【アニメ考察】平和づくりのエージェントを演出するー『リコリス・リコイル』1話

©Spider Lily/アニプレックスABCアニメーションBS11

 

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●スタッフ
原作:Spider Lily/監督・シリーズ構成:足立慎吾/副監督:丸山裕介/ストーリー原案:アサウラ/キャラクターデザイン:いみぎむる/サブキャラクターデザイン:山本由美子/衣装デザイン:鈴木豪・浮き足:リコリス制服デザイン原案:尾内貴美香/プロップデザイン:朱原デーナ/銃器デザイン:寺岡賢司/銃器作画監督:江間一隆/メインアニメーター・銃器・アクション監修:沢田犬二/美術監督池田真依子/美術設定:六七質・綱頭瑛子(協力)/背景:草薙/色彩設計:佐々木梓/CGディレクター:森岡俊宇/撮影監督:青嶋俊明/編集:須藤瞳/音響監督: 吉田光平/音響効果:上野励/音楽:睦月周平/音楽プロデューサー:山内真治/音楽制作:アニプレックス/チーフプロデューサー:三宅将典/プロデューサー:神宮司学・吉田佳弘・大和田智之/宣伝プロデューサー:高橋里美/制作統括: 柏田真一郎・加藤淳/アニメーションプロデューサー:中柄裕二
制作 :A-1 Pictures/製作:アニプレックスABCアニメーションBS11

●キャラクター&キャスト
錦木千束:安済知佳/井ノ上たきな:若山詩音/中原ミズキ:小清水亜美クルミ久野美咲/ミカ:さかき孝輔

公式サイト:オリジナルTVアニメーション「リコリス・リコイル」公式サイト (lycoris-recoil.com)
公式TwitterオリジナルTVアニメーション「リコリス・リコイル」公式サイト (lycoris-recoil.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要

平穏な日々――その裏には秘密がある

犯罪を未然に防ぐ秘密組織――「DA(Direct Attack)」。

そのエージェントである少女たち――「リコリス」。

当たり前の日常も、彼女たちのおかげ。

歴代最強のリコリスと称されるエリート・錦木千束、

優秀だけどワケありリコリス・井ノ上たきなが働く喫茶「リコリコ」もその支部のひとつ。

ここが受けるオーダーは、コーヒーやスイーツの注文から、

こどものお世話、買い物代行、外国人向けの日本語講師etc、

リコリス」らしからぬものばかり。

自由気ままな楽天家、

平和主義の千束とクールで効率主義のたきな、

二人の凸凹コンビのハチャメチャな毎日がはじまる!

(Story | オリジナルTVアニメーション「リコリス・リコイル」公式サイト (lycoris-recoil.com))

 

 今回、現在夏アニメとして絶賛放送中の『リコリス・リコイル』一話を紹介したい。視聴者の理解を促す世界観・キャラクター説明をしつつ、今後の展開を期待させる、理想的な一話だったのではないかと思う。

 『リコリス・リコイル』の世界は、犯罪が存在しない世界である。リコリスというエージェントが暗躍し、犯罪者を消滅させて回っている。それゆえに、世界は平和になっている。だが、それを知っているのは、一部の人間だけで、市民には、街の中心に建つ塔の効果だと信じられている。そのような舞台設定で活躍する二人のエージェントが主人公となる。千束とたきなである。

 以下、『リコリス・リコイル』一話がどのような点で、理想的な一話となっているのか。主として、先の展開を期待させる基礎となる点、すなわち凄腕リコリスである千束に焦点を当ててみる。

 

凄腕リコリスの正体

 千束はリコリスたちに知られた凄腕リコリス。そのように、たきなの口から語られる。だが、リコリスは、裏で活躍するエージェントということもあり、具体的にエピソードが語られて、その凄さが明らかされない。一話の人質救出ミッションから彼女の凄さを、視聴者は目の当たりする。伝聞ではない仕方で、視聴者は、直接に彼女が凄腕かどうか判断する余地がある。その判断で、千束を凄腕と思えれば、千束自身やたきなとの関係性など、凄腕リコリスとして千束の今後に期待することができる。この判断を妥当とする演出を挙げる。

 二人は、喫茶リコリスの任務として、ストーカー被害を訴える女性の警護依頼を引き受ける。千束が二人と別れ、喫茶リコリスに戻っている間に、たきな・女性の後をつける影が現れる。たきなは女性を囮に、その影であるストーカーの正体を一網打尽にしようとする。だが、複数人相手にうまくいかず、攻めあぐねて後退してしまう。

