【アニメ考察】最終戦からの入り口―『THE FIRST SLAM DUNK』

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© 2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

 

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●原作
井上雄彦『SLUM DUNK』(週刊少年ジャンプ 刊)

●スタッフ
原作・脚本・監督:井上雄彦/演出:宮原直樹・大橋聡雄・元田康弘・菅沼芙実彦・鎌谷悠・北田勝彦/CGディレクター:中沢大樹/キャラクターデザイン・作画監督:江原康之・井上雄彦/サブキャラクターデザイン:番由紀子/キャラクターモデリング・スーパーバイザー:吉國圭/BG&プロップモデリング・スーパーバイザー:佐藤裕記/テクニカル&リギング・スーパーバイザー:西谷浩人/シニアアニメーション・スーパーバイザー/松井一樹:テクニカルアニメーション・スーパーバイザー:牧野快/シミュレーション・スーパーバイザー:小川大祐/エフェクト・スーパーバイザー:松浦太郎/シニアライティングコンポジット・スーパーバイザー:木全俊明/ライティングコンポジット・スーパーバイザー:新井啓介・鎌田匡晃/美術監督小倉一男/美術設定:須江信人・綱頭瑛子/色彩設計:古性史織・中野尚美/撮影監督:中村俊介/編集:瀧田隆一/音響演出:笠松広司/録音:名倉靖/キャスティングプロデューサー:杉山好美/音楽プロデューサー:小池隆太/2Dプロデューサー:毛利健太郎/CGプロデューサー:小倉裕太/制作統括:北﨑広実・氷見武士/アニメーションプロデューサー:西川和宏/プロデューサー:松井俊之/音楽:武部聡志・TAKUMA(10-FEET)

アニメーション制作:東映アニメーションダンデライオンアニメーションスタジオ

●キャラクター&キャスト
宮城リョータ仲村宗悟三井寿笠間淳流川楓:神尾晋一郎/桜木花道木村昴赤木剛憲三宅健太

公式サイト:映画『THE FIRST SLAM DUNK』 (slamdunk-movie.jp)
公式Twitter映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式 (@movie_slamdunk) / Twitter

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

 往年の名作である『SLUM DANK』が、新作劇場アニメとなって帰ってきた。原作者の井上 雄彦を監督に迎え、東映アニメーションダンデライオンアニメーションがアニメーション制作を担当する。

 再アニメ化に、声優交代に起因した炎上騒動もありながらも、既存ファンを中心に注目を集める。直近では、公開23日間で動員340万人、興行収入50億円を突破した*1。既存ファンの盛り上がりとともに、新規ファンを獲得して、人気を伸ばしている。

 物語は、原作の中でも特に人気を博したインターハイの山王工業高校との試合が描かれる。インターハイ三連覇で、絶対王者の山王との壮絶な激闘が描かれ、またその試合の中で、湘北のポイントガード宮城を中心に登場人物たちのドラマが繰り広げられる。

 原作ありで、原作ファン待望の映画化とはいえ、本作の内容は、原作・テレビアニメ未履修の観客にかなり優しい*2。既存ファンのみならず、新規ファンを取り込んで、どちらの観客も楽しめるよう意識された作品作りになっているように感じた。

 コート上の選手を中心に、3DCGが使用され、試合中に駆け、ボールを追う姿が躍動感満点に描かれる。それだけではなく、戦況に応じて変わるポジショニングが、コートを俯瞰する視点によって、楽しめる。人物だけでなく、ボールやゴール・リングなどの無機物にも使用され、無機物にも自然な動きが見える。

 こういったバスケ×アニメのおもしろさとともに、本作の魅力はそれだけにとどまらない。湘北と山王の戦いに手に汗握りながら、その感情を更に高めるドラマが試合の合間に挟まれ、バスケの競技そのものから生まれる表層的な熱さに、そこに各選手たちのドラマを読み込んで、より深層的な熱さが足される。

 本ブログでは、『THE FIRST SLAM DUNK』の魅力を二つの観点から見ていきたい。第一に、バスケマンガ、バスケアニメであるがゆえに、本作全編にわたる湘北vs.山王の激闘の魅力である。ここでは、主にバスケの試合に関わることに触れたい。第二に、ドラマの観点である。本作はスポーツ的な熱さだけでなく、合間の回想により登場人物の厚みを付加するドラマが導入される。後の方では、バスケの試合に読み込むドラマに関することに言及する。

 

