のまとまりに一役買っているのが、仕切りが作った空間の位置からのロングショットである。

 

 四度のロングショットをきっかけに、シーンの主題が変わっていく。一度目のロングショット(本編:6分~)までは、アニスフィアから、アルガルドがユフィリアとの婚約を破棄し、その事実を夜会で宣言したことが伝えられる。そして、一度目のロングショット直前に、アニスフィアが「ユフィリア嬢をくださいませ」と宣言することから、このシーン、及び本作が始まると言っても過言ではない。この言葉をきっかけに、オルファンスが激しい剣幕で、アニスフィアに迫り、彼女と彼の口論が開始する。注目したいのは、議論が国外に嫁を出すという国の問題を主題にして説得を試みるので、この国の国王であり父親であるオルファンスがターゲットとなることだ。そのため、グランツを抜いた一度目のロングショットのシーンを挟んで、アニスフィアがユフィリアを褒めるのに力が入り、「美人でかわいい」と私情が漏れ、カメラが冷ややかな俯瞰になるまで(本編:7分29秒~)、グランツが一分半にわたって、画面に映らないことだ。

 俯瞰のショットを経て、グランツへの説得が始まる。魔学を用いたユフィリアの名誉挽回案である。グランツから魔学の話を受けて、アニスフィアは自分の成果をユフィリアに発表させ、名誉挽回を図る案を提案する。魔学の話から、彼女が製作した魔学の数々が画面に映る。それに続いて、左手の空間にある魔学のポットを映し、カットバックで隣の空間から二度目のロングショット(本編:8分6秒~)で四人を映す。グランツもこの提案に一定の効果があることを認めると、話はアニスフィア対オルファンス・グランツの構図からアニスフィアとユフィリアに移る。

 端緒は前二者と同様に、隣室からの三度目のロングショット(本編:8分50秒~)を挟むことである。自分に助手が務まるか不安を露わにするユフィリアに、アニスフィアは自分にもメリットがあることを優しく伝える。そして、アニスフィアがユフィリアへ物理的に距離を詰めることで、心の距離も詰められると思われたが、アニスフィアが王位継承権を破棄する際に吐いた、過去の発言を暴露され、父親二人にユフィリアへの接近を阻まれる。

 彼女の接近は、彼女の発言を聞いたユフィリアがアニスフィアから距離を取ることで終わってしまう。アニスフィアに代わって、ユフィリアの父グランツが彼女の元へ進む。彼は、わがままを突き通すアニスフィアとそんな彼女を叱るオルファンスを見て、ユフィリアに歩を進め、これまで責務を果たしてきたユフィリアに向き合う。彼と娘の関係は、オルファンスとアニスフィアと対比される関係性、そしてグランツの手を巡る一連のやり取りによって、演出される。パレッティア親子の関係性を見て、グランツはユフィリアに手を伸ばそうとするが、彼女はその手に思わず身構えてしまう。グランツがユフィリアを思い、自分の至らなさを謝罪する。それに対して、彼の言葉にユフィリアは、責務を完璧に全うできなかった自分を責めてしまう。彼女が望まずとも、自らの責務を理解して、彼女なりに奮闘してきた事実を、グランツはそこには、ユフィリアの意志があったのかも疑ってしまうことを伝える。画面は例のごとく、四度目のロングショットでユフィリアを中心に捉える(本編:12分26秒~)。とはいえ、中心とは、右手の仕切りとオルファンス・アニスフィアが目線を向ける先という風に、視聴者の視点が誘導される先という意味である。ここで、ユフィリアを最も突き放したような構図を利用し、ブラックアウトさせる。そうすることで、侯爵家の娘として、必死に責務を果たしてきたユフィリアの深い悲しみやふがいなさを画面に映しこむ。次に画面が映ると、先ほど戻されたグランツの手が、ユフィリアの頭を優しくなでるよう様子が見える。それを受けて、ユフィリアが目を丸くして、驚いている様子から、ユフィリアとグランツのこれまでの関係性がよく見て取れる。そして、優しくユフィリアをなでながら、彼女に王妃になるのは辛いかと問う。自他ともに厳しいユフィリアは、おそらくそこで初めて、自分の責務について、本心を打ち明けることができる。

 ふがいなさのどん底を、ロングショットで演出するからこそ、その後のグランツの撫でる手の優しさ、そして彼女の本心であるうなずきに、静かだが深い印象を与えることができる。

 

 以上で、四度の隣室からのロングショットを利用して、同一のシーンでありながら、四つの展開を作り上げられていることを見てきた。ここでは、アニスフィアが二人の父親を説得する、そしてアニスフィアと少し近づく、さらにユフィリアとグランツが本心を語り合うことが、それぞれの話から流れを引き継ぎつつも、お互いに整序された甲地で展開されていた。

 本シーンでは、部屋を分かつ仕切りは、空間を分かつだけではなく、画面の構成面、視聴者の注目の点でも、弛緩させがちなロングショットに注目点を与え、話の起伏を分割する役割を担い、さらにこのシーンで最も劇的なユフィリアに本心を吐露させるシーンを華麗に演出して見せる*1

 

百合と革命

 そして、話は、アニスフィア・ユフィリアとイリアが話をするシーンに移る。ユフィリアはアニスフィアに向き合うが、アニスフィアの横には、彼女の侍女イリアが控えているため、彼女たちの中が進展するのは、次の寝室のシーンまで、待たれなければならない。イリアが進展を阻害することで、ここでは、魔学やパレッティア王国の状況を説明するシーンを作ることができる。ユフィリアがアニスフィアを「この国の劇薬」と形容するように、彼女が提唱する魔学は、王国の権力構造を一変させる力を持っている。魔法が使える者のみの権力の独占を排除し、市民にも魔法と同等の力を与え、権力を貪る貴族には、強烈な浄化作用を伴う。この意味で、本作の「魔法革命」が今後展開されることが予想できる。

 さらに、寝室では、部屋の隅に、着替え用の仕切りが備え付けられており、アニスフィアは着替えるユフィリアに果敢に絡みに行く。彼女たちは、二人で同じベッドに入る。二人がふざけていた部屋隅の意味ありげな空間は、ベッドの上で普通のものとなる。ユフィリアはアニスフィアに聞きたかったことを、アニスフィアは彼女の本心をお互いに話し、二人の仲は深まっていく。

 

 「革命」と「百合」の二点で、魔学を巡るパレッティア王国の行く末、そしてアニスフィアとユフィリアの関わりがどのように進展してくのか、期待して見守りたい。

*1:本ブログでは触れられなかったが、このシーンでの、話している人物、話の内容に応じて、立ち位置が変わっていくことを追いかけるのもおもしろいように感じた。例えば、前半部分では、グランツから見て、三人はユフィリアを頂点とする三角形となり、ユフィリアの話題を議論しながらも、白熱するのは、底辺のアニスフィア・オルファンのラインである点など。