 ちょうどそのタイミングで、たきなの元に、千束が合流する。一瞬で状況を理解し、たきなにお説教をしながら、後方のドローンをノールックで指し示し、狙撃するよう指示する。たきなの狙撃に合わせて、千束は誘拐犯のバンに歩いて近づく。千束による制圧は「派手なアクションなし」で「一瞬の出来事」として描かれる。

 このシーンは一話で唯一、千束の凄さが描かれるシーンである。一話の大半は、喫茶リコリスが辺境部署で、依頼のほとんどが地域のボランティア活動を行っている描写、そのことを説明する千束とそれを聞くたきなの様子が大半を占める。そのため、一話で千束が凄腕と視聴者に納得させるのに、このシーンを視聴者がどのように受け取るかが重要となる。そして、このシーンでは、凄腕エージェントとして、千束がうまく描かれている。

 このシーンの要素は、二つに分けられる。「派手なアクションなし」と「一瞬の出来事」の二つである。前者の「派手なアクションなし」とは、たかが誘拐犯に、自己が持つ戦闘能力を十二分に発揮しているようでは、「凄腕」とは言えないし、そもそもそこまで派手な戦闘を繰り広げるのは、裏で犯罪者を消去しているリコリスの役割と乖離してい。そのため、ここで「派手なアクション」は行われない。また、表立って行動しないリコリスであるからこそ、戦闘力ではなく、与えられた任務をどれだけ迅速・確実に果たすかどうかに、「凄腕」か「凄腕ではない」かを決める基準があるように思う。それゆえに、このシーンでは、千束の戦闘能力よりも、いかにミッションをこなすかで表現されていた。

 後者の点は、この「いかにミッションをこなすか」に関係している。すなわち、最小限の時間で、である。無駄がなく、適切なタイミングで誘拐犯を各個撃破し、依頼人を瞬時に救出する。各動作に分節しても、相手の気を逸らしたすきに歩きながら誘拐犯に近づく様子、バンのドアをうまく使ったアクション、非殺傷弾で制圧に必要な銃弾数を手際よく打ち込む様子などなど、彼女の一挙種一動作からも凄腕エージェントと呼ばれるゆえんがよく分かる。

 さらに、彼女が制圧までに駆ける作中時間が短時間である以上に、視聴者の体感時間は短くなっている。このシーンでは、障害物を挟んだところや千束の移動シーンに細かいカットが挿入されている。そのために、視聴者は千束たちが実際に行動する時間を、さらに削った形で与えられている。それにより、ただでさえ短時間の制圧が、短縮されている。迅速な制圧のさらなる短縮によって、彼女の有能さが際立っている。

 以上で、千束の有能さを視聴者に納得させる巧みな演出について見てきた。視聴者は千束の有能さを理解することで、喫茶リコリスのエージェントとして、彼女がボランティアのような任務に甘んじる謎、また凄腕の彼女が本部ではなく喫茶リコリスという外れた支部に異動になったのかという謎、と謎に引きずられていくのである。そして、塔の崩壊を防いだそのとき、どのような大事件があったのか、興味を尽きさせることはない。

 

相方リコリス(たきな)とリコリコの世界

 もう一人の中心人物たきなも気になる人物だ。

 優等生だったたきなは、冒頭の事件で失敗をし、事件をもみ消す本部の思惑から、本部所属から喫茶リコリスへと左遷された。千束の活発な性格とは反対に、たきなはクールな振舞いでそれほど口数が多くない。そのために、彼女の内面は分からないし、辺境部署の喫茶リコリスに来た彼女が早く本部に戻りたいという真意や目的もよくわからない。また、一話冒頭の作戦で、仲間を人質に取られながら、重機関銃をぶっ放し、犯人を殺害したり、上記したストーカー被害の女性を囮に使ったり、彼女には、通常の尺度では図りきれなさがある。その分からなさから、彼女がどのような人物か今後語られることに期待感も煽られる。

 それだけではなく、そんなたきなと千束との相性も気になるところである。明るく何事も前向きで、エージェントらしくない千束とたきながどのようなコンビになるのか気になるところだ。

 その他、上でも書いたように、この作品の舞台自体が、謎を生み、物語への興味を持続させている。犯罪者を消去することで平和を保っている街の行く末、そして千束とたきなのコンビや喫茶リコリスの面々がどのような顛末を迎えるのか目が離せない。

 

 

 以上、本作の一話から今後の展開を期待させる仕掛けを選択して、紹介した。これ以外にも、秘密組織の支部である和喫茶リコリスはどういう店なのか、他のエージェントは出てくるのか、和喫茶リコリスの面々の掘り下げなど、気になる部分も多い。この後の展開で明らかにされるものもされないものもあるだろうが、今後その点をどのように明かしていくのかは必見である。