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●原作
金丸祐基 『夫婦以上、恋人未満。』 (KADOKAWA/ヤングエース連載)
●スタッフ
総監督:加戸誉夫/監督:山元隼一/シリーズ構成:荒川稔久/キャラクターデザイン:小林千鶴/色彩設計:ながさか暁/美術監督:阿久澤奈緒子(チーム・ティルドーン)/撮影監督:高畠美里(萌)/編集:茶圓一郎(颱風グラフィックス)/音響監督:山口貴之/音楽:羽深由理/音楽制作:ランティス
アニメーション制作:studio MOTHER/製作:青瞬学院
●キャラクター&キャスト
渡辺星:大西沙織/薬院次郎:山下誠一郎/桜坂詩織:宮下早紀/天神岬波:増田俊樹/賀茂貞春:野上翔/高宮サチ:髙橋ミナミ/大橋ナツミ:和氣あず未/浜野めい:小倉唯/寺船周:内田修一
公式サイト:TVアニメ『夫婦以上、恋人未満。』公式サイト (fuukoi-anime.com)
公式Twitter:TVアニメ『夫婦以上、恋人未満。』公式@2/22BD&DVDBOX発売!! (@fuukoi_anime) / Twitter
※この考察はネタバレを含みます。
概要
高校生の主人公次郎が通う青瞬学院では、夫婦実習がカリキュラムに組まれている。学生は、男女のペアとなり、同じ部屋で夫婦生活を行うというものである。次郎は幼馴染の詩織とのペアを望むも、彼が苦手とするギャルの星(あかり)とペアになってしまう。
本作の主人公は、男子高校生の次郎である。彼とヒロインの一人、詩織は幼馴染である。次郎は彼女のことを想っている。二話では、告白しようとした過去も回想される。また、同じ二話で、詩織もまた次郎のことを想っている。
その関係性の中に、夫婦実習によって、星が入り込む。星の想い人は、岬波で、彼は詩織と夫婦実習のペアとなる。それため、次郎と星は、お互いの恋愛のために、夫婦仲の点数がよいペアにはペア交換が与えられる権利を目指して、仲のよい夫婦を演じる。その演じる過程で、お互いの気持ちが揺れ動き、またその合間に次郎と詩織の中が近づきもする。この二つの恋愛、三角関係をいかに、演出したのか次節で見ていきたい。
夫婦以上な恋人未満と幼馴染以上な恋人未満
次郎と星、次郎と詩織の恋模様が、二話を中心として描かれる。しかも、その様子がお暗示用に描かれるのではなく、一方が夫婦実習という人工的な要因によるもので、他方が特に人工的な要因なしに自然に生まれたものという違いが明確に表現されている。また、人工と天然という対比に加えて、登場人物たちが語る本心と建前にも、異なる演出が付けられている。
二話では、それぞれの組み合わせに、スポットライトが当たるイベントが発生する。そのイベント内で、お互いの距離が縮まるシーンで、次郎と星では人工光が、次郎と詩織では自然光が二人を包んでいる。
次郎と星の場合
前者では、夜に停電し、次郎と星がともにリビングで夜を明かすシーンに着目する。このシーンでは、雷に怯えた状態の星が、停電による暗闇で、本心を露わにする一方で、次郎は同じ状況で本心を隠したり、思わず口に出したりしてしまう。その様子が、停電の暗闇、スマホライト、アロマキャンドルを用いて、細かく演出されている。
停電直後は、暗闇の中、ソファの両サイドにスマホを置いて、光源を確保している。その際、お互いの顔を見て、会話はするが、光源が両サイドにあるため、顔はライトに照らされず、お互いの表情の細かな変化には気づくことができない。しかし、星から頼らせてくれてもと甘えられて、思わず次郎は彼女をかわいいと思った照れから、瞬時に後ろを向いて顔を隠す。彼の表情は、星には暗闇で隠され、さらに後ろを向いて完全に見えなくなるが、スマホの光より、その表情がライトアップされる。それによって、次郎の本心がにじみ出る表情は、視聴者にだけは露わにされる。