手に汗握るバスケの魅力

 スポーツアニメの醍醐味である試合の熱さが、まずは前面に押し出される。湘北は、王者の山王に互角に渡り合う。拮抗した点差で常にひりつく序盤、点差が付いて絶望的な状況に陥る中盤、大きく開いた点差を怒涛に追いあげていく終盤、そして遂には試合終了の間際にブザービートで試合を決するラストに連なっていく。そこには、単純にバスケの試合展開の魅力が詰まっている。

 また、同時に試合展開の魅力だけではなく、バスケならではの攻守切り替えの早さなどの独特のリズムや激しさ、マッチアップによるライバル性が、観客を加熱していく。

 

バスケの基本的な動き

 観客を熱くする全体の試合展開から、個別の部分へ目を向けたい。バスケのダイナミックな動きが、前述したように、3DCGの技術が用いられて、豪快に描かれる。攻守の交代に合わせて往復するスプリント、プレッシャーが目に見えるほどの寄せ、ボールを受ける・スペースを作るための細かなフェイントの動きが、それぞれに大胆かつ丁寧に描かれる。こういった細かな部分を見るだけでも、バスケのおもしろさが見える。

 そして、再現されるバスケの魅力は、各人の武器にも由来する。宮城のドライブと冷静なゲームメイク(そこから生まれるパス)、三井の正確なスリーポイントシュート、流川のマルチなオフェンス、赤木のフィジカル、桜木の天性のジャンプ力と反射神経は随所に収められる。これらの典型的なバスケにおける各人の武器は、典型的であるがゆえに、各人のマッチアップ相手と衝突する。この点で、試合全体より小さい単位での勝負、すなわちマッチアップ相手とのタイマンが成立する。

 

マッチアップ相手との勝負

 上記したバスケのプレー自体が持つ魅力とは別に、マッチアップする相手との勝負、すなわち敵味方の関係性も観客を熱くする。ポイントガード同士やセンター同士が、攻守にわたってぶつかり合う。守備があれば、攻撃もあるタイマンの構図が作れる。そこでは、一方が攻撃の名手であり、他方が守備の名手という矛と盾がぶつかり合うのではなく、どちらもが矛と盾を持って衝突する。攻撃でやられたら攻撃でやり返すこともできるし、守備でやられたら守備でやり返すこともできる。重要なのは、基本的にマッチアップ相手が、チームごとに微妙に違いはあるものの、自分と同じ役割を果たす同ポジションだということだ。同ポジションが直接に対峙する、この構図に熱さが生まれる。

 この点は、試合の勝敗とは別に、観客を熱くさせる要素となり得る。終始冷静に試合をコントロールする深津に対して、宮城はマッチアップする日本一のポイントガードとうたわれる深津にビビりながらも、臆面にも出さず、勝利に向けて冷静にゲームメイクしていく。流川と沢北のマッチアップ両校のエース対決が見られる。

 マッチアップ相手との個別の勝負が、試合の勝敗を決めてしまうほどに影響が大きい。それゆえに、センター対決で湘北の赤木を圧倒した河田が、中盤以降湘北に流れを呼び込んでいた桜木にマークにつくのも、意味を持たせられる。すなわち、一つには、湘北に流れを呼び込む桜木を正当に評価し、自らが王者で、かつ相手(桜木)がど素人である二重の驕りに陥ることなく、格下でも全力に勝ちに来る、山王が絶対王者であるゆえんが示唆される。またもう一つには、「何か」光るものを有するように見える桜木に、光るものを有する山王サイドが、確かに桜木に才能を見出し、マーク変更によって、そのことが明示される。

 試合展開と個々の勝負、それぞれが熱さを生む。各選手間の勝負があってこそ、ラストに桜木がシュートを決めて、試合を決するのに感動が生じる。ただこれだけを指摘すると、それはバスケマンガ・アニメ全般に当てはまることではないか、と思われる。こう考えたときに、浮かび上がってくるのが、バスケでの選手たちの成長を感じさせてくれる『THE FIRST SLAM DUNK』のドラマである。

 

キャラクターのドラマ

 バスケの試合と同時に、宮城の視点を中心に、過去の回想が挿入される。死んだ兄を巡る彼と母の確執や彼と湘北メンバーとの出会いが語られる。回想を見ることで、原作を知らずとも、メンバーの確執や関係性が明らかになる。それにより、単なるバスケの魅力を十分に表現しきった作品に留まらず、バスケの魅力を効果的に描きながら、そこにこのメンバーで、この瞬間の試合・勝負にドラマを読み込ませ、物語への没入を高める。

