【アニメ考察】馴染む・反抗す―『リコリス・リコイル』4話

©Spider Lily/アニプレックスABCアニメーションBS11


 第四話では、千束&たきな、そしてリコリスを含む既存秩序に対する敵が登場した。今後の展開でも中心人物になりそうなので、個人的期待も込めつつ、四話について見ていきたい。

 

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●スタッフ
原作:Spider Lily/監督・シリーズ構成:足立慎吾/副監督:丸山裕介/ストーリー原案:アサウラ/キャラクターデザイン:いみぎむる/サブキャラクターデザイン:山本由美子/衣装デザイン:鈴木豪・浮き足/リコリス制服デザイン原案:尾内貴美香/プロップデザイン:朱原デーナ/銃器デザイン:寺岡賢司/銃器作画監督:江間一隆/メインアニメーター・銃器・アクション監修:沢田犬二/美術監督池田真依子/美術設定:六七質・綱頭瑛子(協力)/背景:草薙/色彩設計:佐々木梓/CGディレクター:森岡俊宇/撮影監督:青嶋俊明/編集:須藤瞳/音響監督: 吉田光平/音響効果:上野励/音楽:睦月周平/音楽プロデューサー:山内真治/音楽制作:アニプレックス/チーフプロデューサー:三宅将典/プロデューサー:神宮司学・吉田佳弘・大和田智之/宣伝プロデューサー:高橋里美/制作統括: 柏田真一郎・加藤淳/アニメーションプロデューサー:中柄裕二
制作 :A-1 Pictures/製作:アニプレックスABCアニメーションBS11

●キャラクター&キャスト
錦木千束:安済知佳/井ノ上たきな:若山詩音/中原ミズキ:小清水亜美クルミ久野美咲/ミカ:さかき孝輔

公式サイト:オリジナルTVアニメーション「リコリス・リコイル」公式サイト (lycoris-recoil.com)
公式TwitterオリジナルTVアニメーション「リコリス・リコイル」公式サイト (lycoris-recoil.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

ストーリー

DA本部での一件以降、順調なリコリコライフを送る千束とたきな。そんなある日、千束はたきなの下着が■■■■■なことに気づく……。自分のことに無頓着すぎるたきなに呆れた千束は、たきなをショッピングに連れ出すことに!

リコリス・リコイル』公式サイト STORYより

(Story | オリジナルTVアニメーション「リコリス・リコイル」公式サイト (lycoris-recoil.com))

 

『リコリコ』三話からの日常パート

三話からの連続性

 四話の前半部分(日常jパート)は、三話からの連続性を延長線上に位置づけられる。三話で、たきなが抱えるDAへの未練を断ち切るまではいかないが、緩和することができた。たきなの心残りは、リコリスたちに刻み込まれた価値観から由来する。たきなは、自分の存在意義を、典型的なリコリスと同様に、DAの役に立つこととみなしている。

 たきなの凝り固まった価値観を溶かすのが、千束である。明るい一辺倒ではない、彼女の見せる笑顔、そして三話にて、DAの寮でたきなに、たきなが出会えてうれしいと、素直にはっきりと伝える千束の言葉は、たきなに救いもたらす。結局、三話でDAへの執着から吹っ切れたたきなは、千束と共に模擬選で、フキ・サクラコンビを打ち破る。

 三話は、たきなのDAへの執着を吹っ切りながら、たきなから千束への信頼が深まった回だった。

 

日常パート

 また、四話は三話からの連続性を感じさせ、二人の関係性の進展が見られる、日常パートが中心となっている。二人は、訓練場でお互いのことを知り、買い物に出かけ、カフェでスイーツを食べ、水族館で冗談を言いながら見て回る。カフェで、外国人の手助けをする千束を見ながら、たきなが見せた晴やかな笑顔は印象的だ。たきながDAの価値観を断ち切った三話からの連続性を感じさせつつ、普通の友達(=典型的リコリス以外の人が作りあげる関係性)のような信頼しあった関係性に発展した様子が描かれる。

