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●スタッフ
監督:荒木哲郎/脚本:虚淵玄(ニトロプラス)・大樹連司(ニトロプラス)・佐藤直子/キャラクターデザイン原案:小畑健/音楽:澤野弘之/キャラクターデザイン・総作画監督:門脇聡/メインアニメーター:浅野恭司・千葉崇明/助監督:高橋謙仁・片桐崇/美術監督:吉原俊一郎/撮影監督:山田和弘/CG監督:廣住茂徳/VFXスーパーバイザー:加藤道哉/色彩設計:橋本賢/編集:肥田文/音響監督:三間雅文/音響効果:倉橋静男・山谷尚人/製作:古澤佳寛・和田丈嗣/企画・プロデュース:川村元気
プロデューサー:加瀬未来・中武哲也/アニメーションプロデューサー:山中一樹・林加都恵/音楽プロデューサー:成川沙世子
制作:WIT STUDIO/企画:STORY inc./配給:ワーナー・ブラザース映画
●キャラクター&キャスト
ヒビキ:志尊淳/ウタ:りりあ。/マコト:広瀬アリス/シン:宮野真守/カイ:梶裕貴/ウサギ:千本木彩花/オオサワ:羽多野渉/イソザキ:逢坂良太/電気ニンジャ・リーダー:畠中祐/アンダーテイカー・リーダー:井上麻里奈/関東マッドロブスター・リーダー:三木眞一郎
公式サイト:映画『バブル』オフィシャルサイト|大ヒット上映中! (warnerbros.co.jp)
公式Twitter:映画『バブル』公式 (@bubblemovie_jp) / Twitter
※この考察はネタバレを含みます。
5月13日公開の本作。監督荒木哲郎、脚本に虚淵玄、キャラクターデザインに小畑健を迎えて制作されている。宇宙の脅威にさらされ、運命に翻弄される登場人物たちの様子が小畑デザインのあどけなさの残る少年少女たちとして描かれる。そこでは、WIT STUDIOの強みである躍動感溢れる登場人物の動き、そしてその動きを同程度でカメラが追いかけていく動きの魅力がある。
このように、ドラマ性及び映像的な魅力が詰まった作品に仕上がっている。以下では本作について特に①『人魚姫』と『バブル』の比較(『人魚姫』から『バブル』へ)、②バトルクール(バトルクール 駆ける・跳ぶ・登る)の2点を掘り下げていく。
あらすじ
世界に降り注いだ泡〈バブル〉で、重力が壊れた東京。 ライフラインが断たれた東京は家族を失った一部の若者たちの住処 となり、ビルからビルに駆け回るパルクールのチームバトルの戦場と なっていた。
ある日、危険なプレイスタイルで注目を集めていたエースのヒビキは 無軌道なプレイで重力が歪む海へ落下してしまった。 そこに突如現れた、不思議な力を持つ少女ウタがヒビキの命を救う。 驚異的な身体能力を持つウタは、ヒビキと彼のチームメンバーたちと 共に暮らすことになる。そこには、メンバーたちの面倒を見ながら降泡 現象を観測し続ける科学者マコトの姿もあった。
賑やかな仲間たちと、たわいのない会話で笑い合う日常生活に溶け込んでいくウタ。なぜか二人だけに聴こえるハミングをきっかけに、ヒビキとウタは心を 通わせていく。しかし、ヒビキがウタに触れようとするとウタは悲しげな表情を浮かべて離れてしまうのだった...。
ある日、東京で再び降泡現象がはじまった。降り注ぐ未知の泡、ふたたび沈没の危機に陥る東京。泡が奏でるハミングを聴きとったウタは、突然ヒビキの前 から姿を消してしまう...!なぜ、ウタはヒビキの前に現れたのか、二人は世界を崩壊から救うことができるのか。 二人の運命は、世界を変える驚愕の真実へとつながる一。(『バブル』公式サイトより)
『人魚姫』から『バブル』へ
『人魚姫』元はデンマークの童話である。日本でも絵本になっていたり、ディズニー映画でアニメーション化されていたりするため、大半の人は人魚姫のストーリーを知っているかと思う。本作は、『人魚姫』を下敷きにして制作されている。*1
『人魚姫』から『バブル』の要素で大きく変わっているのは、ヒロインの種族が異なっている。一方が、地球内生命体の人魚姫であるのに対して、他方は地球に飛来した知性的集合体の泡である。どちらもが人間の姿になり、人間の男性に恋をする。
『バブル』では、ヒロインが泡であることから、『人魚姫』が持っている悲劇性を異なった形で、凝縮して物語を展開している。『人魚姫』が王子様と結ばれることができずに泡となってしまうため、愛する二人の悲劇ではなく、彼女の報われなさが悲劇として前面に押し出されている。それに対して、『バブル』では、二人が結ばれたにも関われ、心は通じ合ったにもかかわらず、ヒロインウタが泡であるがゆえに、手を握ることすらできない。そのことは、ヒビキに触れられた指や腕が失われた様子を視覚的に見て、痛々しさは強固なものに感じる。