 ドラマは、二通りで魅力を追加する。一つは、そもそもの試合そのものや、前述した選手間のマッチアップ相手との勝負に熱さ以外に、湘北メンバー内のドラマによる厚みを加える。もう一つは、本作の主な視点人物となる宮城の成長というドラマがあり、インターハイの一試合に深みを与える。

 

チーム内のドラマ

 第一のマッチアップ相手との勝負では、いわばバスケであれば、セオリーのフォーメーション(マンツーマン)を利用して、観客をたぎらせる。さらに、そこに湘北メンバーのドラマも簡単に紹介され、試合と勝負、それぞれの戦いに厚みを与える。例えば、エース対決の流川と沢北は、流川と宮城が、インターハイの看板選手としてポスターに写る沢北に勝つことを誓い合うシーンがあり、また沢北の側では、日本高校バスケ界でやれることをやった自分に、日本で必要な体験を与えるよう神社でお祈りをしているシーンが挟まれる。このシーンの後に、沢北に封じ込められていた流川が、パスを選択して、チームで山王に勝とうとする姿勢がうかがえ、逆に沢北が無敗の絶対的エースであるがゆえに、パスの選択肢がないことを、桜木に読まれ、桜木・赤木のディフェンスに抑えられる。流川の姿勢が、湘北の勝利に繋がり、沢北には日本で残された敗北経験に繋がる。試合後の山王監督、堂本の「負けたことがあるというのが、いつか大きな財産になる」という言葉は、日本高校バスケ界でやり残した経験を願った沢北に最も響く。

 また、疲労の限界が近い三井に宮城はパスを回し続ける。二人の関係性についても、回想で描かれる。三井が宮城に因縁をつけたことで、二人の衝突が起こり、そのことをきっかけに二人が、三井はけがによる挫折を乗り越え、宮城は母(や死んだ兄)と確執を生むバスケへの思いを確かめ、湘北バスケ部に帰ってくる。そのような経緯があった二人のラインに、へとへとになった三井にパスを供給する宮城の信頼に共感できるようになる。三井は挫折を乗り越え、プライドを折ってまでも、バスケにしがみつくことができる諦めの悪さを見て、宮城はパスの選択ができる。

 このように、湘北チーム内で、過去の様子が追加されることで、山王に現在進行形で挑む彼らの思いを受け取り、試合を見る目に、反映することができる。

 

宮城の成長

 チーム内でのドラマもそうだが、本作はポイントガードの宮城を中心に描かれる。中心とは、現在の試合を彼視点で見ることが多いだけではなく、試合とは別に、過去の回想が彼と彼の兄・母との関係性に焦点が当てられ、また兄を巡って母とのわだかまりを解消し、彼自身の成長が描かれるためである。

 死んだ兄を忘れられない母と宮城は、微妙な関係性を保っている。それぞれに自分が抱える兄の思い出を抱く二人は、兄から離れ、バスケを通してお互いに向き合う。山王戦後の最後には、宮城がバスケ中、肌身離さず装着していた兄の象徴たるリストバンドを母に渡す。兄の抱いた打倒山王の夢を叶えたことで、兄の影を追い、兄の影に追われる宮城の姿は、もうそこにはない。バスケを通して彼は成長する。

 

導入としてのアニメ

 バスケの迫力、そしてバスケに内在的なマッチアップ相手とのライバル関係、さらに宮城を中心とした各選手のドラマが散りばめられ、原作未履修の観客に、懐かしさを欠いた状態でも、「スラムダンク」に虜にしてしまう。それは、バスケの展開が熱い、あるいは人間ドラマがおもしろいだけでなく、両方のいいとこ取りをして、熱いスポーツであるバスケを通して人が成長する姿を観客に見せる。

 ただ、『THE FIRST SLAM DUNK』では、原作の最終戦である山王戦しか描かれない。そのため、通常とは逆の方向で、つまり最終戦から原作を遡って、熱い試合・勝負を繰り広げた、湘北バスケ部の物語を確認せずにはいられない。この意味で、本作は『スラムダンク』への最良の導入とも言えるのではないだろうか。

*1: 興行通信社調べより(『THE FIRST SLAM DUNK』が4週連続で1位!4位に『ブラックナイトパレード』、6位に『かがみの孤城』など3作品が初登場(2022年12月24日-12月25日)/ニュース - CINEMAランキング通信 (kogyotsushin.com))

*2:筆者も未履修だが、いわゆる原作やテレビアニメを見ずに、劇場版を見る設定(人物設定・状況設定)の面でのついていけなさはなかった。