 とはいえ普通の友達とは言っても、たきなにはいろいろな知らないことがあり、一話同様に千束がリードしていく。その点、千束がたきなに先輩として、教えるのは一話と同型の物語展開である。そして、同型なのは千束がたきなに教えることだけではない。

 一話で早々に、千束は歴代最強リコリスと言われるゆえんをいかんなく発揮する。彼女の突出した能力が発揮される様子を、極秘裏に活動するエージェントに適した演出で、効果づけられていた*1。それと同様に、四話終盤部分では、新たな敵が登場する。彼が登場し、そしてリコリスたちの脅威になる登場人物に見せる演出は、一話での千束の演出と相似した部分がある。

 

リコリスの敵登場

一話と四話の類似性

 一話と四話の同型性は、先ほど指摘した。一話は千束とたきなの出会い、リコリスの先輩として、リコリコの仕事を紹介するのが中心だった。その過程で、ストーカー被害に遭う女性を保護する依頼を受け、千束の能力が示される。

 それに対して、四話は千束とたきなの出会い直しとでも言える。三話でDAへの執着を解消したたきなは、リコリス以外のアイデンティティを持たないエージェントから、リコリコに居場所を持ち、公私ともに信頼できるパートナーができる。四話で、千束がたきなに教えるのは、リコリスの任務とは関係ないことだ。無理に相手に接近してまで非殺傷弾を撃つことを選ぶ千束の非合理的な信念や女性用のパンツについて、パンケーキのおいしさについて、そして何より遊ぶことの楽しさについて、およそリコリスの任務とは関係ないことを、たきなと一緒に体験しながら教える。後半部分は、日常パートから非日常パートへと移行する。ここでは、一話との類似性を利用して、非日常パートに登場する真島をリコリスの敵として演出している。

 

強敵(?)登場

 真島の登場シーンは、短時間の登場だが、印象的に感じる。彼の地下鉄テロをもくろんでいるのに、堂々として歩く姿、特徴的な風貌は、物語の主人公たちに敵対するにふさわしい魅力に満ちている。一話との同型性を思い出すなら、千束が敵を制圧するのに、短時間さによって、リコリスの素質を発揮したのと真島にも同様の効果が見られる。すなわち、彼の登場シーンが短いからこそ、その短い時間内に、犯罪が根絶した都市で、地下鉄テロまがいの行為を行い、さらにはこの都市の秘密を掴むまでに至った事実から、真島の有能さを認めざるを得ない。この点に、彼に厄介な敵という印象(以後、強キャラ感とする)を付与することができる。

 

強キャラ感の創造―真島登場シーン

 強キャラ感を、彼の登場シーン映像とポストクレジットシーンでの映像が高めている。まずは、登場シーンから確認する。

 彼の登場シーンは、以下の一連のショットの連鎖から始まる。①「北押上駅」を屋外からの構図に真島がフレームインするショット、②階段を降りる様子を肩越しショット、③天井上部の障害物から真島の顔がクローズアップでフレームインするショット、④階段を降り切った真島が歩く様子を背後から映すショット、である。その後、彼らが悠々構内を歩く様子を、横からのロングショットのフォローのカメラワークで追いかける。

 ここで注目したいのは、各ショットの持続時間の短さだ。各ショットの短さは、テンポのよさを生む。それにより、真島がテロの実行現場までの移動が、迅速容易に達成できていることを印象付けられる。本作の東京は犯罪が未然に抑止される都市という世界観、日没前から駅構内へ堂々と侵入していく状況、そして前述の迅速さを合わせるなら、真島が、この都市のシステムの穴を適切についた「厄介な」敵=強キャラだと分かる。