『人魚姫』から『バブル』へとヒロインの悲劇から恋する二人の悲劇へと転換がなされている。それによって、『人魚姫』から『バブル』への転換は、『人魚姫』が心が通じ合えばという点にあるが、『バブル』では心が通じあるだけでは二人の関係を進めることができない点で前進している。それゆえ、『バブル』の二人がぶつかる不条理さがなお一層彼らの結末に悲劇性を感じさせる。
バトルクール 駆ける・跳ぶ・登る
主人公たちが行うバトルクールという要素も本作ならではの要素だ。
本作全体を貫く映像面での魅力はバトルクールのシーンにあると言っても過言ではない。制作会社のWIT STUDIOの強みを生かし、3DCGを存分に利用し、登場人物たちの駆ける・跳ぶ・登るなどの躍動感溢れる動きを見ることができる。
パルクールの新しさ
この作品で、チーム対抗戦のスポーツとして扱われるバトルクールは、駆ける・跳ぶ・登るなどの行為そのものを指して、一般的にパルクールと呼ばれることが多い。パルクールとは、20世紀後半に誕生した年月の浅いスポーツだ。日本にも「日本パルクール協会」様々な大会を主催する団体が存在する。しかし、協会の歴史も2014年設立とかなり浅い。*2
このように、パルクール自体が現代のスポーツと言える。
空を飛ぶから空を駆ける
また、バトルクールの駆ける・跳ぶという運動そのものも現代を象徴しているように感じる。それはアニメーションの歴史を紐解くなら、ジブリを筆頭として、アニメーションは人間にはないものを願ってきた。その最たるものが、空を飛ぶことだ。ジブリ・ドラえもん・ロボット物など人間の身体以外の力を用いて、空を飛ぶことがアニメーションとして表現されることがしばしばある。
また、『人魚姫』と比較しても顕著な点だ。人魚姫は魔法使いの薬を飲んで、二本の足を授かるが、歩くたびに激痛が走り、地を駆ける喜びを感じるどころではない。むしろ、人魚姫では地を歩く苦痛を一心に受けている。
それに対して、泡のときには宙を浮くことができたウタが人間の姿になり、空を飛ぶことと引き換えに、空を跳ぶことができるようになる。彼女はブルーブレイズの一員として、バトルクールに参加する。大地を蹴って跳び、空を駆けることに喜びを見せる。しかもバトルクールで蹴るのは大地でも、降泡によってできた海の上を飛ぶ。ウタが体現するのは、足で駆け、地を蹴って、飛ぶことの喜びである。
3DCGの新しさ
この喜びを最大限に表現し、観客に感じさせる要素がもう一つの現代的な要素となる。それが前述したバトルクールシーンを描く3DCGの利用である。本作の制作を担うのは、WIT STUDIOである。2013年に放送された初元請作品『進撃の巨人』で発揮されたように、スピード感・躍動感に溢れた作画を生み出すことが特異な制作会社と言える。本作でも、バトルクールのシーンで登場人物たちの動きが作画によって、表現されていた。
それと合わせて、本作に魅力を生んでいるのが、カメラワークである。バトルクール時に、動く登場人物に追いかけるように、カメラが縦横無尽に動く。そのカメラワークの自由さによって、彼らの動きにさらにスピード感が生まれる。当然のことだが、登場人物たちがアニメーション内で移動していると私たちが感じるためには、背景が移動していることが必要だ。(もちろん背景は動かず、作画のみで移動させることも可能だ)
そして、この自由なカメラワークを可能にしているのが、背景を作りこんでいる3DCGの活躍である。この作品において、3DCGの真価が特に発揮しているのは、走る移動動作ではなく、それ以外の跳ぶ・登るなどのくぐるなどの背景移動が多くなる動作である。上の動作を取る登場人物たちに沿って、連続して背景が流れるようにする必要がある。しかも、パルクールでは、後ろの背景が観客に明瞭に見える想定のため、その必要性はぐっと高まる。丁寧に背景を作り上げられることによって、迫力のあるシーンが成立している。
#映画バブル note📔
— 映画『バブル』公式 (@bubblemovie_jp) May 21, 2022
💭東京を舞台にしたパルクールという作業は、実は「進撃の巨人」よりも大変
東京の現実をベースにした舞台を作り、そこをコースにするという作業は、現実をベースにしているからこそ、検証作業も含めて美術チームにとってはかなりチャレンジな作業に。 pic.twitter.com/flRVDAqI7v
本作では『人魚姫』が持つ悲劇性を生かしつつ、悲劇に内在する運命に押しつぶされず、主体的に生きる少年少女の物語でもあり、タイトル『バブル』通りの泡の柔軟な形態と自由に漂う様とあっけなく割れたり、水に返ってしまう様が作品全体に落とし込まれていた。
*1:『バブル』公式パンフレット Director P14 参照
*2:https://parkour.jp/ 日本パルクール協会公式サイト参照