その直後、星が火のいらないアロマキャンドルを見つけて、光源はアロマキャンドルへと変更される。アロマキャンドルは、二人の真ん中にある机に置かれるため、二人の顔が照らされて、視聴者からも二人からも表情まではっきりと映る。次郎が星に呼びかけると、目じりの下がった眠そうな表情の星が、アロマキャンドルの光に照らされて、次郎の主観視点できれいに映る。思わず、次郎は抱き寄せた星の裏側の影で、かわいいと口に出してしまう。口に出してしまった事実に、表情がコミカルに崩れる様子が、はっきりと捉えられる。逆に、言われた星は、アロマキャンドルに照れされながらも、寝たふりで、聞いていないふりをしている様子で崩れない寝顔が強調づけられる。彼女は次郎も寝て、アロマキャンドルが消えた暗闇の中で、先ほどの次郎のセリフを思い出して、ふりでごまかした本心の照れから、赤面して表情を崩してしまう。そして、その本心は視聴者だけが見つめるものである。
次郎と詩織の場合
後者の次郎と詩織では、次郎が熱で寝込み、詩織がお見舞いに来るシーンである。彼女とのシーンは、幼馴染らしく現在と回想を行き来する。次郎と詩織のシーンを飾るのは、夕陽、月明りなどの天然光である。夕陽によって幼馴染ならではのノスタルジックな記憶が召喚され、また同様に、月明りにより、ただの幼馴染の枠から外れる予感が見える。天然光によって、お互いの本心を言えなかった回想とそこから進みだす現在が、演出される。
回想シーンでは、小学校・中学校時代が見られる。小学校時代に、詩織が熱を出して、次郎が冷えピタを替えてあげたシーンでは、カーテンの開け放たれた窓から、夕陽が差し込む。中学校時代、お互いに川沿いのベンチで思いを告げようと思っているシーンでは、夕陽により川がオレンジに光輝き、夕暮れのノスタルジックな感情を掻き立てる。次郎側の回想では、オレンジに輝く川らしきものが見えるのみで、川自体がオレンジの光源のように見える。思いを告げようとした際、引っ越しする詩織と面と向かって言葉を交わす。ただ、友達のままではなく、その一歩先に進むために告白しようとした次郎にとっては、何も変わらないというのは、怖気づいた彼の建前の発言である。回想から現在へ戻ってきて、自分と星のこと、詩織のペアのことを、心にもなく話すシーンでは、彼は窓を背にするために、顔に影が掛かる。彼の本心は、夫婦実習をうまく成功させ、詩織とペアになることにあった。しかし、夫婦実習がうまくいかず悩む詩織に対して、建前の表情から打って変って、次郎は本心から強く励ます。詩織に面と向かって強く励ます彼の顔には、窓から差し込む夕陽に照らされている。
時間は進み、次郎と詩織のシーンは、夕暮れから月明りが差す夜へと移ろっていく。今度は月明りが差し込んでいる。次郎は寝ており、その姿を見ながら、詩織は次郎との川での過去を思い出す。詩織の回想では、次郎の回想と同様の川が見えるが、川は異なる使われ方をする。すなわち、詩織の側から駅前のイルミネーション誘おうとするとき、彼女と次郎は顔を合わせない。薄くオレンジに染まる川の反射を用いて、彼女が次郎の顔ではなく、下を向きながらも、勇気を振り絞って本心の想いを伝えようとする様子が、川の反射越しに映し出される。しかし、夕陽だけのせいではない赤らんだ真剣な彼女の表情が見えているのは、視聴者だけである。「友達のままで居られるよね」と言われて、告白に怖気づいた次郎は、意気消沈して、詩織の本心を聞く前に、その場を去ってしまう。
回想から戻ってきて、来ないと思っていた「またね」が到来した彼女は、川での続きを聞いてくれるかなと呟く。寝息を立てる次郎とそばに寄り添う詩織を、部屋の窓から月明りが覆っているが、回想から戻った彼女の顔からは月明りが除けられる。影がかかる状態でこそ初めて、彼女の本心の想いを吐露することができる。
今後の期待ポイント
本心と建前が、顔にかかる光と影、話す態勢によって、細分化された形で演出される。それにより、次郎の星・詩織への態度はもちろん、二人から次郎への態度、そして二人それぞれの性格までも表現される。また、それだけではなく、人工光と自然光を使い分けて、それぞれの恋の発生要因で分ける物語上の役割を果たすと同時に、二種類の異なる光の表現を楽しむことができる。
今後は、一、二話で提示された次郎・星・詩織の三角関係が加速するとともに、主要人物になりそうな岬波が加わり、おそらく四角関係になっていくのだろうか。そのような四角関係をどのように演出していくのか気になるところだ。
とはいえ、演出のことは置いておいて、悩殺的な魅力を持つヒロインのかわいさやポイントポイントで光る表現*1があるなど、随所に見どころがある作品となっている。