 また、テンポのよさは、ショットの短さという映像面と足音の効果的な使用という音声面からも生まれている。各ショットの足音を記述すると、①構外のショットで四歩、②階段を降りるショットで五歩目から四歩、③真島の顔クローズアップシーンで九歩目から三歩、④階段を降り切った真島を後ろから捉えるシーンでは、十二歩目から五歩目に仲間がフレームインしてくる。

 各ショットの足音から足が上がっている間に、次のショットに移るので、ショット間の連続性を感じさせる。そのため、短いショットに違和感がなくなり、強い連続性を感じさせる。

 加えて、①四歩-②四歩-③三歩-④五歩と歩数の変化により、①②→③へ急に加速する感覚を植え付け、④の歩数から①②のリズムに戻るかと思わせて、仲間の足音と④切り替えと同時に鳴るBGMにより、真島の足音をかき消す。

 ①→④を終えると、横からのロングショットで、駅構内を進む真島の姿を映す。彼は、仲間を引き連れ、構内を堂々と進んでいく。④からかかるBGMは緊張感を生み、ロングショットで、かつフォローのカメラワークを使用することで、緊張感とは反する軽い足取りで、構内をずんずんと進んでいくのが、背景が流れるようにフレームアウトしていくことから分かる。

 彼の強キャラ感は、登場からテロまでのスピード感から引き出されている。もちろんそれ以外にも、身体的特徴・服装、他の仲間とは異なる緑髪や構内で一回転する様子、セリフ*2の突飛さからも、彼を普通ではない=「強キャラっぽい」と感じる要因となっている。とはいえ、その前提には、いかにも危険人物が、何かをしようと堂々と駅構内に入っていく、そのスピード感にある。そのスピード感でテロを実行し、生き延びた彼は、この都市の大きな秘密を入手しさえする。

 

強キャラ感の創造―ポストクレジットシーン*3

 次に、ポストクレジットシーンについて言及する。 個人的な解釈になるが、スピード感とは別要因で、四話時点でリコリス及び社会にとって、真島はかなり脅威*4に感じた。というのも、真島とリコリスの立場があまりにも非対称で、一都市を相手取る真島にも分があるように見えたからだ。

 ポストクレジットシーンは、路地裏であるにもかかわらず、画面奥に位置する路地の外から強い光が差し込み、地下鉄から退避した真島を照らしている。身を隠すために、路地裏に逃げ込んだ真島に、光が差しているのは、ただ彼が逃げ出したに留まらない部分が見え、前述してきた何かを秘めた強キャラ感を強める。

 狭い路地からは、狭い範囲しか見えないが、光のせいでその景色さえ見えない。彼が顔を上げ「さあ、始まりだ」と一人呟き、見上げる先には、崩壊しかけの電波塔がそびえたっている。このシーンは、真島の言う「嘘が付けないほど、もっとすげえこと」が電波塔事件に匹敵する事件であることを暗示しつつ、路地の狭さを利用して、真島と電波塔に効果的に視点誘導している。

 このシーンは、暗示と視点誘導という技術的な問題に尽きない。この狭さ・真島という少数の敵から、この街の広いどこかで大規模犯罪を実行できれば、彼のテロは達成される。この狭さは、前半部分に千束とたきなが回ったショッピングモール・カフェ・水族館を含む広い東京と対比される。すなわち、狭い・少数の真島に対して、広い・多数を守らないといけない非対称性である。

 このような形で、ポストクレジットシーンには、真島とリコリスの非対称性が、イメージとして提示されている。両者の非対称性について、設定から敷衍してみる。

 非対称性はリコリスの役目から生じる。役目について、一話冒頭の千束のセリフを参考にする。リコリスが「平和で安全、きれいな東京」を守り、人々にとって「平和は日本人の気質で成り立ってるんだ。そう思えることが一番の幸せ」であり、「それを作るのが」「リコリスの役目」である。つまり、リコリスの真の役目は、東京を守ることではなく、危険は最初から存在せず、日本人の気質によって東京は平和であるという幻想を守ることにある。この幻想を守るためには、犯罪が存在することが人々に広く見聞きされてはいけないし、それ以上に、平和が「日本人の気質」からではなく、リコリスが「きれいにする」ことから成り立っていると知られてはいけない。

