【アニメ考察】無自覚主人とからかいメイドの見守り方―『最近雇ったメイドが怪しい』3話

©昆布わかめ/SQUARE ENIX・「最近雇ったメイドが怪しい」製作委員会

 

 本作は、両親を亡くした主人公の悠利と最近雇ったメイドのリリス、二人の日常を描く物語。とは言うものの、二人の日常は普通の主人とメイドの日常ではない。リリスが悠利をからかおうとするも、悠利がリリスを褒めるような本音を毎回口にして、リリスが返り討ちに遭うという「攻守逆転ラブコメディ」の日常である。

 一話二話と二人の視聴者は二人の掛け合いのみを見てきたが、三話Aパートで、登場するつかさお嬢様によって、二人の関係性について違った目線から見ることができる。

 

  youtu.be

●スタッフ
原作:昆布わかめ(掲載 月刊「ガンガンJOKERスクウェア・エニックス刊)/総監督・シリーズ構成:湊未來/監督:星野美鈴/助監督:伊部勇志/キャラクターデザイン:吉野万智/プロップデザイン:杉山了蔵/デザインワークス:松尾真彦/美術監督:中原英統/色彩設計山上愛子(T.D.I)/3Dディレクター:小笠原努/撮影監督:新谷優子/編集:木村勝宏/音響監督:鐘江徹/音楽:藤本コウジ(Sus4 Inc.)・ササキオサム/音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:SILVER LINK. ・BLADE

●キャラクター&キャスト
ゆうり:早見沙織リリス高橋李依/五条院つかさ:堀江由衣/藤崎:小松未可子
中島ナツメ:富田美憂

公式サイト:TVアニメ『最近雇ったメイドが怪しい』 (maid-ga-ayashii.com)
公式TwitterTVアニメ『最近雇ったメイドが怪しい』 (maid-ga-ayashii.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

あらすじ

最近、メイドを雇った。
仕事熱心で真面目だけど、とても…怪しい。
田舎の小さな屋敷の主人・ゆうりは、
突然現れたメイド・リリスの正体を探っていた。
素性も目的も不明だが、不自然なほど良く働き、料理も洗濯も怖いほどに完璧。
そして、あの吸い込まれるような紫の瞳。
きっとリリスは何か企んでいるに違いないと、怪しすぎて、怪しすぎて、
ゆうりは何も手につかなくて困っている…。
これは孤独だった1人の少年と、突然現れた怪しいメイドが、
少しすつ、絆を育んでいく物語。

(TVアニメ『最近雇ったメイドが怪しい』公式サイト 「イントロダクション」より)

 

主人とメイドの見守り方

 三話Aパートで、新たな登場人物つかさお嬢様が登場する。つかさお嬢様が登場してから、彼女の独白によって、物語が進む。彼女が過去に悠利に会っており、悠利が両親を亡くしたことをメイドから聞き、悠利を気に掛けていることが語られる。帰り際、クラスで噂される悠利に、つかさお嬢様は声を掛けようとする。そこで彼女は私たちに身をもって、二人の見守り方を伝授してくれる。

 下校時に、つかさお嬢様が声を掛けようとした矢先、校門にリリスが姿を現し、悠利とリリスが話し始める。この時、つかさお嬢様はリリスを認識できていないので、彼女の視点では、リリスがフレームに収まっているにも関わらず、悠利にのみピントが合っている。悠利とリリスが話しているのを見て初めて、彼女はリリスの存在を認める。二人を見て、つかさお嬢様はとっさに木の陰に隠れてしまう。リリスと悠利の仲睦まじい姿を見て、彼女はまくしたてるように、心の中で語り始める。

 独白が鮮明に聞こえながら、比較的小さな音量で彼女の興奮する吐息が重なる。また、二人を映す構図に手前でも奥でも彼女はフレーム内に映りこんでいる。

 彼女が現在進行形で語りを行っていることが印象付けられる。私たちが二人の関係に没入する以上に、その場にいる彼女は高ぶっている。もちろん、その場にいない私たちよりも、その場にいる彼女の方が高まりは大きいだろうが。

 そのような彼女の姿から、本作の楽しみ方を教わった。それは二人の姿を眺めながら、興奮・突っ込み・注釈を入れながら、ただ静かに見守るのではなく、能動的に意味を付与しながら見守って楽しむことである。

 また、彼女は視聴者の代弁者となるから、互いに感想を言い合うSNS時代の楽しみ方と似た部分がある。彼女の独白に同意・反対しながら、まるで他の人物と同時にその光景を見ているように錯覚する。

 

つかさお嬢様と私たちの違い

 ただ、つかさお嬢様の登場は代弁者の役割にとどまらない。なぜなら、つかさお嬢様は画面外の観察者ではなく、画面内の登場人物であるからだ。そのことが如実に表れるのは、会話する二人と同フレームに収まるつかさお嬢様のショットと悠利→リリス→つかさお嬢様の連続したクローズアップである。

 前者・後者に共に、二人の様子を見るつかさお嬢様の反応を映しながら、彼女が私たちと同じレベルで二人を見ているのではないことを示唆する。特に後者(クローズアップ)の表現は面白い。該当のシーンでは、悠利のクローズアップ―悠利の発言、リリスのクローズアップ―リリスの照れ顔、つかさお嬢様のクローズアップ―つかさお嬢様の興奮する様子が集中線で強調されて映される。

 二人の関係に注目していると、つかさお嬢様のクローズアップは部外者が闖入したかのように感じる。二人の関係性とそれを見るつかさお嬢様が、同じクローズアップにより同程度のレベルで登場するために、二人の関係と部外者の落差とつかさお嬢様の過剰な語りが相まって、思わず頬が綻ぶ瞬間が生まれる。

 

 つかさお嬢様の登場は、悠利とリリスの二人だけの物語に風穴を開ける。二人への熱を帯びた視線・語りは、二人に対する浅い情報しか持たないつかさお嬢様と私たちの類似性と合わせて、私たちに同一化を図るほどに親近感を生ませ、同時にほほえましい笑いを誘う。

 悠利とリリスの二人だけの甘い関係から、つかさお嬢様(と執事のフジサキ)を含んだ複雑な関係性へと変貌する。つかさお嬢様とフジサキを加えて、新たな風吹く『最近雇ったメイドが怪しい』に注目したい。