 とすると、真島には二点の攻め方がある。第一に、前者を暴露するために、不特定多数の人々が見聞きできる場所で犯罪に及ぶこと、第二に、後者を暴露するために、駅構内で見た事実を代表とするリコリスの真実を、不特定多数の人間に信じ込ませることだ。

 真島とリコリスが非対称である根本的理由は、第一点目については、リコリスがすべての犯罪を未然に防ぐ必要があるのに対して、真島はある程度規模の大きさが必要という条件付きだが、一件の犯罪を達成すればよいためである。第二点目については、リコリスに人の信念はコントロール不可であるし、そもそも上記幻想に反することを言うことが犯罪でリコリスとして排除対象にできるのか不明であるためだ。

 二点を挙げたが、ポストクレジットシーンの真島のセリフから、彼の脅威は、前者の攻め方で千束・たきな含むリコリスに迫ってくると予想できる。

 以上で、登場シーンとポストクレジットシーン両者において、どのように真島の強キャラ感を高めているのか見てきた。前者では、ショットの短さによるスピード感によって、後者では、真島とリコリスの非対称性をイメージにより提示することによって、である。

 

 お互いに以前よりも打ち解け合った二人が、今後どんな息の合ったコンビネーションを見せてくれるのか、また真島と彼女たちリコリスの対決はいかようになるのか、まだまだこの先も『リコリス・リコイル』を見逃せない。

*1:以下参照。

【アニメ考察】『リコリス・リコイル』 1話論 ~平和づくりのエージェントを演出する~ - ハングリーナッツの雑記帳 (hatenablog.com)

*2:「臭うなあ。漂白された、除菌された、健康的で不健全な嘘の臭いだ。バランスをとらなくっちゃなあ」『リコリス・リコイル』四話 真島のセリフより

*3:一話と三話の相似はポストクレジットシーンにも現れている。すなわち、ポストクレジットシーンで、真島は、駅構内でリコリス待ち伏せから逃げ延び、路地裏に逃れる。そこで、真島は見知らぬハッカーのロボ太から連絡を受ける。真島はその電話を切るが、この展開は二話でリコリコにクルミが仲間入りしたのと同様に、真島とロボ太が次話以降、手を組むことが予想できる。この点も、二話でクルミが仲間になる、リコリコのメンバーの展開との類似が見られて、興味深い。

*4:真島の脅威の詳細は、本文に後述していくが、一点補足しておきたい。真島が脅威であるのは、単純に「犯罪が悪いこと」、「人が死ぬ可能性にあること」に理由があるわけではない。架空の爆弾魔が現実世界に存在すると仮定して、真島と比べてみるのは面白い。架空の爆弾魔が東京のどこかに爆弾を仕掛け、そして都民に向かって、「爆弾を東京都内のどこかに隠した」と犯罪予告をする。このとき、最善の結果は、爆弾を見つけ解除し、爆弾魔を逮捕することであり、最悪の結果は、爆弾が爆発し、死傷者が出ることである。

 しかし真島が同様のことを行う場合、最善の結果と最悪の結果は異なったものとなる。つまり、最善の結果は、爆弾を見つけ出し解除し、爆弾魔を抹殺・消去し、さらに犯罪予告が訓練の一環だった等のごまかしができることである。最悪の結果は、爆弾が爆発し、死傷者が出ることのみではなく、本文で記した平和の幻想が崩壊してしまうことだ。この幻想が壊れれば、リコリスという既存秩序が生き延びているにもかかわらず、東京都民は大混乱に陥ってしまう。これこそが、真島が脅威であることの内実である。